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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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想定外の安息

なんだか可笑しな二人だ。

 この二人を見ていると、崖上の悪魔なのではと疑った自分がバカバカしくなる。が、そうでない根拠もない。いや、そうである根拠の方が多い。リアンは気を許さぬ様にしなければと心を引き締める。昔から悪魔は甘言を囁くと言うものだ。


「お姉ちゃん元気そうだからご飯食べれますよね」


「ごっ……ご飯?!」


 今のリアンにとってこの上ない甘言であった。


「急に食べると胃がビックリするだろうから野菜を細かく切ったスープにしよう。用意して来るからリアンは少し寝てて」


 そう言って二人は部屋から出て行ってしまったが、寝ててと言われても丸二日も寝ていたリアンは眠れる気がしない。

 これはどういう状況なのだろうと、とりあえず自分が寝かされていた部屋を改めて見回してみる。

 天井の低い、質素な木造の家の一室と言ったところで、ベッド、その隣にナイトテーブル、その上にランプ、椅子がニ脚、はめ殺しの窓から見えるのは殺風景な岩肌。

 そのすべてが質素だったが、どれも清潔で温かみがある。余計なものは一切見当たらない。

 それどころか、ダナの象徴、黒い翼がデザインされた物や模った物もない。どんなに貧しい家でも一部屋に一つは必ずあると言って良いものなのだが。


「よっ……と」


 今度は自分の足の具合を確かめようと、身体を起こしてそっと床に足を付けてみる。

 力を入れても痛みはなかったが、膝の部分が石膏で固めてあるので膝が曲がらない。左足でひょこひょこ歩けばなんとか進めはする。一体どれくらいでこの石膏は取れるのだろう。

 あのハルと言う青年はきこりの筈なのに医療の心得があるのだろうか。いいや、あんなにヒョロヒョロ痩せたきこりなんて見た事がない。もちろん小さな女の子のきこりも。


「うーん……。だとするとやっぱり一番最悪なパターンを想定しておくべき……ん?!」


 リアンは石膏まみれの右足の付け根を見てギョッとした。

 見た事もないパンツの裾が見えたからだ。よくよく見ると、自分の両足は男性物の下着から生えているではないか。

 まさか? と自分が着ている上着も確認すると案の定それも男性物で、丸襟がだらしなく胸元まで下がっていた。


「うえぇぇ~~??!」


 リアンは咄嗟に、今更ながら胸元を隠して両足をベッドの中に引き戻した。


「そうよねそうよねあたしの服なんてきっとボロボロの血まみれの土まみれだったに違いないんだからそんなんでベッドに寝かせたら菌とか? 良く分かんないけどそーゆーあれでやむなく仕方なくよねでもいくらなんでも男物のパンツはかす? はかすかぁ~、あの子のじゃ小さいかぁ~、他にないかぁ~、はああ~、え? はかす?」


「どうしたんですか?!」


リアンの声に驚いたルシェが慌てて戻って来た。

そうだ、ルシェが着替えをしてくれたに違いない。この小さくて華奢なルシェが、意識のない人間の着替えを……頑張ってしてくれたに決まっている。


「ううん、何でもない。全然何でもない」


そうに決まっているので確認するのはやめた。


「何かあったら呼んでくださいね」


リアンがそう言うので、ルシェはそれ以上何も言わずにまた出て行った。

そっと扉を開けて様子を見て見ると、すぐ隣の部屋には大きめのテーブルがあって中央に見たことのない花が飾られていた。きっとルシェが生けたのだろう。

反対側の引き戸が開けっ放しになっていて、その向こうに廊下が見えた。廊下の不自然な所に扉が付いている。どうやら台所は左奥にある様で、そちらから小気味良い包丁の音が聞こえる。

ずるずると四つん這いで進み、廊下に顔を出して左を見ると台所に立つハルとルシェの姿があった。


「ダメですハル。もっと細かくしないとお姉ちゃんかわいそうです」


「これでも大きいかい? ああ、好き嫌いを聞くのを忘れたね」


「嫌いなものがあったらルシェが食べてあげますので良いですよ」


「ニンジンも?」


「ニンジンは入れません」


 リアンは思わず顔が綻んだ。

 どうやらルシェはニンジンが苦手なのだろう。幸いリアンには好き嫌いはないので今後ニンジンが出る様な事があったら食べてあげよう。

 それにしても妹以外にこんなにも可愛い少女が居るとは驚きだ。

 自分が妹達に対して愛情が深いのは自覚していたが、この感情はもしかしたら年下の少女全般に発動するものなのでは? そこまで考えてリアンは何をバカなと頭を振った。

 そうしてしばらく様子を見ていたが何か怪しげな動きをする事はなく、二人は仲良く料理をしているだけである。


 台所までの廊下の途中には、この家自体の入口があって、両開きの木製ドアには可愛らしい装飾がしてある。リアンはそっと立ち上がり、裸足のまま外へ出た。

 ひょこひょこと片足でジャンプして進む。丁度日が沈みかけた時間帯で、みるみる景色がオレンジ色に染まって行った。

 後ろを振り返り、家を確認してみる。見た目は普通の、いや、かなり質素な木造の家だ。階段は見当たらなかったが二階があるようである。むき出しの岩肌の中に建てられているので色が同化し、景色と一緒にオレンジに溶けてしまいそうだった。

 どこからどう見ても、建てられている場所以外は普通の家で、もちろん『悪魔』と書かれた表札もない。

 だが太陽の見え方や飛ぶ鳥の位置で、やっぱりここはあの崖の上なのだろうとリアンは確信した。

 ふぅーと一つ、長めの溜息を吐き、夕日に向かってリアンは呟いた。


「やったろうじゃん」


 自分の足の状況と、自分が居る、崖上と言う物理的な場所を考えると、正直ここから逃げ出す事は不可能だ。

 幸か不幸かまだ分からないが、崖上の悪魔は自分を生かす事にしたらしい。

 その後、健康になった身体を切り刻まれるのか、その前に洗脳されるのか、それも分からないが、生かされるのならこの状況を利用しよう。むしろチャンスだと考えて悪魔の生態を観察するのだ。それを手土産にダナ教に戻れば、むしろ昇進の可能性だって……!

 と、家の中から美味しそうな匂いが漂って来て、途端にリアンの思考は食欲へ振られる。口の中に溢れる唾液を飲み込んでまたそっと家の中へ戻り、ルシェに食事だと呼ばれると素知らぬ顔で食卓へ着いた。

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