脈と心中
「っは、」
金縛りにあった時と同じような息苦しさに、目を覚ました。
目を開けるとまだカーテンの隙間から差し込む光は無く、夜明けを迎えてないと察する。
息苦しさの原因はすぐに分かった。
首を、絞められている。
「っ、とりあえず、はなし、て。」
その声を聞くと、私の首を絞めていた手が緩んだ。
息を落ち着かせて、手を緩めた時人に目を向けると、悲しそうな顔をしていた。
「脈、ちゃんとあるかなと思って。」
「もっとマシな方法ではかってよ」
胸に顔を埋めるとか、そんなロマンチックな方法の方がまだマシだ。
多少引くが。
まだ首に当てられている手に意識が集中する。
その手は私というものを恐れているように感じた。
「雪ちゃん生きてるんだね。」
「何を今更。」
お互い生死を彷徨った事もあるけれど……いや、寧ろ死んだのだが今こうして生きている。
ちゃんと脈をうっているのだ。
「ねえ、…もしも、死んでたらどうしたの?」
興味半分で聞くと時人は静かに目を細めて微笑んだ。
「僕も死んだだけだよ。」
そっかぁ…で終われるようなことでは無い。
「心中は嫌よ。」
「僕は嬉しいよ。」
時々コイツマジでヤバイと思う時がある、それが今だ。
きっと今返答という名の選択肢を間違うと即dead end、ホラーゲームの赤い背景だ。
まだ20歳にもなっていないのに人生というゲームを終えるのは勘弁極まりない。
「雪ちゃんは僕と死ぬのが嫌?」
「えぇ、嫌よ」
はっきり言いすぎたせいか時人の肩がしょんぼり、という効果音をつけてガックリと落ちる。
私はそんなしょぼくれた顔をしている頰に手を添えた。
「……まだ、ね。」
年を重ねて、顔に皺を刻んで、三本足になって、その時、まだ隣にあなたが居るのなら。
「まだかぁ…」
カーテンの隙間から朝日が差し込むと同時に、暗い影が時人から退くようにみえた。
頰に添えた手に顔を擦り付ける時人がとても愛しく感じる。
「もう朝だけど、起きる?」
語りかけると時人は一つ大きく欠伸をした。
「まだ朝だよ、寝よう。」
そう言った時人は私ごと布団へ倒れ毛布を被り始める。
流れで抱きしめられ、反論する気もなくなった。
胸に顔を押し当てるとドク、ドク、と血液の巡る音が聞こえてきた。
…ああ、生きてる。
そんな心地よい音を聞きながら、私はまた睡眠の波に沈んでいくのであった。