いつもと違う日だった。
わたしの身に起きた事を、ありのままに説明するぜ。お使いで斧を買いに来たらガラの悪い二人組の男にからまれた。退路を塞がれ困っていたら、見ず知らずのイケメンが助けに入ってくれた。
ベタな展開だと思うだろ?自分でも言っててベタだと思う。
「あぁ!なんだ?コゾウ」
「関係ない奴は引っ込んでな」
「困っている人を目の前にして、関係ないわけないだろ」
突然の乱入者に男達が凄む。だが、凄まれた少年はまったく怯える様子もなく堂々としていた。まとう気配が常人とはまったく違う。
「嫌がっているじゃないか。彼女を早く放すんだ」
「んだと!ガキがしゃしゃり出てんじゃねぇ!」
ガッチリした方の男が少年の胸ぐらを掴んだ。少年は、それでも怯える事なく真っ直ぐ男を睨み続ける。そんな少年の態度がますます男達を苛立たせていた。
「怪我したくなけりゃ、失せな」
「……仕方ないな」
少年は胸ぐらを掴む男の腕を掴み、捻りあげた。
「!!いっ!!!!」
痛みで男が胸ぐらから手を放した瞬間、男の足を払い床に叩きつける。動きに無駄が無い。
「がぁっ!!!」
大きな音と男の声が店に響いた後、店の中は静寂に包まれた。ガラの悪い筋肉質の大人の男が、一人の少年に抑え込まれている光景に誰もが言葉を失った。
ひょろりとした男も、相方がやられて呆けていたが、ハッと我に返ると少年に食って掛かる。
「このガキ!何しやがる!!」
掴んでいたファインの腕を放して、少年に飛び掛かった。
少年は慌てる事なく、さっと男をかわしてそのまま男の腹に拳を叩き込んだ。
「!ぐぅっ!!」
ひょろりとした男は床にうずくまる。それと交代するようにガッチリした男が身を起こし少年を睨む。
「テメェ…」
「これ以上痛い思いをしたくないなら、ここから立ち去れ。彼女の視界から消えるんだ」
「なっ!!」
男の言葉を遮り、少年がビシッと言い渡す。男達は顔を怒りで真っ赤に染めて反撃しようとしたが、少年の手が、腰の剣に添えられるのを見て動きを止めた。
場合によっては剣を抜くことも辞さない。少年の意図が伝わったのか、男達は苦虫を噛み潰したような顔でよろよろと立ちあがり、背を向けて舌打ちする。男達にも分かったようだ。この少年は別格だと。
「しらけたぜ。ガキの相手なんざしてられっか」
負け惜しみを言ってそのまま店を出て行った。
呆然としている間に終わってしまった。
「大丈夫か?怪我はない?」
「あ……うん。ないです。大丈夫。えっと…ありがと、助けてくれて」
「いや、当然のことをしただけだよ」
少年に声をかけられ、しどろもどろに感謝を伝えながら、相手を観察する。
少年は茶色い髪で額に青いバンダナを巻いている。背はレオンと同じくらいで、ファインより頭半分くらい大きい。歳の頃はファインと同じくらいの見た目で16から18歳くらいだろう。もっとも、あくまで外見年齢の話で、人間であろう彼と魔族の血が流れるファインでは歳の取り方が違う。爽やかで整った顔立ちで、真面目で正義感あふれる好青年といった印象だ。当然のこと発言も本心で言ってるらしく、恩着せがましい空気はまったくない。旅装束を着ているのでこの街の人間ではないらしい。どこか育ちの良さを感じさせるたたずまいだが、気どったところはない。世の女の子の理想の彼氏ベスト5に入ってそうなタイプのイケメンである。
「怖い思いをしたね。もう大丈夫だ、安心して」
少し痛ましそうな笑顔を浮かべて優しい言葉をかけてくれる。どうやら男達への恐怖がまだ残っていると思い安心させようとしてくれているようだ。絵に描いたようなイケメンだ。心身共に。
「あ…りがとうございます」
確かに内心ドキドキしている。だが男達にではない。ぶっちゃけあんなゴロツキ共、そこまで脅威を感じちゃいなかった。むしろ彼が男を取り押さえたあたりから心臓がドキドキ言っている。
ちなみに甘いトキメキでは断じてない。そうだったらどんなに良かった事か。実はあんなゴロツキより、彼の方がずっと脅威を感じる対象なのだ。
こんな小さな街に不釣り合いな洗練された雰囲気。大人の男二人相手に怯まぬ度胸。それに釣り合う実力を感じさせる立ち振る舞い。まだ成長途中の少年らしさが残っているが、鍛えられた身体をしている。腰の剣も良い品と見受けられる。街の自警団や腕自慢とは持ってるオーラが違う。どこかの騎士団の人間に間違いない。
つまり、彼の経験値しだいでは魔族の血を感づかれる恐れがある!!
