人類滅亡後の熊本のとある街にて、ガブリンが見つけたおいしいたからもの
誰もいなくなったどこかの街のゴミ捨て場で、壊れた冷蔵庫の上で横になっていたガブリンは大きな口を開けてあくびをしました。
「ごろごろー」
キノコの友達、マタンゴさんは意味もなくゴミの上をゴロゴロと転がります。
一見するとガラクタばかりですが、おもちゃがたくさんあるのでガブリンたちにとってはとても楽しい場所でした。
「お腹空いたなあ」
けれどそんな事よりも食いしん坊のガブリンはお腹がペコペコでした。
そんなガブリンにマタンゴさんは笑顔でこう言います。
「ジメジメするばしょでのんびりしていればおなかがいっぱいになれるよ! ガブリンもいっしょにあそぼうよ!」
「ぼくはキノコじゃないから、そんな事をしても腹ペコのままだよ」
たくましいマタンゴさんはどこでも生きていけますが、ガブリンはそうではありません。
しばらく考え、ガブリンはぴょん、と冷蔵庫から飛び降りました。
「でもこのままじっとしていてもお腹は膨れないか。それじゃあごはんを探しに行こうかな」
「そっかー、じゃあぼくもいこうっと」
緑豊かな街にならきっとおいしいものがあるに違いありません。
二人は食べ物を探すため廃墟の街に向かいました。
かつてニンゲンという生き物が住んでいた廃墟の街には面白いものがたくさんありました。
ガブリンとマタンゴさんは石で出来た倒木を飛び跳ね、輪っかの足を持つ四本足の鉄の生き物の死骸を調べます。
「これたべられるかな。ドーナツみたいだよ!」
「たべられないよ。君なら食べられるかもしれないけど」
マタンゴさんは鉄の生き物の黒い足を差し出しますが、ガブリンはムスッとしてしまいます。
キノコのマタンゴさんは生ゴミでも腐った葉っぱでも、大抵のものは食べられます。ですがガブリンにはそんなものを食べる事は出来ません。
「あ、おもしろいものがあったよ! ごろごろー」
食べ物を探している途中、マタンゴさんは水の上に浮かぶ丸い石を見つけ、その上に乗って玉乗りをして遊びます。
これが何なのかはわかりませんでしたが、この石に乗って遊んでいるとなんだか楽しい気分になりました。
「もう、遊んでないでごはんを探そうよ」
「おこってる?」
「別にー」
お腹が空いたガブリンはちょっぴりご機嫌斜めで友達に辛く当たり、友達を怒らせてしまったマタンゴさんはしょんぼりしてしまいます。
「ごめん……」
「ううん、こっちこそなんかごめん」
ですがガブリンは友達に対してそんな態度を取ってしまった事に、マタンゴさんよりも悲しい気持ちになってしまいました。
「あ、ごはん見っけ!」
ガブリンはひらひらと飛ぶちょうちょを見つけ、急いでパクンと食べました。
おやつの様なものなので空腹は満たされませんでしたが、何も食べないよりはマシです。
「ほ、ほら! これでもうお腹いっぱいだから! 帰ろうか!」
「うーん、でも……」
ガブリンは精一杯の笑顔でそう言って、悲しい時間を終わらせようとしました。
ですがマタンゴさんには、それが自分を気遣うためについた嘘であるとすぐにわかってしまいます。
「よーし、それじゃあごはんをさがそうか!」
お腹が空いていると悲しくなります。マタンゴさんは友達と仲直りをするため、一生懸命ごはんを探しました。
「ここにおいしいものはあるかな」
「あ、駄目だよ! そこに入っちゃ!」
マタンゴさんが取っ手が鎖で縛られた扉の前に移動すると、ガブリンは慌てて止めました。
取っ手が鎖で縛られた扉は開く事は出来ませんが、ガラスは割れていたので簡単に出入りできます。暗くてよく見えませんでしたが、室内にいろいろあるのはわかりました。
「なんで? こわいものがあるの?」
「僕もよく知らないけど、そこにはニンゲンの大切なものがあるから勝手に入っちゃ駄目だって聞いた事があるよ」
ガブリンは友達の怪物から教えてもらった事を伝えました。
実の所彼も詳しい事は何も知りませんでしたが、とにかく駄目なものは駄目だという事だけは知っていました。
「ニンゲンって?」
「さあ。僕もニンゲンの事はよく知らないんだ」
「そっかー」
昔この世界に存在していたというニンゲンという生き物。それが一体何なのかマタンゴさんもガブリンもよくわかっていませんでした。
「よいしょっと」
マタンゴさんはしばらく考え、やっぱり中に入る事にしました。
今の彼にとって一番大事なのは友達をお腹いっぱいにして幸せにする事だったからです。
「ちょっと、だから駄目だってば」
「ちょっとだけだからー」
ガブリンは慌てて引き留めますが、その時にはもうマタンゴさんは建物の中に入ってしまいました。
ガブリンは悩んだ末に友達を追いかける事にしました。
「ほへー」
「この建物の中ってこんなふうになってたんだ」
