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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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24/27

自分勝手

 足を引きずってはぺたりと一歩進むハルの前に立ちはだかる様に立ってリアンは言った。


「それって何の解決にもなってないじゃない! そんな事をしてもたくさんの人が死ぬ事は分かってんでしょっ?! 分かってて考えないわけ?! 結局……! ミゼールの代わりをルシェにやらせるって事よね! 何が浄化よっっ!!!」


 身体が勝手に動いてリアンの右拳がハルのこけた頬にめり込んだ。


「あぐっ……!」


 ルシェに近付いていたハルはよろけて尻もちを付く。リアンの足が万全だったら部屋の外まで吹っ飛んでいたかも知れない。


「狂ってるわ! ごちゃごちゃ言ったところであんたはただデュナミスを試したいだけ! 使わなければいられないのよ! 使う状況に陥った今を心のどこかで喜んでいる! 違う?! 違わないわよね!」


 あの時の笑みは勘違いではなかったのだ。気付けなかった自分にも腹が立つ。リアンは到底収まらず、ハルに馬乗りになって胸倉を掴んだ。


「ルシェなら良いっての?! ルシェに近付くんじゃないわよこの悪魔!!」


 されるがままになっているハルだが、揺さぶられる頭で何を思うのか、はははと渇いた声で笑った。


「君の言う通りだ……。僕は……悪魔だ!」


「んっ……!」


 言いながら胸倉に置かれたリアンの手首を掴む。思いがけず強い力で掴まれて声をもらしたリアンは、すぐに離せとハルの手を振り払って距離を取った。

 ハルはその場でゆっくりと上半身を起こす。


「……ダナ教から逃げ出しても研究をやめられず……、森に捨てられた哀れなルシェを見て僕が真っ先に何を思ったか……。疑う事を知らない瞳に見つめられて僕が何を感じたか……。はは……、想像出来るかい? おぞましいよ……」


「ふん、まったくね! 運命だとでも思ったのかしら? 自分はやっぱりデュナミスを作り出す運命なんだって?」


 ハルは意外そうに目を丸くしてリアンを見る。


「その通りだリアン……、僕はそう思った……。だってこんなに都合の良い事があるかい? それこそ、ルシェは古の魔女ダナからの贈り物なんだと思った。自我を保てるデュナミスの研究を続けていたけど、もう、そんなのはただの傲慢なんだ。今こそ、僕が魔女ダナを生み出すんだって……」


「都合が良いのはあんたの思考回路よ! 一体ルシェはどうなるの? このまま……目覚めた時には全部忘れてるの……?」


 ルシェは聡い子だった。ずっと一緒に居てハルの狂気に気付く瞬間もあったかも知れない。それでも、ハルと一緒が良いんだと言ったルシェが哀れでならない。


「あんたのくだらない夢の為にルシェは……!」


「出来なかった……」


「えっ?」


「出来なかったんだ。僕には出来なかった……。ルシェは、さっきも言ったデュナミス投薬の為の前段階の薬で昏睡状態になってるだけだ。身体を眠らせて、魔力だけを最大限まで高める。そのタイミングでデュナミスを使わなければならないんだけどどうしても出来なかった。これで良い筈なのに……、出来なかった自分が不甲斐ないとも思うんだから……悪魔だろう? はは……」


 自虐的に笑うハル。それが本当だとしたら、ギリギリで人間だとリアンは思った。研究者である自分とルシェへの愛情で思い悩んでいる、ある意味とても人間らしい。


「少し診るだけだから」


 そうリアンに断りを入れてズルズルとルシェへ近付くハル。怪しげな注射器を持っているわけでもないが、何かおかしな動きをしたら後頭部をぶん殴ってやろうと構えつつリアンはハルがルシェに触れるのを許した。


「ああ、もう大丈夫だ……」


 閉じられたルシェの瞼を、クイと親指と人差し指で開いてその瞳の色を確認したハル。リアンも覗き込んだが、それは青く美しい、リアンの記憶の中のそれと一緒だ。


「何が大丈夫なの? 本当にデュナミスを使ってないならちゃんと目を覚ますんでしょうね?」


「少し前まで真っ赤だった……。高まりきった魔力の表れだ。そうなっているうちにすぐデュナミスを投与しなければ意味がない」


 なるほど、ルシェの瞳の色が変わっている間に、ハルはずっと葛藤し続けていたのだろう。悪魔と人間の戦いはどうやら人間の勝ちだったと言う事か。


「でもきっと目覚めた時とても苦しいと思う……。強引に高めた魔力がこの小さな身体に渦巻いていたんだから……。ごめんよ、ルシェ……」


 言いながらそっとルシェの銀髪を撫でるハル。

 その様子を見ながら本当に無事だったんだとホッとした途端、リアンは自分が気持ち悪くて仕方がなくなった。

 ミゼールの代わりをルシェにやらせるだけだと散々ハルを罵ったが……、自分だって、妹がダナの器になるくらいなら、早くミゼールにデュナミスを使ってしまえと思ったじゃないか。

 また会いに来てと、名残惜しそうに鳥かごの中で自分を見送ったミゼールを思い出し、リアンの胸は絞め付けられた。


「なんて自分勝手なんだろ……」


 リアンの独り言を自分に言われていると勘違いしたハルが消え入りそうな声でごめんと呟く。だが別に訂正してやる事もないと思ったリアンは何も言わずに腕組みをした。


 だいたい、今回は思い留まったものの、きっとまたハルにはデュナミスを使いたいと言う衝動がやってくるのではないか。その時にまたちゃんと人間のハルが勝てるか? ルシェがハルへの献身で良いよと言ったらさすがに使わない理由はなくなるのではないか?

 ミゼールだってこのままではダナ教によってデュナミスを投薬されてしまう。ミゼールを連れ去るならニナの協力は必要不可欠だが、ニナにどこまでの権限があるのか分からない。


 それに、大事な妹が人質に捕られている様な状態なのだ。絶対に守らなきゃならない。

 何も知らないまま、騙されて魔女になるなんて、誰であろうとあってはいけないのだから。

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