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まだいつもと同じ朝だと思った。

大きなテーブルに朝食が並び、皆が席に着いた。長老と呼ばれる髭の長い老人の号令でいただきますの声が響く。ファインは隣に座る子供たちを気にかけながら食べ始める。時々スプーンの持ち方を注意したり、10歳くらいの女の子が自分より小さい子の世話を焼いてる姿に心癒されながら意識の一部をレオンに向け続けている。

(食べてる途中で逃げ出したりしないよな・・・)

 食後、絶対にぶん殴る気満々のファイン。当然レオンはそのことを分かっているが、ファインが警戒する食事途中の逃亡をする気はない。なんせこの村にはこの場所以外に食べる場所はないのだから。食べ盛りの男子にとって食事は放棄できない。

 この村には店が存在しないのだ。今この場にいる大人6人とファインを入れた子供10人が今現在村に存在する全住民であり、皆で共同生活をしている為、店は必要ないのである。ちなみにもう一人大人がいるのだが、今は村の外にいる。


 互いに警戒し合う二人を見てティグリは苦笑する。

(なんで殴られんの分かってるのに、毎度ちょっかい出すんだか。小さい頃は微笑ましかったけど、さすがにもうセクハラだよなぁ・・・。口出しした方がいいのか?)

 ティグリは大人の中で一番若く、20代くらいの青年で、子供たちの良き兄貴分である。

(あー、でもファインは自分の拳で報復ならする気だし、泣きつかれたらでいいか。いや、でもファインの拳も年々重くなってるし・・・、レオンがやばいか?)

 ファインは気の弱い女の子ではない。ガサツとまでいかないがレオンやアウルと兄弟のように一緒に育ってきた為、男勝りな所がある。活発で明るく下の子の面倒見も良いお姉ちゃんなのだが、同年代のレオンに対しては容赦がない。


「ねえ、ティグリ。さっきの新聞には何か気になる記事あった?」

 妹分達の喧嘩に悩んでいたティグリにアウルが声をかける。ファインとレオンもアウルに意識を向けた。

「いや、おもしろい話はなかったな。国境の街でまた小競り合いがあったみたいだ。小規模だが戦闘も起きたらしいな」

「確かにおもしろい話じゃないね。やっぱり戦火が広がるのが停滞ぎみでも、完全に争いはなくならないか」

 ティグリの言葉にアウルはため息をつく。

「そりゃそうだろ。人間も魔族も望んで停滞してんじゃねーんだから。勇者と魔王のおかげで停滞してっけど、どっちもさっさと決着つけてえだろうしな」

「・・・・世知辛い世の中だ・・」

 レオンが二人の話に口を挟み、ファインは難しい顔をする。

 この世界には人間、魔族、エルフが暮らしている。人間と魔族は昔からいがみ合い戦争を続け、エルフはそれに巻き込まれてきた。魔族の方が個々の能力が高いが、人間の方が数が勝っており決着がつかずにいる。勇者とは聖剣に選ばれた人間で、魔王は闇の恩恵を受ける魔族の王様であり、その時代ごとに二人の戦いも繰り広げられてきた・・・のだが、実は現在その勇者と魔王のおかげで戦火の拡大は停滞している。

 今から40年以上前、勇者と魔王の戦いで結果は引き分けたのだが、魔王が負傷し、その時の傷が原因で体を患ったのだ。人間側が優勢に思えるが人間の方が老いるのが早く、傷と老いが原因で両者ともに年々力を弱めていった。なんと勇者は現在80歳の老人である。本来勇者も魔王もとっくに新しく選ばれてもおかしくないのだが、何故か代替わりは起きず現代にいたる。人間も魔族も戦力の要を欠いた状態の為、相手を滅ぼすための決定打が打てずにいるのだ。


「まあ俺らには関係ねーけどな。純血どもが殺し合おうが」

「ちょっと、不謹慎だよ」

 レオンの発言をアウルがたしなめる。ファインは困った顔で二人を見た。

「実際、関係ねーだろ。」

「関係あるなしの問題じゃないでしょ。」

 二人は怒鳴ることはしないが、言い合う。その瞳には、互いに譲らない意志が見える。

 二人はけして嫌い合っている訳ではない。ただ性格や考え方が違い、ぶつかり合ってしまうだけなのだ。そのことは、ファインが誰よりも知っているし、他の皆も理解している。

 普段ならファインが間に入るのだが、今回は話題が悪い。どちらに味方しても、相手の心の傷に踏み込んでしまう。なにより、自分自身、確固たる意見が持てていない問題なのだ。


