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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第一章 コミックスペースオペラ

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6 留守番アウトドアーズ

 興味深い巨木の森は平穏な風景ではなくなってしまった。巨大蜂やドラゴンの死骸のすぐ傍。焦げ跡に、半壊した宇宙船。

 調査の為に降り立ったはずが予想外の出来事続きで既に疲労困憊(ひろうこんぱい)

 居心地の良くはない空間ではあるが、休息は必要だ。キウリャとヂンペーはキャンプのように倒木に腰掛けていた。二人で一本の木に、間にかなりの距離を置いて。


「なァんでオレ達だけこんな事してんですかねェ」

「こんな事? オジサンはただ座ってるだけでしょ」

「嬢ちゃん、もっとコミュニケーションってのを大事にしようぜェ」

「うるさい」


 言い合うキウリャとヂンペー。

 蜂の群れとドラゴンを退けた際はスムーズに協力したが、いまいち反りが合わなかった。


 二人は撃退したドラゴンの番をさせられている。

 他の船員はこの地の王に招待され、ズカイナルという男に連れられていった。相手が王で怪我の治療という名目はあるが事実上の拘束だろう。

 確かに二人は無傷だが、それだけが外された理由ではないはずだ。ドラゴンに攻撃をした二人。戦闘を見ていたので危険視されたというのがもっともらしい。

 不審な集団を分断して監視下に置く。友好的とは言えない対応ではあっても理解はできる。


 母星へ帰還できず、あちらの善意に頼らなければならない状況。揉めるのは得策ではないのだ。

 現地の人間の指示には従うしかなかった。


「お二人とも、仲良くしてくださいよー。お仲間じゃないんですか?」


 掌サイズの妖精が二人の間でほんわかと声をあげた。

 濃いピンク色の髪をお団子にしており、服装は花びらのようなワンピース。顔立ちはあどけない。チッチィという名前らしい。

 現地側で残ったのは彼女一人だけ。戦力ではなさそうで、危険視する人間の監視役としては不適格なように見える。が、言語を通じるようにしたのは彼女だ。脅威度は見た目や性格で決めつけられない。

 それになにかあればアモット達が危険。互いに人質がいる状況だ。

 キウリャは元々どうこうするつもりはない。船長もなるべく友好的に進める方針。とりあえず可愛いし和むので好感を持っていた。


 ヂンペーも警戒する様子はない。肩をすくめて応える。


「いやァ、俺は仲良くしてェんだがよォ。この嬢ちゃんがトゲトゲしててなァ」

「人のせいにしないで。変な事ばっかり言うそっちが悪いんでしょ」

「変な事ォ? 覚えがねェな」

「もういい。そんな事よりオジサンも手伝って」


 とぼけるヂンペーを睨みつつ、顎で武器を指し示す。

 が、彼は動かないので仕方なくキウリャは自らのライフルを空に抜けて発砲した。


 血の匂いに引き寄せられるのか、様々な生物が寄ってくるのだ。十分も経てば見張っていてくれと言われた意味を理解した。駆除は本来厳しいが、現地の人間に許可を得ているので規則上でも問題ないだろう。

 バッテリーの節約の為、実弾ライフルが引き続き活躍していた。とはいえ銃声に驚いて逃げる生物も多いので、当初の予想より楽ではあった。

 だからといってヂンペーが何もしない事を正当化するつもりはなかった。


「まァ、のんびりいこうぜ。疲れただろォ? ほれ」


 キウリャの鋭い睨みにも動じず、ヂンペーはドローンで船内から荷物を運んできていた。

 飲料ボトルの箱だ。その内一本を投げ渡されたのでキャッチする。

 飲めば冷たく甘酸っぱい、柑橘フレーバー。激しい戦闘の後で欲しかったところではある。


「これでチャラな」

「割に合ってない」


 ジト目で釘を差すも、やはりヘラヘラ笑うばかり。これ見よがしに溜め息を吐いても意に介さない。

 更に次は矛先を変えてくる。

 