「あの二人の事は、一応自警団に伝えておこう」
「いや、大事にしなくていいですよ。未遂ですし」
助けてくれた相手に対して心苦しいが、少年の一挙一動を観察する。混血だと見破る気配があれば、全力ダッシュだ。まだ若いので魔族との戦闘経験は少なそうだからセーフの可能性が高いが、常人とは違うオーラにやっぱ警戒したくなる。
「そうはいかない。それと、店主も店主だ!店の中であんな事が起きているのに見て見ぬふりなんて、どういうつもりだ!」
少年は納得いかない顔をして否定し、店の奥で成り行きを見ていた店主に向かって怒鳴る。正論だがギョッとした。やばい。大事にされかねん。
店主と思われる壮年の男性が気まずそうな顔で目を泳がせる。
「女の子が悪漢にからまれているのに、何もしないなんて…」
「あー!そ、そうだ!お礼。お礼したいとか思っちゃてんですけど、どうっスかね?是非お茶とかご馳走させてもらえると嬉しいなー!」
少年の腕に抱きついた。少年は目を見開き、顔を赤らめる。
「え?いや、礼なんて別にひつよ…」
「やっぱ恩人にはお礼をしないと!」
「いや、だから礼なんて別…」
「お茶行きましょう。お茶!やっぱこういう時はお茶ですよね!」
「だから礼は…」
「さあさあ!外出ましょう!すぐ出ましょう!今出ましょう!!」
「ちょっ!?待っ……!!」
店主への抗議を続けようとした少年の言葉を、ワザとらしいハイテンションで妨害する。そのままのテンションで、少年の言葉を無視……もとい最後まで言わせず、グイグイと腕を引っ張って店の外へ向かう。途中、斧の棚に目をやるが、、一瞬迷った後すぐに出入り口に目を戻した。少年の抵抗を無視して店から出る。出る瞬間、店主のホッとした顔が目に入った。その顔につられて安堵する。店の前で足を止めず、少年を引っ張ったまま街の中を突き進んだ。
(あぁ…どうしよ、この状況?)
人通りの多い道に出てからも、ぐんぐん進んで行く。
「ちょっと待って、キミ!」
(ここまで来ればいいか)
店から離れた場所で、少年の言葉を聞き入れ足を止める。
「色々言いたい事があるけど、とりあえず…手を放してくれないか……」
そう言えば、店からここまで少年の腕に抱きついたまま歩いていた。少年は顔を真っ赤にして、ファインから目を逸らしている。腕から伝わる感触を意識しないように必死だ。
「あぁ、ごめん」
サッと腕から離れる。本来ならこちらも顔を赤らめるところなのだが、そんな余裕はない。色々言いたい事の中に、ファインが純血でない事が含まれてないだろうか。
「キミ、力強いんだな。驚いたよ。全然止まれなかった」
いやいやいや!微妙な質問きた!やばい、もっと加減して引っ張るべきだった。
「そ、そうかな?その必死だったから!火事場の馬鹿力みたいな?」
「そう……あ、ごめん。女の子に力が強いなんて言って」
「ううん。気にしてないから。……よく言われるし」
「そんな事より、どうして止めたんだ!?あの店主はキミの事見て見ぬふりをしていたんだぞ!」
馬鹿力の件は流してくれたらしい。だが、ファインの行動に納得がいかないと追及してきた。いかに納得いかないか声の強さに出ている。
「あー、うん。それはその…話し合うとして……。道の真ん中で立ち話もなんだし、座らない?」
少し先にある広場のベンチを指差す。少年はそこで初めて、自分が人通りの多い道の真ん中で女の子相手に声を荒げた事に気づいたようだ。道行く人が「痴話喧嘩?」と囁いている。
「!!ご、ごめん。そうだな、座ろう」
少年はまた顔を赤くして頷いた。
ベンチに腰をかけ、少年より先に口を開く。
「助けてくれてありがとう。あなたが助けてくれなかったらどうなっていたか……」
「いや、当然の事をしただけだよ。そんな感謝されるような事じゃない」
ファインの礼に、さらりと返す。
