「HMSインペリアル」のあとがき
2011年4月から9月にかけて書いた話です。
内容は老軍人が若い女性になって子供を産んだり宗教団体を支配したりするというもの。
子供時代から連綿と続く妄想の中の一時代を具現化したもので、それゆえに本編では語られない設定が数多く出てきます。
そういう部分では読者に「読んでもらおう」としている作品とは言えないのですが、生気ちまたとしてはもっとも愛着のある物語の一つです。
元々は「大将殿」サイドではなくエード教の一兵士を主人公にするつもりで書いていました。
自分たちの宗教指導者が、実は憎むべき敵の親玉だった……ハーフィ・ベリチッカはラスボスだったわけです。
しかも主人公はロボットに乗っていました。
当時の文章がHDDに残っていたので、あえて晒してみましょう。
これが旧作の始まりの部分です。
ひょんなことから軍用ロボットに乗り込むことになり、何だかんだ試行錯誤した結果、隠れた才能を発揮して目前に迫る敵のロボットをあっさりやっつけてしまう。
ワイルド・ソルトはそんなアニメのような境遇に子供の頃から憧れていた。これといって取り柄のない若造が有能な大人たちをなぎ倒していくのがたまらなく素敵に思えた。
しかし今の彼を取り巻く状況はどうだろう。
彼が操縦しているのはさまざまな新技術が投入された「最新鋭の試作機」ではなく、山の上の訓練学校に行けばいくらでも転がっている安物造りの訓練機「コーラル」だった。訓練用のロボットなだけあって、初めてでも簡単に操縦できたのは幸いだったが、原色に近い派手なカラーリングと角ばったデザイン、そしてエアコンの性能の悪さは、ワイルドが子供の頃から抱いていた戦闘ロボットのイメージとはかけ離れたものだった。
初めて見た時には歓喜のあまり鼻血を噴き出したワイルドだったが、今となっては悪い夢でも見ているような気がしていた。自分のピュアな心をバッサリと切り崩され、その奥から見たくもない黒い現実を引きずり出されたような、そんな気分だった。
近くの広場に敵機が降りてきた。逆噴射をかけて着地したのは政府軍の真っ赤なロボットだ。最近のロボットは空だって飛べる。
ワイルドはコクピットのハッチを開けた。暑苦しいヘルメットも脱ぎ捨ててしまえば、目の前の大空はいくつもの線条と飛行機雲に彩られていて、耳をすませば、まるで真昼の花火大会のように豪華な爆発音と、人の悲鳴が聞こえてくる。
「人の悲鳴?」
ワイルドは外のおいしい空気を思いっきり吸いこみ、操縦席に戻った。右手を上に伸ばして機体のハッチを閉める。ちゃんと固定しないと外れてしまうのでキューボラのあたりを少々いじくってカギもつけておく。完璧だ。
まずは状況を確認しよう。(後略)
相当前に書いたものなので雑なのはさておき。
読んでみるとチョイスマリーが大人っぽい女上司だったりと設定の変遷がみられました。
とはいえ主人公がセルロン軍のロボット兵器「ガルダッシュ」を倒して正規団員になったあたりで終わっているので(二重の意味で)パイロット版としか言いようがありません。
ちなみに「インペリアル」も元々はハーフィの搭乗するラスボス機の名前でした。
それが巡洋艦の名前になり、戦い方自体も空中艦隊戦となったのは――なぜでしょうね。私にもわかりません。
ともあれ、前々から宣言しておりますとおり「HMSインペリアル」の後日談として「HMSアリアクラム」をいずれ書きますので、また自己満足をかますことにはなると思います。
よければお付き合いくださいませ。