いつもと同じ朝だと思った
遠くで誰かが呼んでる気がする。それもだんだん近づいて来る気もしてきた。でも覚えのない気配な気がする。あれ?やっぱり懐かしい気もする。気のせいな気がしてきた。と言うかこれ・・・・・・
「・・夢な気がする・・・・」
目を開けむくりと起き上がれば、そこはいつもと同じ自分の部屋だ。窓から朝日が差し込んできていた。ベッドの上で一度のびをしてから床に足をおろすとクローゼットに向かいながら寝巻のボタンをはずしていく。
(なんかよく分からない夢だったなぁ)と考えながらシャツを脱ぎ終えクローゼットに手を伸ばすが視界の端に違和感を感じ目を向けた。クローゼットの横には等身大の姿見が置いてあり一人の少女の姿が写っていた。少女の名前はファインという。
寝起きの為普段以上にクセの主張が激しい髪は腰まで伸ばされており、色は灰色に近い銀髪。年齢は16歳から18歳くらいで高くもなければ低くもない平均的な身長をしている。顔は絶世の美少女というほどではないが、緑色の瞳は少女の明るさを感じさせる光を持っていて親しみやすい人柄を感じられる顔つきだ。健康的で活発なカワイイ系といったところか。素材は良いがしゃれっ気がなく磨けば光る事だろう。
姿見に近づき違和感の理由がわかった。胸元に黒い痣の様なものができてたのだ。姿見から目をはなし胸元を見下ろすと確かにある。
「なにこれ?昨日寝る前はなかった・・・よね?」と記憶をたぐってみるが覚えがない。
「それ痣か?そんな所どうやってぶつけたんだよ?」
「いや、それが全然覚えが・・・・・・・!!」
自分以外の声に返事をしかけてハッとする。バッと顔を上げると姿見にうつる自分の背後に同じ年頃の少年がうつっている。サラサラの黒髪できつい印象を受ける三白眼は炎の様な赤い色をしている。少年は平然とした顔で姿見にうつるファインの胸元を見ていた。
ファインは顔を赤く染め強張らせる。自分は今着替えの途中で上半身は下着一枚なのだ!
「レ・・・レ・・レオ――――――――――――――――――――ン!!!!」
ファインが怒りを込めて叫び振り返ると少年・レオンはさっと距離をとってファインの間合いを出る。
「起きてくんのがオセーから見に来てやったんだよ」
ニヤニヤ笑いながら言ってのけ、ファインが怒りと羞恥で固まってる隙にさっさと部屋の外へと逃げて行った。
思考が回復したファインは痣の事など頭の隅へと追いやり、レオンを追うべく急いで着替えを再開する。
「絶対ぶん殴る・・・」
ファインの部屋から逃げのびたレオンは廊下を進み広い部屋に入る。部屋の中心には大きなテーブルがありたくさんのイスが並んでいて、数人の大人と子供たちがいた。イスに座っている者もれば食事の準備をする者もいる。大人の手伝いをする子供たちの姿は実に微笑ましく、平和な朝の風景だ。
「・・・なんかファインの叫び声が聞こえたんだけど、何したわけ?」
イスに座った少年がジトリと睨みながらレオンに声をかける。
少年は12歳から14歳くらいの年頃で身長は小柄。水面を思わせる青い瞳は大きく、女々しくはないが可愛らしい顔立ちをしていて、こげ茶色の髪は前髪が少し長めにカットされてる。
「べっつにー。様子見に行ったら着替え中だっただけだぜ」
レオンは睨まれる事などどこ吹く風でニヤニヤと挑発的に笑う。
「なっ!?いいかげんにそうゆうのやめなよレオン」
「アウルは頭固てぇよな。騒ぐほどのことかよ」
「レオン兄さん、サイテー」
真っ赤になって怒る少年・アウルに、レオンはまったく反省の色を見せずにイスに腰掛ける。その後ろを、長い黒髪をツインテールに結んだ10歳くらいの少女が毒を吐きながら通り過ぎていった。
アウルの言葉はどこ吹く風のレオンも、少女の冷静な非難に一瞬顔を引き攣らせて調理場に消えるその背中を見送る。そこに廊下の方からバタバタと足音が響いてきた。
「レオン!!歯ぁ喰いしばれ!!!」
ファインが怒鳴りながら入ってきて、そのままレオンのもとへ向かって行くが、
「ファイン、朝飯前にホコリたてんな」
レオンが逃げる体制に入る前に、新聞を読んでいた赤い髪の青年が止めに入った。
「・・・ティグリ」
年長者に止められ、ファインは納得行かない表情で足を止める。
「そんな怒んなよ。ガキん時から互いに見てんだろ」
兄貴分のティグリに助けられ、レオンは悪びれず言う。
「子供の時とは違うでしょ。レオンは成長してないの?」
「成長してないのはお前だろ、チビっこ」
「・・・・・・・・」
ファインより先にアウルが反論するが、レオンに馬鹿にされそのまま両者睨み合う。
「レオン!アウルを馬鹿にするな!ありがと、アウル。怒ってくれて」
ファインに笑顔で礼を言われてアウルは照れくさそうに笑い、レオンはおもしろくなさそうな顔をした。
「俺から言わせりゃお前ら3人ともガキの頃と変わんないぜ」
3人を眺めながらティグリは苦笑する。
3人は赤ん坊の頃から一緒に育った幼馴染で、小さい頃から同じようなやりとりを繰り返しているのだ。兄貴分のティグリからすれば、あきれ半分微笑ましさ半分である。
何かとファインにちょっかいをだす捻くれ者の悪ガキ・レオン。それを注意する真面目なアウル。注意してきたアウルを馬鹿にするレオンを怒り、アウルを庇うファイン。変わらない光景だ。
(んで、アウルの味方するファインにレオンが余計に捻くれて、アウルも嬉しいんだけど庇われるのは男として複雑なんだよなぁ。ファインは全然分かってねえし・・・)
苦笑するティグリに3人はバツの悪そうな顔をする。
「ファイン、もうすぐメシになるし今は落ち着けって。レオンをぶっ飛ばすのは我慢しろ、ホコリがたつだろ。長老もそろそろ来るし」
「うー。わかったよ・・・」
再度ティグリに止められファインはしぶしぶ引き下がった。その横でレオンはホッとする。後ろで食器を運んでいた小さな男の子が「おじいちゃん呼んでくるー」と食堂を出て行った。
「・・・・ねぇティグリ、それって朝ご飯の後ならいいってこと?」
アウルがじっとレオンを睨みながら聞く。
「あー。・・・それなら止める理由がねぇな・・・」
ティグリが頭をかきながら言うと、ファインは目を光らせる。
レオンは朝食後、如何にして素早く逃げ出すか退路の確認に目を走らせた。
全然物語が進んでいません。主人公も目立ってないです。次話も世界観や登場人物の説明に文章がとられがちになりそうです。