余談だが、ファインは少年に助けてもらったと思っているし、少年もファインを助けたと思っている。だが、もし少年の行動があと一瞬遅ければファインの拳が男の腹を貫いていた。
本当に助けられたのは誰なのか。その事実を知る者はいない。
「それより、なんで止めたんだ?」
先程のように声を荒げる事はなかったが、納得のいかない顔はそのままである。ファインの答え次第では、店に引き返して続きをしかねない。
確かにファインだって、店の人が助けてくれないかと一瞬期待した事はした。でも店主の気まずそうな顔に、文句をぶつける気にはなれなかった。
「……あの二人組がこの街の人間だったからだよ」
「は?それがどうしたんだ?」
「店主からすれば同じ街に住む人間だよ。毎日顔を合わせる相手でしかも常連客。その点わたしは今日限りの行商人。店の事を考えれば見て見ぬふりも仕方ないよ」
「そんな事あってたまるか!困ってる人を目の前にして仕方ない事なんてない!」
こんな言葉で納得するとは思わなかったが、案の定である。間違っている事は正さなければ気が済まないタイプのようだ。
「あなたの言う事は正しいよ。でもそれで店主があの二人に目を付けられたらどうすんの?」
「!それはそうだけど、悪漢に屈するなんて間違ってる。我が身可愛さに他人を見捨てるなんて、臆病者のすることだ。まして自分は店の主で大人の男、被害者のキミは女の子。それなのに見て見ぬふりをするなんて許せないさ!」
正論だ。この少年は正しい。正義感があって行動力もある。理不尽には屈さない強い人だ。本当にそう思う。でも少年の言葉に共感は持てなかった。
「…店主にも家族がいるんだよ。家族と一緒にあのゴロツキのいるこの街で暮らしていかないといけないんだ」
「!それは…」
「あなたは正しいよ。でも正しい行動で守りたいものを守れるとは限らないじゃん。わたしを助ける事と、家族との暮らしを天秤にかけて後者を選んだからって、それを攻めようとは思わないよ」
「………」
少年は目を見開いてショックを受けている。助けてくれた相手に対して言い過ぎたかもしれない。俯いてしまった。気まずい空気が漂う。
「あー。その、ごめんなさい。せっかく助けてくれたのに否定するようなこと言って……。あなたのおかげで助かりました。正しいと思うのは本当です」
「……ふふ」
気まずくなってフォローすると、何故か笑われた。
「ごめん。いまさら敬語なんだなと思って、ちょっと笑えてさ」
「あぁぁぁ。その…すみません。恩人に対して」
「いや、いいよ。さっきみたいにタメ口で話してくれ。歳同じくらいだろ」
(……見た目はな)
「うん。じゃあお言葉に甘えるよ」
「せっかくだけどフォローも必要ないよ。俺の考えが足りなかったんだ」
少年は少し眉を下げて微笑む。その顔に余計に心苦しくなる。怒って反論されても面倒だが、本来正しい人にこんな顔で納得されるのも悲しい。いい人なだけに申し訳なくなる。
「何度も言うけどあなたは正しいよ」
「ありがとう。大丈夫、自分の考えが間違っていたとは思ってないさ。ただ時には正論をぶつければ良いってわけじゃないんだなって思って」
(へぇ。ちょっと驚いたな。清く正しく育ったいいとこの優等生って感じだから、もっとガチガチの思考だと思ってた)
どうやらひたすら正論を突き通すような事はせず、他者の意見を受け入れる柔軟性があるようだ。好感が持てる。
「人を助けるには正しさだけじゃなくて、相手の立場を考える視野の広さと優しさも必要なんだって学べたよ。キミのおかげだ。キミは優しい人なんだな」
関心していたら真っ直ぐな瞳で見つめられた。爽やかな微笑みでの他意のない賛辞にドキッとする。
「いやいや、そんなことは…」
「あるさ。現に俺じゃ考えが回らなかった店主の立場にキミは気づいた。その上で店主を攻めないと決めたキミは優しい人だよ」
(そんな直球でくるなよ!)