「その辺にしなさい。二人とも周りを見るんじゃ」

 長老が冷静に制止すると、二人はハッとして周りに目を向けた。

 大人たちは困った顔をし、子供たちは怯え、悲しい顔をしている。

 子供たちの表情に、レオンは決まりの悪い顔をして黙り、アウルは小さな声で「すみません・・・」と呟いた。ファインは隣に座る男の子の頭を撫でる。

 さすが長老。鶴の一声である。

「あー、まぁ・・何日も前の新聞をネタに喧嘩するのもな・・・?」

「・・・そうだね」

 レオンは、隣の子供の頭をワシャワシャ撫でながら、アウルに目配せした。この話題はやめようというレオンに、アウルも同意する。ファインは、ほっと胸をなでおろした。


「つーか、前から思ってたけど、そんな何日も前の古新聞わざわざ送ってもらう必要あんのかよ?情報ってのは新鮮さが命なんじゃねーの?」

「こらこら。クロウさんが、わざわざ鳥を使ってまで届けてくれてんだぞ」

 レオンが話題を変えるように言い、ティグリが苦笑する。

 ちなみに、クロウとは先に述べた村の外に出ている大人である。彼が村の外で買った新聞を、時折送ってくるのだ。

「ここは新聞どころか、噂話も届かないしなぁ」

「まぁ、隠れ住んでるんだから、届いても困るけどね」

 ファインとアウルも話題を変えるのに乗る。


 この村は人間からも魔族からも、そしてエルフからも隠れ住んでいるのだ。広大な自然に囲まれた山奥にあり、近くに他の村も街も存在しない。村の存在を知るのは、住民だけだ。

 何故隠れ住んでいるのか、その理由はファインを含む子供たちにある。

 この村の子供は皆、両親の種族が異なる混血の子供なのだ。人間、魔族、エルフの血が混ざっている為、何処に行っても迫害に合ってしまう。実際、皆迫害によって親が死ぬか、迫害に耐え切れず親に捨てられるかして、この村に暮らしている。

 ちなみに長老をはじめ、大人たちは純血の魔族だ。この村は長老が、何処にも属する事のできない混血の子供を拾い集め創った村である。長老は、子供たちの為に魔族としての暮らしも故郷も全て捨てて村を創ってくれた。子供たちの恩人であり、皆のお祖父ちゃんだ。村の大人たちは長老に賛同した者達で、皆で子供たちを育ててくれている。

 子供たちは兄弟のような関係で、ファイン達が一番年上だ。純血たちの争いの所為で辛い思いをした子供たちにとって、戦争の話題は今でも心の傷をえぐる。口の悪いレオンも、弟妹に辛い顔をされたら黙るしかない。


「外界から隠れてるからこそ、外の情報は多少遅れてでも手に入れないといけないんだ。」

「そーゆーもんかね・・・」

 ティグリの言葉に、レオンはとりあえず納得する。終わってしまった話題に、ファインは別の話題を考える。

「そういえば、ファイン。今朝は遅かったわね?いつもは、朝食作りに参加するのに珍しくお寝坊さんだったわ」

 ファインが話題を見つける前に、30代くらいの女性が声をかけてきた。テスタという村の大人の一人だ。少しからかうような口調で、優しい笑顔を浮かべている。

「あー、うん。なんかよく分かんない夢見てさ。ごめん、寝坊しちゃった」

「あらあら、気にしなくていいのよ。ファインはいつも頑張っているもの」

 ファインの謝罪に、テスタは優しく微笑む。

「なんか目覚めもスッキリしなくてさ。・・・そうそう、目覚めた後に最悪なことがあったんだよね」

 ファインは今朝の事を話すうちに、戦争の話題で忘れかけていた部屋での出来事を思い出した。そのままレオンへと視線を動かす。レオンは、ファインの視線に顔を引き攣らせた。

 

 朝食後、起こるであろう騒動に全員が苦笑する。



(そういえば、胸の痣どうしよ?・・・しばらくして消えなかったら相談すればいいか)

 ファインは、レオンへの怒りを優先し、痣の事は後回しにした。


 この時は、まだいつもと同じ朝だと思っていた。

 村の説明書けました。次話から、物語を動かしていきます。

・・・たぶん。

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