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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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魔女人形

「……大声出して悪かったわよ……。ねぇ、ミゼールの事が嫌いで逃げてるわけじゃないんでしょ? ミゼールに会えない事情があるならちゃんと話せば良いじゃない。ね?」


 こちらもケンカ腰で来てしまったが、よくよく考えれば聡明なハルの事だ。聞けば納得する理由があって然るべきだろう。ぐずぐずと鼻をすすりながら泣いているハルに、まるで子供に言うような声色でリアンは言った。


「デュナミスを……人間に投与すると、その人はその人でなくなる……」


 ぽつりとハルがそう言ってまたスンと鼻をすする。


「まぁそうね? ミゼールはダナになるわけよね」


「違う……」


「違う?」


「違う。デュナミスは人の自我を奪う。自分がミゼールなのかダナなのかなんて分かりはしないし、ミゼールだった時の記憶もなくなる……。刷り込みの様に、デュナミスを与えた人物に従うだけの……人形になる」


「……は?」


リアンの表情が固まった。


「それ……どう言う事よ……」


「言った以上の意味はないよ……」


 安易にまた大声でまくし立てたくなる気持ちを抑えて、リアンは一度ゆっくり息を吐き出してからハルの肩をガシリと掴んだ。弱々しそうに見えて男の肩だ。


「……知ってるの?」


「……ダナ教にとってはむしろ都合が……」


「ミゼールよ」


 リアンの指がハルの肩に喰い込む。


「ミゼールはそうなる事を知っていてあんたを待ってるの?」


「……何も知らないよ……」


「あんた……!」


「ミゼールは何も知らない。子供の頃からずっとダナ教に閉じ込められて……知識はあっても、外の世界を何も知らない。ちゃんとした人との付き合い方も知らない。だからずっと子供のまま……何も……なぁんにも……知らないまま……」


 見た目と違うあの異様な幼さはその為かと、ミゼールの無邪気さが不憫になると同時に、それ幸いとミゼールを騙し続けるダナ教とハルに虫唾が走る。


「そんな不完全なもの……そうならない様にあんたが作ってたんじゃないの?!」


「無理なんだ……。無理なんだよ! 僕だってそう出来たらってずっと頑張って来た! でも……ダナと同じ様に、村を一つ簡単に壊滅させてしまう程の魔力と……人間の理性は共存出来ない。不可能だ……。追求すればするほど無理だと分からせられるだけなんだよ……だから……だから僕は……」


 逃げた。


「どうしてそんな物を……。人の人生を犠牲にして! どうしてそんな物!」


「痛いよリアン……」


 ますます肩に喰い込んだリアンの指をそっと剥がしながらハルが言った。そしてようやく立ち上がりテーブルの下の椅子を引いてそれに座る。


「最初の清浄からもう二百年も経つ……。それ以来ダナ教は居もしない魔女を祭上げて世界を支配して来た。だけど、ダナ教に疑問を持ち始めたのは僕だけじゃない……。次の魔女を用意する必要がある。何度も……器を壊す可能性があると言ったけど……」


 ミゼールの事を器と言ったと気付いたリアンは無意識にチと舌打ちしていた。


「何度も言ったけど……何度もこう言われた。清浄の雷を落とす事が出来ればそれで良い……、って。それで良いのならデュナミスは完成している」


「信じられない……」


「もっと言えば犠牲になるのはミゼールだけじゃない。清浄の雷をどこに落とすか決めるのは司祭であるフロディ・スラだ。今ダナ教に疑問を持ち始めている勢力や……、そうだな、僕ならデュナミスの事を知ってる人間は全員消したい」


「なっ……! バカ言わないでよ!」


 リアンが想像も出来ない事を、ハルは事もなげに言う。


「そいつが誰か他の人に話さないとも限らないから、それに近い人も……」


「止めてって!」


 身体中の血が沸騰しそうだった。あまりにも恐ろしく、おぞましい。


「いくらなんでもそんな事までする筈ないでしょう?! ちゃんと……ちゃんとダナ教を信仰して献身すればダナの加護を与えられる。それは偽りかも知れないけど真実でもあるじゃない! 現にっ……!」


 そこまで言ってリアンはくらりと目の前が真っ暗になった。


 今、貧しいリアンの家族がどうにか暮らしているのは、銀髪の妹がその身をダナ教に差し出して加護を受けているからだ……。


「妹が……」


 はぁはぁと呼吸が浅くなる。


「一番下の妹が……銀髪なの……」


 今や廃人みたいなハルに言ったって何にもならないのに、どうしようと救いを求める。

 自分が今まで盲目的に信じて来たダナ教が、まさかそんな組織だったなんて当然信じたくはなかった。ダナの加護さえもらえれば幸せになれるのだと思っていた。でももう、いくら言葉を並べてもそうじゃないのはリアンだって分かっている。

 一番ダナに献身的なミゼールは、その身を捧げても報われる事はないのだから……。


「本当なのかい?」


 ただそう言っただけのハルが、自分の妹をデュナミスの器として数えた気がした。ゾッと背筋に寒気が走って、人の人生を犠牲にしてだのと崇高な事を喚いたその舌の根も乾かぬうちに、リアンは思わず口走りそうになる。


 ――早くミゼールを魔女にしてしまってよ――

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