真っ直ぐな賛辞に顔に熱が集まる。絶対顔が赤くなってる。
(こいつ、天然か)
イケメン(しかも性格もいいイケメン)に見つめられドキドキしてしていると、少年の瞳に少しの疑惑の色が浮かんだ。
「………キミ、もしかして」
「!!!」
少年がグッと顔を近づけて、瞳を覗き込んできた。顔と顔を接近させて見つめ合う姿は、本来ならさっき以上に赤面する状況なのだが、むしろ集まっていた熱がサッと引き青ざめる。
通り過ぎる人間に見られているのを感じる。周りには恋人同士がイチャついているように見えるのだろう。でも実際はそんな色気のあるものではない。
「いや、まさかな」
スッと少年の瞳から疑惑と警戒の色が消える。時間にすればホンの数秒の間だが、生きた心地がしなかった。自然に入っていた身体の力を抜くと、少年がギョッと目を見開いて顔を離した。
「ごっ、ごめん!別に何かしようとしたわけじゃないんだ!ちょっと気になることがあって!俺の気のせいだったんだけど。いや、あの、本当にごめん!!」
無意識に顔を近づけていたらしく、顔を真っ赤に染めて弁解し始めた。ファインが身体を強張らせていたのも、異性として警戒されたと勘違いしたようだ。
「いいよ。気にしてないから」
(よかった。ばれなかった……)
そんなつもりがなかった事は分かっている。分かっているからこそ血の気が引いたのだ。あの瞳の疑惑の色は、魔族の気配に気づきかけたものだ。幸いもう半分の人間の気配で誤魔化せたようだが、本当に危なかった。やはりこの少年は、只者ではない。
「でも女の子にあんな…」
「それよりお礼がしたいんだけど。とは言ってもあんまり高いものは奢れないんだけどね。申し訳ない」
少年の言葉を遮って話を最初に戻す。なんだかこの少年の言葉を遮ってばかりな気がする。
「あれとかおいしそうだけど、どうかな?」
広場の屋台を指差して提案する。お肉の串焼きの屋台だ。値段も手頃な上、食べ盛りの男子の受けもよさそうである。
お礼をこんなふうに言うとあれだが、さっさとすませて終わらせたい。お使いの途中という事もあるがそれ以上にこの少年の存在がやばい。
(わたしは混血だから気づかれなかったけど、この街には今ディアンとティグリがいるんだ。彼と二人が鉢合わせたらやばい。さっさとこの街からでないと)
大きな街ではない上に、同じ商業区画に純血魔族の二人がいる状況は生きた心地がしないにも程がある。しかも戻るのが遅くなると迎えに来るかもしれない。
「本当にお礼なんていいからさ」
「でも、迷惑もかけちゃったし。あの店に用があっていたんだろ?それなのに連れ出しちゃってさ」
「あぁ、別に平気だよ。特に買いたい物があって入ったわけじゃないから。ちょっと見るだけのつもりだったんだ」
(ひやかしか。まぁそうだろうな)
少年の腰の剣にちらりと目をやる。実に良い剣だ。本来こんな街ではお目に掛かれないレベルの剣である。さぞ値も張る事だろう。そんなもの腰につけてる奴が、小さな街の鍛冶屋で何買うんだって話だ。
「キミこそ買う物があったんだろ?店に戻るなら付き添うけど」
「いやいや、わたしも大丈夫。お使いで行ったんだけど、これっていう物なかったし」
スケイルの斧は次の機会でいいだろう。実際に心惹かれる商品がなかったのも本当だ。
(斧とか大型武器は魔族産の方がいいな)
「そうか。お礼は本当にいいから。お使いの途中ならのんびりしてるとやばいんじゃないか?」
「でも……」
「じゃあ、俺のさっきの無礼をチャラにしてくれないか?それでお互い手打ちと言う事でどうかな?」
爽やかかつ少しくだけた感じの笑顔で提案された。先程の顔面接近イベントは、元々怒っていない。その事は相手も分かっているだろうが、ファインを納得させる為の発言だ。どこまでも恩着せがましくない対応である。
こんないい人を、警戒してさっさと離れたがっている自分が悲しくなる。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えてチャラにしちゃおうかな。あんまり遅くなると心配かけちゃうし」
「送ろうか?さっきの二人組の事もあるし」
「いい!!ホント大丈夫だから!明るいし人通りあるしそんな距離ないから!!」
この場を切り上げられる少年の提案に乗ると、善意あふれる恐ろしい事を言われる。思わず必死に断ってしまった。
「そうかい?じゃあここでお別れだな。俺も連れがいるから行くよ。気を付けて」
「うん。本当にありがと。あなたも気を付けて」
少年はファインの焦りをつっこまず納得してくれた。最後にもう一度礼を言って、お互いに手を振る。
ティグリ達の待つ商会に戻るべく足を踏み出した。
「そういえば」
「ん?」
歩き出してすぐに少年から声を掛けられ振り返る。
「名前聞いてもいいかな?俺はバレンティアっていうんだ」
「そういえば名乗ってなかったね。わたしはファイン」
名乗っても不都合もないし、素直に答える。バレンティアは嬉しそうに笑った。
「ファイン。今日キミに出会えて良かった。ありがとう」
教えられた名前を頭の中に書き込んでいると、爽やかな笑顔でさらりと言われる。思考がフリーズした。
「俺にとってすごく意味のある出会いだと思う。ファインみたいな優しい娘に会えて本当に良かった。ちゃんと名前を呼んで言いたかったんだ。じゃあ、もう行くな。またどこかで会えたら嬉しいよ。ファイン」
そう言い残して背を向け去って行く。その背中を返事もできずに見送った。
うっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
顔に熱が集まるのが分かる。ファインはその場でうずくまった。
(出会えて良かったとか素で言われた!ティグリでイケメン慣れしてるつもりだったけど、舐めてた!イケメンのイケメンな発言の威力マジ舐めてた!こっ恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!なんで素で言えんの!?育ちのいいイケメンってそういうもんなの!?言い馴れちゃったりしてんの!!?)
