21 閉ざされた部屋
学校長がゆっくりと三人の席へ歩み寄る。
足音は静かだが、その一歩ごとに空気が重く沈んでいく。
三人とも、動けなかった。
彼の手が、エドガーのノートへと伸びる。
はっと我に返ったエドガーは、反射的に机に突っ伏すようにしてノートを抱えた。
「やめてください! これは僕のノートです!」
シェイドが立ち上がり、学校長の前に立ちはだかる。
「古典の勉強をしていたんです。なぜ奪おうとするんですか!」
声が震えていた。
トマスは何も言えず、ただ二人の間であたふたと視線をさまよわせる。
「古典の勉強、か」
学校長は薄く笑い、手を止めない。
「ならば、私が確認してあげよう。見せなさい」
シェイドが舌打ちをする。
「見せる必要なんかないだろ」
エドガーはノートを強く抱きしめたまま、首を横に振った。
「……大丈夫です。見ていただかなくて結構です」
次の瞬間、学校長の手が素早く動いた。
ノートを掴み取るように引っ張る。
エドガーの体が椅子ごと揺れ、危うく転びそうになる。
必死に手を伸ばすが、その指先は空を切った。
学校長は無言でページをめくり、ざっと目を通す。
そして鼻を鳴らした。
「――君たち。あの陶器のことは忘れなさい」
その声には、冷たい圧があった。
「……私についてきなさい。君たちは懲罰部屋だ」
三人の顔から血の気が引く。
「なぜですか!?」
シェイドが思わず声を上げた。
トマスはエドガーを支えながら、唇を噛む。
学校長は背を向けたまま歩き出し、途中で一度だけ足を止めた。
振り返りもせずに、静かに言う。
「一週間では反省しなかったようだね。……もう少し、長く考える時間が必要だろう」
◇◇◇
有無を言わせず、三人は懲罰部屋へ押し込まれた。
鉄の扉が閉まり、鍵の音が響く。
その音は、雪の夜の中でひどく乾いていた。
学校長はそれ以上何も言わずに去っていき、足音だけが遠ざかる。
しばらく、誰も言葉を発せなかった。
シェイドが小さくつぶやく。
「……なんで、ここまで?」
その声は風にかき消された。
高い位置の小窓には鉄格子がはまり、そこから細かい雪が吹き込んでくる。
「寒い……。ストーブが、消えてる」
トマスがストーブの中を覗くが、灰は冷えきって動かない。
石の壁も床も凍るように冷たく、温もりと呼べるものは首に巻いたマフラーだけだった。
「僕たち……このまま一晩いたら、凍え死んじゃうよ……」
「まさか。……曲がりなりにも学校長は教育者だぞ。そんなはず――」
シェイドの声も震えていた。
エドガーは、風が当たらない部屋の隅に移動し、二人を手招きした。
「……こっちへ。少しでも体を寄せていよう」
三人は壁際に身を寄せ合い、しゃがみこんだ。
手を取り合っても、互いの指先が氷のように冷たい。
「寒い……」
トマスの歯が鳴り、カチカチと音を立てる。
「夕食までには、出してくれるよな……?」
シェイドがかすれた声で言うが、誰も答えなかった。
沈黙の中、トマスが震える声でつぶやく。
「……あの陶器の杯、やっぱり本物だったんだ。
本物だから、僕らを――口封じに……」
「トマス!」
エドガーが低く制した。
「今は考えるな。寒さで体力を奪われる。話すだけでも息がもったいない」
白い息が三人の間に漂い、すぐに溶けていった。
外では風が唸り、窓の隙間から雪が吹き込む。
その雪が、床に小さな白い丘を作っていく。
世界が、静かに凍っていった。




