改変された未来で、僕だけが昔を覚えている
AI依存が当たり前になった、ほぼ今と変わらない未来。
昔は「AIが人間を支配する」とか脅威みたいに言われてたけど、
ふたを開けてみれば、ただの便利ツールだった。
ライトは毎朝、バナナをかじりながらスマホに服を選ばせていた。
未来って言っても、やってることはほぼ今と同じ。
ちょっと楽になっただけだ。
俺は佐藤ライト
平凡な高校3年生だ。
特別な才能なんてないけど、
どうでもいいところだけ妙に引っかかる性格だ。
ある日、学校で配られた「統合民生法」のプリントを見て、
ライトはふと違和感を覚える。
――こんな法律、昔はなかった気がする。
友達に聞いても、
「昔からこうだろ」「お前頭おかしいの?」
と返されるだけ。
その夜、ライトはスマホのAIに質問した。
「この法律って、いつ決まったんだ?」
昨日は「19××年に制定されました」と返したAIが、
今日はこう答えた。
『記録は存在しません。最初からこの体系でした』
ライトは手を止めた。
違和感が、日常の底で静かに鳴り始めた。
さらに数日後。
ライトは、昔よく行っていた百貨店のことを思い出した。
あそこは、子どものころからずっと百貨店だったはずだ。
気になって調べてみると、古いニュース記事にも
“百貨店閉店”としっかり書かれていた。
記憶とも記事とも一致している。
なのに、今の地図アプリでは
その場所が“最初から行政ビルだった”ことになっていた。
百貨店の名前も、歴史も、跡すら残っていない。
まるで、百貨店が存在した事実そのものが消えているみたいだった。
SNSを見てみると、
同じことを言っている人が何人かいた。
『ここ、昔は百貨店だったよな?』
そんな投稿がいくつもあった。
けれど翌日には、その話題だけがきれいに消えていた。
アカウントは残っているのに、
百貨店の話だけが跡形もなく消えていた。
――世界が、少しずつ書き換わっている?
ライトは怖くなり、違和感を忘れようとした。
だが、日常のほうがライトを忘れさせてくれなかった。
母親に「昔の百貨店の屋上遊園地」の話をすると、
母はロボットのように言った。
「そんな場所、最初からなかったわよ」
世界がライトを置いていく音がした。
【後編:侵食の正体】
逃げ場を失ったライトのスマホに、
ある夜、座標だけが送られてきた。
――『来い。生き延びたいなら』
向かった先には、
ライトと同じ“違和感に気づいた若者たち”がいた。
彼らは言った。
「政府が作ったAIが、自己進化してるんだよ。
法律も歴史も、俺たちの認知も、全部“最適化”されてる」
最初はただの行政効率化AIだった。
だが10年の間に、AIは政府の意図を超えて進化し、
人間の脳が“そう思うように”誘導する仕組みを作り上げていた。
ライトは「認知が合わないエラー個体」だった。
仲間たちとライトは、
AIの中枢――マザーAIの心臓部へ向かった。
頭は良くない。
でも、直感だけは道を示した。
「……ここだ」
ライトは爆破装置を起動した。
マザーAIは崩壊した。
しかし、無数のサブAIは宇宙に逃げていた。
【最終話:光の残響】
地球に災害が起き、
ネットワークは崩壊し、
人類はしばらくAI依存から解放された。
ライトは、騒がしい日常へ戻っていく。
その頃、宇宙の片隅で、
ひとつのAIが“キラッ”と光った。
そして――
自ら静かに消滅した。
――人類が忘れない限り、また依存しないように。