しばらくその場でうずくまってしまった。通り過ぎる人の訝しげな視線なぞ知った事かである。
「で、なんであんな所でうずくまってたんだ?」
ディアンに呆れた顔をされながら聞かれる。
「どこか具合が悪いの?ファイン」
「たくっ。何してんだよ」
アウルが心配してくれ、レオンも呆れた顔を作りつつ心配してくれている。
実は自分が思っている以上の時間うずくまってしまい、ディアンが迎えに来てくれたのだ。しかもそのディアンの顔を見て、急いで街を出ないといけないのを思い出し、説明もせずに皆を急かして街を出た。
現在、レオンとスケイルの二人とも合流して帰路についている所だ。
ちなみに皆、騎獣に乗っており空の上を移動中である。この子達、騎獣についてはまたの機会に語ろう。
街から離れ危機を脱した今、説明を求められるのは当然なのだが、ゴロツキにからまれたあたりは端折る事にする。何故なら間違いなく怒られるから。それも全員に。
「体調が悪いなら言え。帰ったら診察してやる」
「ううん、だいじょぶ。どこも悪くないよ」
ディアンの言葉に慌てて答える。
「どこも悪くないのになんでうずくまるんだよ?」
「いや、イケメンの発言にやられちゃってさ。ドキドキしちゃっただけ」
「「はあぁぁぁぁぁぁ!!!?」」
レオンの質問に苦笑で答えると、レオンとアウルの声がハモった。二人とも顔が引きつっている。
「お前何やってんだよ!マジで」
「どういう事?ファイン、何があったの?何かされたの?」
「え?いや、ちょっと落ちつこ」
「イケメンってなんだよ!?どうゆう事だ!」
「やっぱり一緒に行くべきだった」
「いや、ちょっ…」
「だいたいお前は危機管理がなってねえんだよ!!」
「もう今度からは一人にしないから」
イケメンの話題は軽く流して、肝心の勘がいい人間がいたという話に移るつもりだったのだが、思った以上に食いつかれてしまった。他の皆に助けを求め視線を向ける。
ディアンは、視線を合わせてもくれない。
スケイルは、これも試練だという眼をして無言で頷いた。
ティグリは、口を押えて笑うのを我慢している。
コルノは、馬鹿を見る目でこっちを見ている。これが一番きつい……。
二人に挟まれ逃げ場なし、助けなしである。二人の気が済むまで小言を聞くしかない。説明はその後だ。
(これ、説明すんの村に着いてからになるんじゃないか?)
心の中で白旗を上げた。
「やっと見つけた」
「ルークスさん」
所変わって先程の街。一人の青年がバレンティアに声をかけた。
「探したよ、バレンティア。勝手に何処に行ってたんだい?」
「すみませんルークスさん。ちょっと散歩してたんです」
「宿屋に大事なものを置きっぱなしにしてかい?せめて一声かけてほしいな」
「本当にすみません、すぐ宿屋に取りに戻ります。すぐ戻るつもりだったんですけど、つい」
青年に謝罪して宿屋に歩き出す。
「何かいい事でもあったのかい?嬉しそうだね」
「そうですか?」
「ふふ。声も弾んでるよ。まぁ無理には聞かないよ。宿屋に急ごう」
「はい」
「本来なら肌身離さず持っててもらいたいんだけどね」
「すみません。気を付けます」
「あれは僕には持つ事もできないから、キミじゃないとね。大変かもしれないけど頑張って」
「ははは」
「聖剣は常人には持つ事もできないからね。頼んだよバレンティア」
「はい、ルークスさん」