ブスとゴミ
もう怖さやら、なんやらでテンパりにテンパってるわたしを見て一言。
「もさい」
もさいっ!?って、なに!?
もさいって、え、もさいって何それ。え?わ、わたしの勉強不足?
「まあいーや。で、名前は?」
「ひっ、」
「んなビビんなって。俺もこんなもさいのに勃ったりしねえし、ましてや殴ったり集ったりしねえから、な?」
なら、この体制を早急に解除すべし…っ!
そう言いたいのに、口はパクパク動くだけで声など出やしない。
というか、ほんとにもさいって何ですか。
なんとなく悪口であるのは察してるけど、ああ、もう何が何やら分からないしどうしたらいいんだ!
そもそも何でこんな状況に!?何でわたしなの!?
今日は高校の入学式で、わたしは真智ちゃんの通っている家から一番近い高校へと入学した。
この不良私学を受験したのは真智ちゃんの勧めがあって、それと滑り止めだからと適当に決めたのもあった。
そう、まさかまさかの滑ったのだ。
それならせめてここじゃない別の学校にと願ったけど、結局今日ここにいるということはそういうことだ。
正直な気持ちは最悪。
真智ちゃんが通ってる手前、大きな声では言えないけどその一言に尽きた。
合格圏内の高校を受けて滑ったというショックは本当に辛いもので、尚且つ地元では、いや県外でも有名であろう不良校に通うだなんて。
あまりのショックに卒倒しそうなのをグッと耐えた。
大丈夫、大学受験は失敗したりしない。
それにこういうところだからこそ良い友達ができたりするってもんだ。
逆境がなんですか、頑張るぞと足に力を込めた。
が、しかし。
どこまでいっても上手くいかないもんだ。
入学式。驚くほどの茶髪率。
流行ってんのかと聞きたくなるほどだった。いや、流行っててもやっちゃダメだけどね!
それから思ったのが茶髪にも色んな色があるんだなということ。
何色かな、と考えたら茶色だけど、茶髪同士比べてみると全然違う色なのだ。
きっとアッシュだマッシュだラッシュだが彼らの中にはあるんでしょうよ。
不幸中の幸いはクラスメイトは比較的大人しそうな人が多かったことだ。
いくつか空席も見られたが、何人かは黒髪ですごくホッとした。
あと女の子がちょっと少ないかな、みたいな。
そこが少し不満だけど、何とかやっていけそうだった。
そうして放課後、緊張の余り誰とも喋ることなく一人悲しく帰ることとなった。
で、今に至る。
意味が分からない?いや、それわたしの台詞です。
歩いてたら急に腕を引かれたのだ。
そのまま体育館裏と思われる場所まで引きずられ、あ、勿論抵抗はしたけどね!
そんでまあ腕ぺちゃみたいな???
「お前さあ、さっきから黙って何考えてるわけ?」
きゅっと、猫みたいな目が細められた。
あれは微笑ましいと思っているのではなく、苛立っているのだということは分かる。
「あ、や、な、なんでこうなっちゃったのかなあ…って、あの、ひ、人違いとかじゃ、ないでしょうかね…?」
「そのために名前聞いてんのにお前が無視してんだろーが、ブス」
「ぶ、ブス…!?」
ブスって、不細工の、ブス!?
初めて言われた暴言にショックが隠せそうにない。
一体わたしは何度ショックを受けたらいいんだ。
「変な顔。で、なに?」
名前が、という主語は言われなくても分かった。
ここで本名を名乗ってもいいものか、いや、でも仮に偽名って何あるんだ!?
「あ、言っとくけど」
ぐいっと近い距離が更に近くなる。
もはやゼロに等しい。少しでも動けばキスしちゃいそうな距離だ。
あ、あ、あ、もう、ええ…っ!
近い、心臓が死にそう、っ無理でしょー!!!
「偽名なんて使おうもんならぶっ殺すから」
「っ、」
ぶ、ぶ、ぶっころ…ああ、不良、不良…。
お母様お父様、今まで育ててくれてありがとうございました。
わたしの最期はどうやら不良に殺されるようです。
今に殺されるんじゃないのかと怯えるなわたしに、不良(♂)は面白い冗談でも言ったように初めて笑みを見せた。
場違いにも、ああ、やっぱ猫っぽいだなんて思った。
「人ってさぁ、嘘つくときは左上見るって言うじゃん?
その様子じゃマジっぽいし、すごいね」
声が身体中に響き渡る。
なんだか色っぽくて、あ、ドギドギがドキドキに変わっちゃいそうなんですけど。
怖さ:ドキドキ=7:3ってところだろうか、何を浮かれているんだ、アホかわたしは!
こんな妙なところまで七三だなんて。
不意に七三で分け目を入れている前髪が気になっちゃったじゃないか!
「で、なんつーの?」
「か、か、かかか香山 佐智ですっ」
「ふーん、そ。やっぱそうなんだ」
「!?」
やっぱそう、って何が!?
「結構苦労しちゃったよ、お前ら似てないし」
「お前ら…?」
「うん、お前と姉ちゃんのことね」
真智ちゃん…?
なんで真智ちゃん?
あれ、わたし変なことに巻き込まれてる?
「お前って可哀想だね、姉と違ってブスだとか」
「!」
最大のコンプレックスをつつかれた。
そう、最大である。
流石にブスだとまではいかずとも、あ、いや、目の前の美男子と比べたら天地の差だし、ブスかもしれないけど、一般的にわたしは平凡な顔をしているのだ。
平凡?最高じゃないか!と非凡に悩まされる真智ちゃんを見ながら自分を励ましたこともある。
だけども、やっぱり一女として、真智ちゃんに憧れていたのだ。
と、同時に同じDNAを持ちながら平凡すぎるほど平凡な自分の顔が嫌で仕方がなかったのだ。
特に一番嫌いなのはあからさまに真智ちゃんと比べられること。
勉強だって、スポーツだって、ダイエットだって必死に頑張ってきたけど、決して追い付くことのない美貌。
そこをこの目の前の男は初対面にして突いてきたのだ。
不良って、不良ってこんなのばっかだ!
無神経で自分が一番偉いと思ってる、最低最悪の社会のゴミだっ!!!
なんて、面と向かって言う度胸もないけど、きっとそっちのが賢い。
下手に刺激して目をつけられるより全然いい。…逃げなんかじゃ、ない。
「なーに?怒っちゃったの?」
ゴミだ、ゴミだゴミだゴミだゴミだ!
「まあいーけど。で、ブス」
「っ、そのブスっての、やめてくれませんか!?」
「じゃあもさ女?」
「なっ、」
もさいって、結局何なんだ!!
ムカツク、悔しい、だから来たくなかった。
お姉ちゃんと同じ高校なんか、来たくなかった!
「ふふっ、じょーだん冗談。もさ女よりもブスのがいーやすいし、だからブスでいーでしょ?」
馬鹿そうな喋り方しやがって!
なにがいーでしょ?だ、よくないよくない!
わたしはブスじゃなくて佐智だ!ブスじゃない!
「お願いがあるんだけどさぁ、聞いてくれる?―――――ブス」
このゴミが!
閲覧ありがとうございました!
20150223 夏野 五朗