建物の中にはいろんなものがたくさんありました。もしかしたらこの場所ならば美味しいものがあるかもしれません。
不安がっていたガブリンも次第に好奇心が勝り、中にあったものを見て回りました。
彼がまず興味を示したのは、クマの怪物の像でした。
「わわっ」
クマの怪物はとっても大きくて強そうだったので驚きましたが、怪物が置物である事がわかりすぐに安心します。
この廃墟の街ではこの怪物を至る所で見かけますが、一体これは何なのかガブリンにはわかりませんでした。
ですがジッと見ているとなんだか安心してしまうので、もしかしたらこの怪物はニンゲンを見守る神様だったのかもしれません。
「なんだろうこれ」
「丼かな?」
食べ物を探していたマタンゴさんはあるものを見つけ、棚に置かれた丼を見つけました。
いろんな種類の丼には龍や四角い渦巻き模様が描かれており、底の部分が見えるように飾られていてとても鮮やかでした。
「ひょっとしてこれがニンゲンのたいせつなものなのかな」
「かもしれないね。こうやって飾ってあるお皿は宝物だって聞いた事があるよ」
ガブリンは珍しいお皿については知識として知っていましたが、その価値はよくわかりませんでした。
ですがニンゲンがこの丼をとても大切にしていた事はわかりました。そして安易にこの宝物に触れてはいけないという事も。
「あれ?」
丼を見ていると、どこからともなく美味しそうなニオイが漂ってきました。
ガブリンは鼻をクンクンとさせ、ニオイがした場所へと向かいます。
「わあ!」
するとそこには見た事がない生き物がたくさんいました。
その生き物は美味しそうに丼の中にある食べ物を食べ、とても幸せそうな笑顔をしていました。
「あ、このどんぶりさっきのだ!」
マタンゴさんはその丼が飾られてあった丼と同じだという事に気付きました。
中には初めて見る不思議な料理があり、ガブリンとマタンゴさんはテーブルの上に乗って観察します。
その食べ物は白濁したスープの中に細長いものがあり、強烈なブタのニオイがしました。
半熟の卵の黄身はとろっとスープに溶け、焦げたニンニクの香りがする黒い油が浮かび独特のニオイが漂っていました。
「わあ、ふしぎなたべものだー」
「でも美味しそうだねー」
その食べ物が何なのかはわかりませんでしたが、一目で美味しい食べ物である事はわかりました。
そんな二人の前に見た事がない生き物はとん、と丼を置きます。
「……………」
「え? 食べていいの? ありがとう!」
「わーい! ありがとう!」
見た事がない生き物は顔に白い靄がかかっていましたが、にっこりと笑っているという事はわかりました。
ガブリンとマタンゴさんはようやくありつけたご馳走を夢中で食べます。
脂ぎってはいましたが、一口食べるごとに生きる活力がみなぎり、お腹も心も満たされていきました。
「おいしいねー!」
「美味しいねー!」
何よりも友達と仲直りが出来たので二人はとても幸せな気持ちになりました。
それが二人にとっては何よりも嬉しかったようです。
見た事がない生き物も皆が笑顔でした。
彼らは年齢も見た目もバラバラでしたが、きっと誰しもが同じ気持ちだったのでしょう。
「むにゃ」
そのまま夢見心地で無我夢中で食べ続け、ガブリンはいつの間にか棚の前に居ました。
「むにゃー。おなかいっぱいでたべられないよー」
「夢……だったのかなあ」
隣にはよだれを垂らして幸せそうに眠るマタンゴさんがいて、ガブリンはちょっぴりガッカリしてしまいました。
「でもお腹いっぱいだし。うーん」
けれど先ほどまで感じていた空腹感は嘘のように消えていました。
ガブリンは美味しいものを食べた場所に行きますが、そこには天井が崩落したガレキだらけの大きな部屋があるだけでした。
吹き抜けの天井から差し込む光に照らされた先には小さな花畑がありました。
ガブリンは何の気なしに花畑に近付き、そこであるものを見かけます。
「これって……さっきの生き物?」
そこには四角い木製の枠で囲まれた先ほどの生き物の絵がありました。
絵の中には大きなクマの怪物も描かれていて、ガブリンはこれが大昔の絵なのだとわかりました。
絵の下にはもじゃもじゃとした模様がありましたが、ガブリンにはそれが何なのかわかりませんでした。
けれど絵に描かれたいろんな姿の生き物は様々な種類の丼を持っていて、皆素敵な笑顔をしていたので、これが幸せな絵である事だけはわかりました。
「美味しい宝物を食べさせてくれてありがとうね」
ガブリンは優しい気持ちを分け与えてくれた生き物に感謝の想いを伝えました。
もしかするとこれがニンゲンが大切にしていた宝物なのかもしれません。
「ふわあ」
ともあれこんなにぽかぽかするいい天気で、お腹がいっぱいならばお昼寝をするに限ります。
ガブリンはマタンゴさんのいた場所に戻り、肩を寄せ合って再び幸せな夢の世界に旅立ちました。