「な? 妖精チャンももっと言ってくれよォ」

「えっと、その言い方も良くないと思いますよ……?」

「……可哀想になァ。得体のしれない輩の間で板挟み。妖精チャンもこんな事押し付けられて。こォんな理不尽、嫌だよなァ?」

「違いますよ! 立派なお仕事が嫌な訳ありません!」


 元気いっぱいに応えるチッチィ。真っ直ぐで天真爛漫な性格は眩しいくらい。ヂンペーとは大違いで、組むのなら彼女の方がずっと良い。

 キウリャは座る位置を彼女の方に少しずらした。


「ホントはさっさと帰りたいんだろォ?」

「お仕事をちゃんとこなしてからですよ!」

「真面目だねェ。立派立派」

「それにあなた達にも興味ありますからね。役得というやつです」

「なら手伝ってくれよォ。オジサン辛くて辛くて動けねェよ」

「喋るのがそんなに辛いなら黙ってて」


 呆れつつ周囲の警戒は怠らないキウリャ。ヂンペーは相変わらずヘラヘラしているばかりで苛立ちが募る。


「しょうがないですね!」


 二人を見ていたチッチィは意を決した様子でふわっと上を舞った。

 ドラゴンの体を温かな光が包む。幻想的な光景にキウリャは目を奪われた。


「何が変わったんだ?」

「匂いを抑えて獣が寄り付かないようにしたんですよ!」

「オイオイ、なら最初からしてくれよ」

「本当は使うなって言われてて……内緒にしてくださいよ?」

「へェ……ならどうしようかねェ」

「え? ……な、なんです? なにを考えているんですか!?」

「その子を困らせないで」

「おぶう!」


 チッチィが本気で怖がっていたので、キウリャは立ってヂンペーの背中に軽く蹴りを食らわせた。つんのめって地面に顔から突っ込んだが助け起こす気はない。

 のんびりと座り直した彼は何事もなかったように喋り続けた。


「他には何ができるんだ? (かって)ェコイツもズバッと切れたり?」

「わたしはそういうの使えないんです」

「へェ。じゃあの勇者サマならできるわけかァ?」

「ズカイナル様ですか? 当然ですよ!」


 誇らしげに胸を張るチッチィ。心からの尊敬が見える。勇者という呼び方は的を射ていたらしい。


「このドラゴンも奴なら楽勝だったって訳か?」

「はい!」

「俺達の船も落としたのも、やっぱり?」

「はい、ズカイナル様です!」

「だとさ。嬢ちゃん、暗殺しようとか思うなよ」

「するような人間だと思うワケ?」

「するだろ。真っ先に死地に飛びこむ凶暴な輩じゃねェか」


 今度はライフルのストックで背中を小突いた。再び地面に転がるのを冷めた目で見下ろす。


「チッチィに免じてこれで勘弁してあげる」

「ってェ! やっぱ凶暴なの合ってんじゃねェか!」

「喧嘩は止めてくださいよ! ……ところで、魔法を知らないみたいですが皆さんの国にはないんですか? 今度はそちらの事も教えてくださいよ!」


 明らかな話題そらしは二人への気遣いだろうか。

 申し訳なく思っているとヂンペーがニヤニヤと答えた。


「ねェんだよなァ。こっちじゃ魔法使えない人間は珍しいのかァ?」

「いえ、使えない人の方が多いですよ? 地域によっては一人もいない場合もあるそうです」

「じゃ想像できるな。ぜェんぶそんな土地なんだよォ」

「それは……大変ですねえ」


 同情するような視線と声。魔法はやはり生活水準に大きく関わるらしい。インフラが整っていないようなものだろうか。

 そこを付け入る隙と見てか、ヂンペーは瞳に暗い光を宿した。


「そうそう生きていくのに大変な国なんだよォ。だから賠償金もらわねェとなァ。分かるか、賠償金? 金はあるだろ? 俺達ゃ船をぶっ壊されて帰れねェンだぜ?」

「えーと、領空侵犯への対応なので……」

「新星の使者にその理屈が通じるとでも?」

「え? えーとお……」


 おろおろするチッチィが見ていられない。

 キウリャはこれ見よがしに溜め息を吐き、ヂンペーをきつく睨む。


「止めて。仕方ないでしょ」

「またあっちの味方かよ」

「現地人とは友好的に進めるのが船長の方針でしょ」

「まァ確かに。そろそろ止めるか」

「次はスタンガン使うから。それとも麻酔が好み?」

「うひィ、おっかねェ!」

「もう! お二人とも! ……っと、来たみたいです!」


 ようやく到着した待ち人は、キウリャからすれば怪しい集団だった。


 ローブに杖。いかにもな姿の魔法使いが五人。正真正銘本物の魔法使いだと分かっているがどうにも胡散臭く感じてしまう。

 だがそれもすぐに消えた。

 チッチィに挨拶を済ませた彼らが杖を振れば、幾何学模様が宙を舞ったのだ。

 呪文と光が幻想的。夢の中めいた錯覚に足元が落ち着かなくなる。

 そしてドラゴンの巨体もフィアーピッカー号も、忽然と消えてしまった。


「安心してください。皆さんの船は転移魔法で移動させただけです」


 チッチィの説明でも動揺は収まらない。脳が現実を受け入れられず、キウリャもヂンペーも表情筋が固まったままだ。


 ワームホール技術は実用されて久しい。だがそれには大規模な施設と莫大なエネルギーが必要だ。宇宙空間でしか維持できない。

 魔法とはいえ人力。母星で不可能な事もこちらでは可能なのだろう。技術の方向性の違いを深く思い知る。


 ぽっかりと開けた空間に勢いよく風が流れ込む。


「ははっ。こいつァとんでもねェ」

「……笑える」


 硬直が解ければ、乾いた笑いは隠せなかった。不安も大きく顔が引きつる。

 ただ、同時に未知への興味と高揚感が強く湧くのも感じていた。

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