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攻防戦・・・が始まる前の

作者: マンディヤン

 「・・あ、未経験者大歓迎、資格者優遇?勤務地は・・・・・東京都の―――――――」

 カーソルを移動させながら仕事内容や福利厚生など確認する。しかし、彼女が最も重要視しているのはそういったことではない。

 「うん。仕事内容も給金も悪くないかな・・?勤務時間も8時~17時迄だし、何より勤務地が東京!これが何より重要よね!!」

 そして彼女、華園肖(はなぞのあやか)はホームペジに載せられた採用情報のアイコンをクリックした。









 そう――――――――あの採用情報ページのアイコンをクリックしたのが運命の分かれ目であったのではないかと、私―――華園肖―――は思っている。私が転職したのは東京都某所にある高価なアンティーク家具や安価なインテリア雑貨等を輸入販売する会社だった。私立の四年制大学を卒業して外食企業に就職したのはいいが、日々の仕事についていけず体調を崩し、1年と経たず退職した。その後は実家に戻り、パートやら内職をしながら生活していたが、学生時代から憧れていた(最初の仕事の勤務地は実家も近い関西方面だった)東京で再就職したいと思い、転職サイトを日々巡っていた時に見つけたのがこの会社の求人広告だった。

 募集人数は若干名、仕事内容も事務関係(しかも資格者優遇で未経験者大歓迎!)だったので、今まで関わった事のない異種職種だったが、勤務地が東京だったこともあり応募してみたところ何とか面接まで漕ぎつけた。初めに会社に訪問した時は、予想に反して中々大きな会社だったから驚いた。しかも、面接官はかなり美形な男性で役職は社長秘書!私と同じ日に面接を受けた人たちも凄く驚いていた。中には、面接が終わった後に携帯番号を交換しにいっている強者もいたが(しかも男女関係なく)。

 私は面接が終わった後は、夜行バスの出発時間まで観光しようと思っていたので失礼にならない程度に急いで会社を出た。勿論その後はスーツから着替えて目一杯観光を楽しんだけど。折角東京に来てるのにすぐ帰るとか愚の骨頂だと思うの。


 それから2週間ほど経ってから採用通知がきた時は小躍りするほど喜んだ。東京で一人暮らしは、自分でも解らないくらい学生時代から憧れていた。それがやっと叶うのである。踊り出さないわけがない。

 引っ越し準備は慌ただしく行われた。借りた部屋は会社から電車で一駅(約30分)の所にあり、一通りの家具家電は備付である。部屋自体もそこまで広くないので荷物は最低限に留めた。足りないものは行ってから買えばいいと思っていた。




 初出勤は採用通知が届いてから1か月後。楽しみと緊張と不安を抱えながら出勤した私を待っていたのは――――――――――――


 「あぁ、華園さんおはようございます。」

 キラキラしい笑顔を振りまくのは、面接担当官であった社長秘書の久遠雅貴(くどうまさちか)さん。亜麻色の髪を後ろに撫で付け、シルバーフレームの眼鏡越しに覗く瞳も亜麻色だ。笑うと目尻が垂れる様がさらに彼を優しい風貌に魅せている。

 「今日はこれから簡単に社内を案内した後、華園さんが仕事をする部署で教育係を紹介します。その後、彼から仕事内容の説明と自己紹介。昼食が終わり次第社長に会っていただきます。」

 「しゃ、社長・・・です、か?」

 まさか会社のトップと会うとは思わず、かなりどもってしまった。そんな私を見て久遠さんは苦笑いを漏らした後「大丈夫ですよ。」と肩を軽く叩く。それに幾分緊張が抜けた私は「分かりました。」と返事を返した。


 昼食を食べ終わり、久遠さんの案内で通された社長室は学校の校長室より少し大きいくらいの広さだった。部屋に入った瞬間聞こえたどこの国の言葉か分からない会話はすぐに終わり、社長(と思われる)がこちらを向いた。

 「・・・・ッ。(すげぇ美形だ!)」

 黒より漆黒の髪をオールバックにし、切れ長の瞳は眼光鋭くこちらを見ている。整った鼻梁、シャープな輪郭、座っていても分かる高い身長とがっしりとした体格。そういえば、先程話していた声はセクシーなバリトンではなかったか・・・。

 「(エロだ!エロの粋を集めた人がいるっ・・・てか、絶対堅気じゃない!)」

 滅多にお目にかかれない美形を前に私はプチパニックを起こしていた。挨拶をしなきゃいけないと解っていても、今口を開けば絶対やばいことを叫びそうだった。

 「社長。彼女が今日から事務で新しい入った華園肖さんです。」

 私が平常心ー平常心ーと念じていると、天の助けの如く久遠さんが社長に紹介してくれた。私はその後ぺこりと頭を下げ、改めて自己紹介し、最後は「一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」の言葉で締めくくった。それに対して社長は「・・・あぁ。」と答えたきり黙ってしまった。困った私は隣にいる久遠さんを見上げる。久遠さんも苦笑いしながら私を見下ろしていた。

 「それでは、華園さんには仕事に向かってもらいます。場所は覚えていますね?西園寺(教育係の名前)には連絡を入れておきますので。」

 久遠さんの言葉に私は返事を返し、心持ち足早に社長室を出て行った。社長室の扉が閉まった瞬間、私は大きく息を吐き出した。






 これが初めての社長との邂逅である。あれから1年経っているが、実は私は未だに社長の名前を知らないでいる。と言うか、この会社の人は社長を【社長】と呼び、名前では絶対に呼ばない。そして、1年経って気づいたことは他にもある。それは、この会社がヤのつく自由業な方々の隠れ蓑ではないかということだ。私が働いている事務はそんなことないが、他の部署の人達の人相が明らか「そっち系」が多い。初めて遭遇した時は勿論ビビった。しかしまぁ、そこは腐っても関西人なので可愛く怖がるなんて高等技は使えなかったが・・・・・・。

 「(まぁ、社長からしてやばい雰囲気ぷんぷんしてたし。てかこういうのをやるやくざって【インテリやくざ】って言うんだっけ?【インテリやくざ】がインテリア雑貨を扱うって・・・・意外にダジャレ好き??)」

 今のところ実害は無いし、給料をちゃんと払われてるし、一人暮らしは最高だしで何ら文句はない。深い所まで踏み込まなければ、何かされることもない。

 「ま、着かず離れずの距離が一番ってね。」




 私は知らない。そんなお気楽な考えが吹っ飛ばされる出来事が起こるなんて。そして社長との距離が急激に縮まるなんて―――――――――――――







 社長がやくざってことは久遠さんもやくざの可能性が高いってことだよねー?とこの時の私はのんきもに考えていたのだった。














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