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「イグドラシルの種」その4

 遭遇


 奥のほうに赤い光が見えてきた。どこか広い場所に出るようだ。

 モナは赤い部屋の入り口付近で身を伏せた、セリも慌ててそれに従う。

 いた、あの怪物だ。

 その部屋は高い天井から赤い光が降り注ぎ、床一面に野菜が作られていた。野菜工場だ。この光は地上に降り注ぐ太陽光線を光導管で引き込み、有害な波長をカットしたもので、植物の生育に良いように調整されている。こういった施設は地中の各地に作られ、穴の中の生活を支えていた。

 あの怪物はその中央に立って、ぼーっと上を見上げている。

「何してるんだろう・・・」誰に言うでもなしにセリが呟いた。

 モナはもう一度良く観察してみた。怪物の色は真っ黒。でも赤い光で野菜も真っ黒に見えるのでたぶん緑だろう。ボサボサに伸ばした髪の毛は今にも地面に届きそうだ。

 モナは上に続く階段があることを確認すると、怪物に見つからないように、近くの岩に移動して身を隠した。そして、さっき拾い集めた食べ物を袋に詰め、口を縛り紐を結びつけると、投げ縄の要領で振り回し始めた。モナが紐から手を離すと、袋は一直線に怪物のほうへ飛んでいく。

 手前に落として、怪物の注意を引き、誘い出そうと考えたのだ。

 が、力みすぎたのか袋が怪物の背中に当たってしまった。

 怪物は、振り返ってじーっとこちらのほうを見つめている、モナは立ちすくんでしまって身動きができない。セリは慌てて姉の服を引っぱっり、隠れていた岩の後ろに引き込んだ。

モナは落ち着こうと深呼吸をした。そして、手に紐を持ったままなのに気づいた。そろそろと手繰り寄せるとビリビリに引き裂かれた袋が戻ってきた。

作戦失敗。はあーとため息をついたとたん岩の上に何かが飛び乗る音がした。二人が上を見上げると怪物が口をもぐもぐさせながら覗き込んでいる。

 二人は見上げたまま動くことができなかった。ただ怪物のくちゃくちゃという食べる音だけが響いている。

 やっとのことモナが「いい、向こうの出口まで走るわよ!」と言うが早いか、セリの手をつかんで脱兎のごとく駆け出した。しかし、二人の走る速さが違うため、階段の手前で二人して転がってしまった。モナが頭を上げたとき、怪物はセリに飛びかかろうとしていた。

「ダメー!」

 大きな声に驚いたらしく、怪物はピタッと動きを止めモナの方を見ている。その隙を突いてセリは姉の下に這いよってきた。

 「何か食べ物はないの」

 「飴なら・・・」

 「かして!」モナは受け取った飴の袋からひとつ掴み出すと地面に置いた。そして、二人はそろそろと後ずさりしながら階段を上って行った。


   追走


「どう、ついて来ている?」

 「たぶん・・・」

 モナは、扉を開けようとしていた。そこは光導管が上に伸びている通路への入り口で、開放型の大型エレベーターに出るにはこの通路を通らなければならないのだ。

 「見てきて」

 「嫌だよお・・!」怪物が廊下の角から顔を覗かした。

「来たよ!」

 「開いたわ、さ、入って」

 モナは弟を先に行かせると、扉の前に飴を一個置いて怪物のほうを見た。

 「さあ、ついてらっしゃい」

 ここに来る間も何度か繰り返されたそれは、まるで儀式のようだった。

 怪物のほうも何が気に入ったのだろうか、けして襲ってこようとせず適度な間合いを取ってついて来る。

 通路はかなり急な坂になっているうえ滑りやすいので、手を使わなければ登れなかった。ただ通路といっても、直径2メートルほどの光導管の上の隙間が通れるようになっているだけで、足下からボヤーッとした光が洩れている。本来は洩れることは無いのだが、蓄積した不純物の微かな乱反射がちょうど良い灯りの代わりになっていた。

 モナは光導管の縁に手をかけながらしばらく登っていたが、怪物がついてこないことに気が付いた。体勢を立て直してもっとよく見ようと体を返したとたんバランスを崩し滑りだしてしまった。

 「おねえちゃーん!」

 セリの叫びも空しく、ずり落ちてゆくモナの目に怪物の頭が迫る。と思うまもなく、モナは怪物の頭に乗り上げるようにぶつかって止まった。怪物が下を向いていたので、比較的柔らかい髪の毛がクッションになり何とか大事には至らなかったようだ。

 「いたたたた」それでも痛かったらしい。が、怪物はそんなこと意に介さず下を向いたままだった。

 怪物に食べられてしまうかもしれないと考えていたモナは、不思議に思い、怪物の頭から降りて顔を覗き込んだ。光導管から洩れてくる光に照らされてより不気味に見える怪物の顔はどこか寂しげだ。

そのときモナは怪物のもじゃもじゃの髪の毛の下、額の辺りに目があることに気が付いた。

三つ目の怪物?ペペルギス・タウタレリが三つ目という話は聞いたことが無いわ。

 そう思ったとき、モナは顔を上げた怪物と目が合ってしまった。食べられると思った瞬間、怪物は「ブおー」と大きな声で吼えた。

 モナは慌てて管を駆け上り、真っ青な顔をした弟の側までたどり着いた。

 「何があったの」

 「だいじょうぶ、だいじょうぶよ」

 「あっ!」

 怪物がをもぞもぞしながら登ってくるのが見えた。

 「急いで!」

 モナは弟を押し上げるようにして通路を登りはじめた。

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