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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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3/19

記憶喪失ってやつ

 リアンは計りかねていた。

 チラリと窓の外を見ると、そこに見える景色はむき出しの岩肌だ。ちょうどあの崖の上の景色はこんなじゃないだろうか。外に出て眼下にあの森が広がっていれば、間違いなくここは崖上と言う事になる。すぐに分かる事だ。だとしたら、この二人があの、崖上の悪魔だと言う事ではないか。


 だけど本当に……? この二人が……? 


 リアンには信じられない。

 そうだとしたら自分を介抱してくれた意味が分からない。きこりでない事は明らかだ。下手な嘘を吐いてきこりになる意味も分からない。

 状況と、目の前の二人が、あまりに一致しない。


「そんな事より! 君は?」


 強引に話しを逸らす様にハルはそう言った。今度言葉に詰まったのはリアンだ。

 自分がダナ教の人間だとすでにバレているのだろうか? 二人が本当に崖上の悪魔で決まりなら、当然自分は敵になる。

 もしかしたら騎馬隊から遅れていたからそう認識されず、それで介抱してくれたのかも? 都合の良い解釈だとは思ったが、自分がダナ教である事は伏せておきたい。そう考えたリアンは賭けに出る。


「頭を強く打ったみたいで、自分の事何も覚えていないわ。記憶喪失ってやつだと思う」


 言いながらリアンは頭を抱えたくなった。ハルとルシェの下手な芝居を笑えたものではない。こんな無茶苦茶な嘘が通用する筈がないじゃないかと。ついさっきも二日寝ていた事に慌てふためいて転んだのだ。何か明確に覚えている証拠である。

 冷や汗をかき、すぐに何か言い訳をとまた乾いて来た唇を舐めた。ところがだ……。


「そんな……! でも確かに後頭部にひどい傷がありましたよ」


「えっ?」


「なんて事だ……可哀想に。名前も思い出せないかい?」


「へっ?」


 言いながらリアンを覗き込む二人の目は澄んでいた。どうやら信じてくれたようだと理解したリアンは少々の罪悪感を感じながら嘘を重ねる。


「名前? 名前か……そっ……そうねぇ……うーん、ディアンナ……ディアンナよ! ディアンナな気がするわ!」


 それは歴史的な美女として有名な某国の女王の名前である。どうせならとリアンはそう名乗った。


「良い名前だね、ディアンナ」


ハルにそう呼ばれ、何となく良い気分になっているとルシェが何やら思い出した様な顔を見せる。


「あっ、そう言えばあなたの持ち物の中にこんなのがありましたよ」


 何かヒントになればと、百パーセントの善意でルシェはリアンにハンカチを差し出した。それは田舎から出て来る時に妹からもらった、紛れもないリアンの持ち物である。なにせワンポイントの黒い翼の隣には、ご丁寧に名前が刺繍してあるのだ。


「リアン・アミット……これはあなたの名前じゃないんですか?」


「そっ……そういうのあるなら……先に言ってよ……」


リアンは赤面し、小声でブツブツ文句を言う。


「リアン・アミットさーん! どうですか?」


ルシェが屈託なく名前を呼んで小首を傾げる姿に、これ以上嘘が吐けなくなったリアンは軽く挙手をしながらこう答えた。


「はーい。めちゃくちゃしっくり来まーす。でも、ディアンナって呼んで欲しい……何だか気分が良くなる」


「記憶が混乱する様な事はしない方が良いよ、リアン」


あえて名前を付け加え、ハルがもっともな助言をした。


「分かったわよ……」


「名前以外の記憶も、傷と一緒にゆっくり治すと良い。その足じゃまともに歩けないだろう」


そう言われて改めて自分の足を意識すると、右足が石膏で固められていた。こんな、街から離れた場所で適切な処置が出来る程ここに設備が整っているのかとリアンは不思議に感じる。もっともこれが適切かどうかは分からないが、少なくともリアンの田舎では手頃な木を添えるくらいしか出来なかった筈だ。


「……しばらくかかるわ」


「しばらく居れば良い」


「はぁ……。すぐに立てるようになる薬ってないの?」


そんなもの、ある筈がない。得体の知れない自分にしばらく居ろだなんて、あんまり優しい事を言われて天邪鬼のリアンは逆にイライラしてしまう。

 我ながら可愛げのない言い草だと思ったが、きっとこの青年なら微笑みながら「そんなのないよ」と自分を宥めるのだろうと思った。


「……薬には必ず副作用があるものだ。強力なものならそれ相応のね……待てば癒える傷に危険を冒す必要はないよ」


そう言うハルの表情は穏やかではない。


「……そう、よね……ごめん、厄介になるわ」


まるで怒りさえ感じるハルの横顔にリアンは素直にそう言った。


「うん、そうすると良い! 一応固めてあるけど、その方が早いからそうしてあるだけで、たぶん君が思うより酷くはないよ。それに君は若いから傷の治りも早いんじゃないかな。一体いくつだい? ああごめん、記憶がないんだったね」


 ハルがまた穏やかな笑顔でそう言うのでリアンはうっかり十八だと口走りそうになる。アハハと曖昧に笑ってごまかすが何だかルシェがニヤニヤしているではないか。


「なっ……何よ……」


「あっ、ごめんなさい。リアンさん……大変なのに、なんだかちょっと嬉しくて」


「う……嬉しい??」


 嘘ではなさそうなルシェの言葉に、リアンは全く理解が追い付かない。


「僕らこんな辺鄙なところで二人だけで暮らしているからね、あ、ほら! きこりだからさ、年が近い女の子が居てくれた方が嬉しいんだよ。ね、ルシェ」


「はい!」


「年が……近い? はは、記憶はないけど確実にあたしの方がお姉ちゃんかなぁ?」


 リアンが困惑するのも無理はない。ルシェはどう見てもリアンと同年代とは思えない姿である。

 何年も年を重ねた老人からすれば似た様なものかも知れないが、ハルにしたってせいぜい三十手前くらいだ。

 発育の良い方ではないリアンだが、いくらなんでも七~八歳に見えると言うことはあるまい。

なんだか色々とトンチンカンな二人だが、俗世から離れて暮らしているので街の常識は通用しないのかも知れないなとリアンは納得する事にした。


「お姉ちゃんでも嬉しいです!」


「良かったねルシェ」


「はい!」

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