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Ulfhedinn  作者: 雪路 歩
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序章 黎明

 かつて、北の果てには《アスガルズ》と呼ばれる大陸が在った。

 それは、今日では《ミドガルズ》と呼ばれている、緑豊かな大陸の旧名である。

 その大陸をかつて統治していたのは、《イグドラ》と呼ばれる帝国であった。

 その《イグドラ》が民衆達の革命によって解体された後、その大陸は《ミドガルズ》と改名され、今日までその名で広く呼ばれる事となる――


 その大陸は、一年の半分以上が雪に覆われていた。その広大な面積の半分以上には、森々たる大針葉樹林地帯が広がっていた。

 白と緑の織り成す《アスガルズ》――《イグドラ帝国》は、その白と緑の大陸を治める軍事国家であった。


 その当時、表社会では、民衆達が黎明期を迎えていた。それに相反する様にして、イグドラ帝国は黄昏時を迎えていた。

 この相反する二つの急速な変化は、絶対王政の終焉を予期していた。

 その当時、大陸は二つに分離していた。

 一方は《イグドラ帝国》。

 そして、そのもう一方が《グラム共和国》であった。それは数十年の時をかけて、帝国と袂を分かった民衆達が、徐々に大陸の僻地で群れ集う事で形となった新興国であった。

《グラム》は、時の権力者達によって、技術によって得られる恩恵を独占されていた技術者達と、恒久的に身分が変わらぬ事を強いられて来た民衆達とが結託し、帝国から離叛して行った事で生じた歴代初の民主主導で興った国であった。

 その時代、皇帝は最早、絶対的な君主足り得なかった……

 その当時の《グラム》は産業革命に湧いていた。それは権力者達の枷から解き放たれた事で生じた急速な発展であった。抑圧されていたものが、一度抑えを跳ね除けてしまうと、一気に溢れ出すのは道理であった。民衆達の時代は、慌しく、目まぐるしく、進展を続けていた。

 その当時、唯一無二の絶対君主が統治する《獅子の時代》は終焉を迎えつつあり、民衆達が群れ集う事で国を作って行く《狼の時代》へと時代は移ろい始めていた。

 一頭の雄獅子だけが鎮座しハレムを治める様を帝国となぞらえ、一方、雌雄分け隔てなく群れる事で共存して行く狼の様を民衆達になぞらえ、後世ではそれぞれの時代を《獅子の時代》と《狼の時代》と呼ぶ様になる。

 歴史の表では、民衆達が新たな政治体制を建立し、一日でも早く確立せんと、大々的な活動が日々、行われていた。

『権力者達に富や技術が独占されたままでは民衆の未来は無い』――それが《グラム》の民の総意であった。

 民衆達が望む在り様は、最早独立しかあり得なかった。その気運は、日に日に高く、増して行く……

 そして、その願いを、帝国は、貴族達は、権力者達は――認めなかった。

 衝突は免れなかった。黄昏を演出するもの……それはいつの時代に於いても――“戦”。それしかあり得なかった。

 その黄昏は――新時代の始まりは――《狼達》が《獅子》へ宣戦布告する形でもって迎えられた。

 イグドラの九割以上を構成する民衆がグラムへと流れてしまった事で、イグドラが陥落するのは時間の問題かと思われた。

 しかし、軍部によって独占されていた軍事転用が可能な一部の技術と、《六翼双頭の黒獅子》の紋様を冠する大陸最精鋭部隊である皇帝を守護する近衛騎獅団――《熾天騎獅団》の存在によって、その戦況は拮抗する事となる。

 これはまだ《グラム》の民衆達が、一枚岩足り得なかったために起こり得た必然であった。

 その当時、狼達の群れは一つの大きな群れとなるのではなく、無数の群れに分かたれていた。

 その時の狼達はまだ、無数に生じた小さな群れの一つでしかなく、各々がゲリラ的に活動する事でしか攻勢に転ずる事が出来なかった。

 それは、非生産的に惰性の様に、極小規模な衝突を繰り返すのみであった。細く、長く、苦しい日々が続いた……

 後に《獅子と狼達の戦争》と呼ばれるその戦いは、十五年もの長きに渡って続く事となる……――群れる事を忘れた狼達が、獅子に勝てぬのは道理であった。


 一方、歴史の裏では、表社会の影では、無数の“獣達”が暗躍していた。

 各々が望む未来を切り開かんと、混迷の時代を駆け抜けた知られざる者達が存在していた。

 ――今こそ語ろう……これは、忠義に尽くした“気高き黒獅子達”と、時代に翻弄された“幼き狼達”が織り成す物語……


 ――今こそ語ろう。気高き黒獅子と、孤独な狼の物語を……

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