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フェイクウィッチ  作者: 焼肉一番


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15/21

もしかして……

「ミゼール……さん?」


 ミゼール……、美しい響きだと思った。それが鳥かごの女性の名前だと言う。ただし、今は……とは一体どう言う事かとリアンは口を開いたが質問は許してもらえなかった。


「さぁあなたの番よ! お名前は?!」


「……リアン」


「リアン! あなたにピッタリね! あなたもしかして兵士さん? 凛とした雰囲気を感じるのよ。リアンって名前は兵士に相応しいわ。だってこの前ニナが持って来てくれた本の中に……」


 会って早々だが、リアンはミゼールのお喋りにもう辟易としていた。誰かの話し相手をしろだなんて、名誉な事だと説明されたものの正直楽な任務だと思っていたのに……。これは案外骨が折れるかも知れない。


「ミゼール、少し落ち着いてお話ししましょう」


 リアンの気持ちを察したのか、ニナが鳥かごに近付いてミゼールにそう声を掛ける。


「あら、私もちろんそのつもりよ! だって私……」


「ふふ、良いから座りましょう」


「それもそうね!」


 鳥かご越しにミゼールの手をそっと握り、座る様に促すニナ。とは言っても鳥かごの中に椅子はなく、ミゼールはかごの中にあった大き目のクッションを抱きしめて座り、リアンとニナもその場に腰を下ろした。

 ようやく少し落ち着きを見せたミゼールだったが、結局その後も好き勝手に喋り続け、それに対してリアンは曖昧に頷くだけ。さすがにこれは自分である必要のない仕事だとリアンは思ったが、話しの途中でニナが意外な事を言うではないか。


「よっぽどリアンの事が気に入ったみたいね、ミゼール」


「ええ! もちろん!」


 屈託のない笑顔でそう言うミゼールは、とてもお世辞を言えるタイプには見えなかった。


「えっ……あたし、特に何もしてませんけど……」


「あらっ! 何もしなくたって良いのよ! 私女の子大好き! だって可愛いんだもの」


「へぇ……? それって恋愛対象としてって事ですか?」


 偏見も何もなく、リアンは単純な疑問をミゼールにぶつけただけだが、ニナからしてみればこれさえも下世話だった様だ。わざとらしい咳払いの後に軽く肘で脇腹を小突かれる。


「慰め役にあなたみたいな子が来るのが珍しいからよ! ね、ミゼール」 


「そうね……。ここへ来るのはほとんどオジさんばかり。難しい話しを一方的にして、私のお話はちゃんと聞いてもくれないわ……。早く、ハロルドが戻って来てくれれば良いんだけど……」


 ハロルドと言えば男の名前だ。終始楽しそうにしていたミゼールがその名を呟いて初めて暗い表情を見せた。その分かりやすさにリアンは、もしかしたらハロルドと言う男性とただならぬ関係だったのかもと思ったが口に出すのは止めた。下世話だと言ってまたニナに肘鉄を喰らうかも知れないし、この話しを掘り下げるべきではない思ったのだ。どんどんミゼールの気分が落ち込んでしまう可能性がある。


「つまらないオジさんの話しを聞かなきゃならない時は妄想の世界へ逃げ込んじゃえば良いんですよ」


「あら、そうしたいけど……気付かれたら困るじゃない」


「そりゃ時々相槌は打たなきゃダメです」


「リアンったら可愛い顔して意外と小悪魔なのね!」


「小悪魔は人を惑わすので可愛いものなのです」


「ふふふっ! ねぇ小悪魔さん、いい加減そんな喋り方は止めて? 普通で良いのよ? だって私達今日でお友達になったんですもの」


 一方的だったミゼールとのお喋りだったが、次第にリアンもそれを楽しめる様になって来た。

 最初はあまりにもミゼールが興奮状態だったので会話にならなかったが、ミゼールはちゃんと人の話しを聞ける。

 それに見た目よりもずいぶん中身が幼いので、故郷の妹達や……ルシェと話している様な感じだ。

 早く大人になる必要があったリアンは当然大人の相手をして来た。その反動とでも言おうか、無垢な少女との会話は知らずリアンを慰めているのだ。

 時々、無自覚で相応しくない言葉を使い、ニナからコッソリ小突かれるのを除けば楽しいお喋りの時間である。


「……で、実はそれはあたしのパンツだったってワケ」


「あははは……! もうやめてリアン! お腹が痛いわ! あははは……!」


「ぷっ……くくくっ」


 リアンが鉄板のすべらない話しを披露すると、ずっと面白くない様子だったニナも少し綻んだ様だ。ミゼールの様に気持ち良く笑ってはくれなかったが、こっそり下を向いて笑いを堪えるニナをリアンは見逃さなかった。


「はぁ……、笑い過ぎて疲れちゃった……」


「もう食事の時間ね。その後は歴史の先生がいらっしゃるわ。リアンはそろそろ……」


「ええっ!? もうそんな時間?! 三人いるからあのゲームやりたかったのに!」


 ミゼールが名残惜しそうに、格子から伸ばした手でキュッとリアンの手を握る。見るからに年上なのに、そんな仕草が可愛くてリアンは咄嗟にこう言ってしまう。


「また来るって!」


 言ってしまってから「あ」とニナの顔色を伺うと、ニナは少し眉根を寄せて見せたもののダメとは言わなかった。


「絶対よ! 約束よ!」


「約束ね」


 小指と小指を絡めて約束を交わすリアンとミゼール。


「さぁ、先生をお待たせする事になったら大変だから」


 ニナがリアンを立つように促し、小指がするりと離れるとミゼールは悲しそうにリアンを見上げてもう一度「約束」と言って見送った。

 また来ると言っているのに随分と後ろ髪を引かれるような顔をするミゼールに違和感を覚えながら、リアンはまたあの長い階段を上る。


「正直、あたしだったらあんなとこに一日中居たら頭がおかしくなりそう……。ねぇニナさん、彼女は……」


「ミゼールはあなたを友達と言ったけど、私とあなたは上司と部下だと思っててちょうだい」


 さっきまでそれなりに仲良くお喋りしていた筈なのに随分つれない言い方だ。しかしリアンだってニナを友達と思うわけじゃない。


「はい……。でも……」


「詮索は無用と言われなかった?」


「言われました」


 ニナに会話をする気がないのは良く分かった。しかしリアンはどうしても聞きたかった。

 ハルが言っていた――魔女がどこで何をしているのか――、その事に付いて。

 ミゼールを一目見た時から、なんだかそれに関係している気がしてならない。


「もしかして……、彼女がダナですか?」



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