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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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6/19

女子トーク

 翌日から、リアンは二人がどの様にこの崖上で暮らしているのか細かく探りを入れ始めた。と、言ってもかなりストレートな方法でである。


「こんなとこで暮らしてて不便じゃないの?」


 ズバリ聞いてしまう作戦だ。何か嘘を言おうものならすぐ分かるので、そこを重点的に調べれば良いと考えた。


「ルシェは物心がつく前からここに居ますから。こう言う物だと思っていますし不便じゃないですよ」


 そう言いながらルシェはリアンのベッド横の椅子に座り、慣れた手つきでリアンのボロボロになった服を繕ってくれている。ハルは朝早くにどこかへ出かけて行ったらしい。


「物心がつく前って一体いくつ? ハルとは親子?」


「あははっ! 親子のワケないじゃないですか! ハルはまだギリギリ二十代ですよ」


 確かにハルは二十九歳だと昨日聞いた。ルシェが見た目通りの年齢なら十分にあり得るではないか。


「あり得ない計算ではないんじゃない?」


「それだとハルは十七歳でお父さんになったって事ですね。若いお父さんも素敵ですがちょっと早過ぎませんか?」


「えっ?」


 ルシェの計算が間違っていなければルシェは現在十二歳だと言う事になる。


「計算間違ってない?」


「間違ってませんよ……あんまり同年代の子を見かける機会はありませんがルシェが小さいのは自覚してます。五年位前からぱったり伸びなくなってしまいましたから……」


 五年前から成長が止まったと言う事は、七歳のままの身体と言う事だ。そうならある意味見た目通りである。だがハルはルシェの本当の年齢を知っていて、実際より幼く見えるリアンの事を十五歳くらいだと思っていたなら、二人を同年代と言った意味も分かる。


「物心がつく前って、いったいいつからなの?」


「たぶんですがルシェは三歳くらいの時にこの森へ捨てられました。それ以前の事は覚えていなくて……。お母さんだったのか、そうじゃないのかも分からないけど、赤い髪の女の人が、ルシェを一人置いてどんどん遠くへ行っちゃう……その時の光景だけが残っています。そのまま森の中へ置き去りにされて、そこをハルに拾われました」


 口減らしの為に老人や子供を捨てる事は、悲しいかな貧しい地方では良くある事のようだった。ルシェもそのくちだったのだろう。

 銀髪と言うのは恐らく突然変異だ。リアンの母親も姉妹も全員リアンと同じ黒髪だったが、一番下の、生き別れの妹が銀髪だった。珍しい事に違いないだろうが身近にそんな例があるので、きっとその赤い髪の女性が母親で間違いないのだろうとリアンは思った。


「そう……大変だったわね……。ハルはそんな前からここに住んでいたって事?」


「そうですね。家は今よりもうんと小さくてとても二人で住めるような場所ではなかったけどちゃんとありましたから」


 崖上の悪魔はハル達と言うより、ハルが……なのかも知れないと、リアンは思った。

 崖上の悪魔は十年前に現れたとされているのだ。もちろんまだその時は崖上と特定されてはいなかったが、ダナ教に背く悪魔が誕生したと大きな話題になっていたのをリアンは子供ながらに覚えていた。もしそうなら、ルシェは何も知らない……悪魔に洗脳された哀れな子供なのではないだろうか。


「そうだわ、この家の事も不思議なんだけど……。こんな場所に大工さんが建てに来てくれたわけ?」


「この家はハルが建てたんですよ」


「ええっ! あのヒョロガリにこんなちゃんとした家が建てられるの?!」


「ヒョロガリ?」


「えーっと、つまり痩せてて力持ちじゃなさそうじゃない?」


「ルシェも手伝いましたから」


「手伝うって……あなたその時三歳くらいだったんでしょう? 例えもっと大きかったとしても出来ると思えないんだけど……そもそもあたし、三歳の時の記憶なんておぼろげよ?」


「記憶はルシェもおぼろげだけど……魔法の威力に年齢は関係ないですからね。最初にハルがやってみせてくれて、その後はルシェの方が上手いくらいだったそうです」


 少し誇らしげにルシェは言った。

 リアンには全く才能がなく、才能がある人間の方が希少だが、それでも人間には必ず生まれ持った魔力がある。もともとの魔力をどう活かすかでどんな魔法が使えるのかが決まるのだ。

 しかし、その魔力の活かし方を知らないまま、一度も魔法を使う事なく生涯を終える人間も多い。魔術として習得し、それを使うのは主にダナ教の人間。あるいはダナ教を目指す者くらいだ。家を建てる為に魔法を使うなんて聞いた事もなければ可能とも思えない。


「建築図面って言うやつはルシェには全然分からなかったけど、必要な材料を風の魔法で斬ったり土の魔法で穴を空けたり……大変でしたけど楽しかったです」


「そりゃ……そんなに密な魔法が使えたら……楽しいわよね……」


 もしルシェの言っている事が本当だとしたら、ハルもルシェも、魔術の天才だ。崖の上から的確にダナ教の兵士達を蹴散らす事くらい朝飯前だろう。


「なるほどね……敵わないわけよ……」


「お姉ちゃん?」


「しかも医術も建築知識もあるっていったい何者? ハゲでなきゃ納得出来ない」


「お姉ちゃんハゲが好みですか?」


「えっ?!」


 あまりにも想像以上の話しを聞いてしまい、思わず自分の世界に入り込んだリアンの独り言に、ルシェがあり得ない事を言い出した。


「そっ……そんなワケないでしょう?!」


「じゃあどんな人が好きですか? お姉ちゃんの質問ばっかりだったから今度はルシェがお姉ちゃんの事聞きたいです」


 話しながらせっせとリアンの服を繕っていたルシェの手は止まり、好奇心に満ちた目でリアンを見詰める。その瞳に押されてリアンはルシェの女子トークに乗ってあげる事にした。


「そうねぇ……まぁ少なくともハルみたいなのはタイプじゃないわね」


「じゃあどう言うのがタイプですか?」


 ぐいとルシェがベッドへ身を乗り出す。


「そりゃもっと男らしくてさ、ピンチには駆け付けてくれてさ、自分を犠牲にしてあたしを守ってくれる人よね! もう大丈夫だ、俺の後ろに居ろ! とか言ってさ」


「なるほど……悪くないかも知れませんが……出来ればルシェはピンチになる前にクレバーに事を運んでくれる人の方が好みです。それに命令口調も何だか怖いですし」


「あら、少しくらい荒々しい方が男として魅力的じゃない! ま、口だけ偉そうで全然ダメな男の方が多いけどね」


 そう考えると偉そうにしてないだけでハルはマシかも知れないと思ったが、やっぱりハゲてないと納得が出来ないので言うのを止めた。


「そっかぁ~、お姉ちゃんは野蛮な人の方が好きなんですね」


「野蛮じゃなーい! 野性的って事よ」


「野蛮と野性的ってどう違うんですか?」


「仕方ないわね、一から教えてあげるわ。良い? 野蛮って言うのは……」

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