5 我々は怪しい者ではありません
現地人との初遭遇の舞台は、戦闘で荒れた森の中だった。戦場跡に現れた彼らは、間違いなく異星の知的生命体、この星における人間。
フィアーピッカー号の乗組員は、応急処置を終えたとはいえ傷が深い。が、それを忘れたかのように色めき立つ。
「宇宙人っスよ、宇宙人! すっげー!」
「ドゥーリン君、失礼です。気持ちは理解しますが」
「宇宙人、ねェ。つうかファンタジーの住人だよなァ」
「ははっ! まあなんでも良いじゃないか!」
「それより武装している点を気にかけるべきだと思うがネ」
「弓矢も持ってる」
反応は賑やか。危機を乗り越えた高揚感がそのままリアクションに表れている。
ただ警戒は続けないといけなかった。友好的な関係を築けるかどうかは不明だ。ウールウが乗組員達の足元を忙しなく巡って緊張を和らげようとしている。
この惑星の住人。やはり服装は調査隊一行からすれば古めかしい。無骨な鎧兜、リーダーらしき人物は豪奢な軽鎧を身にまとっていた。規律正しい様子も含めて考えれば軍隊だろうか。
そして、全員頭に角が二本生えている。恐らく飾りではないだろう。
彼らの中で交わされる言葉はやはり理解できない。自動で言語を分析、翻訳するシステムはあるが完了まで時間はかかる。交渉は難航するだろう。
調査隊一行、そして現地人の集団は距離を保って対峙していた。
と、その緊張感を破って、小さな影が飛び出す。
背中に羽が生えた人型の生物。ドラゴンと同じように、乗組員も名前は知っていた。
「あはっ、妖精じゃないか!?」
「わっー! 可愛いッスね」
「ドラゴンに比べりゃマシかねェ……」
妖精は双方の集団の上を舞い、何事か唱えた。
神々しい虹色の光が全体を包む。
はしゃいでいたが怪訝な表情となる乗組員達。光に温度はなく、変化は感じない。お互いに相手の顔や体を確認したり、計測機器を睨んだり、正体を確かめようと動く。
一方、現地の集団は涼しい顔だ。攻撃ではなさそうだと判断しつつも、不安は拭えない。
「ははっ。驚かせてしまったようだね」
不安を吹き飛ばすような明るい笑い声が通り抜けた。そしてリーダーらしき人物が三歩前に出てくる。
「安心してくれ。危険な魔法ではないんだ。言葉が通じるようになっただろう? 挨拶をしたいのだがよろしいかな」
「……え?」
落ち着いた声音は確かに意味を届けてきた。違和感がなさ過ぎて反応も遅れてしまった。
突然の変化に困惑する乗組員達。顔を見合わせ、固まったり頬をつねったりしていた。
一方の相手リーダーは右手で角に触れ、それから前へ差し出す。彼らの挨拶なのだろう。宣戦布告でなければいいが。
整った顔。褐色肌に黒髪。装飾の多い軽鎧と、角にも金属と宝石の飾り。背中に弓、腰に剣と矢筒。その装備からするとフィアーピッカー号を撃墜した当人かもしれない。
「ホーラックドラゴンを退けるとはなかなかの強者のようだね。敬意を表するよ」
やはり言葉が通じるようになったのだ。流れからして妖精の光の影響なのだろう。
乗組員が再びアイコンタクトを交わし、頷き合う。失礼な物言いはもうできない。
方針が決まれば、淀みなくアモットが進み出る。
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私が船長、こちらの長であるアモットです。よろしくお願いします」
「僕の名はズカイナル。握手は通じるかな?」
手を差し出してきたので快く応じる。友好の挨拶なのは同じらしい。
適度なところで一旦離れ、本題へ。
「さて、新星の使者殿。領空を犯した目的はなにかな」
新星の使者。フィアーピッカー号は衛星軌道上にいたのだからその間、彼らは観測できていたという事だ。
天文学は発達している。
そして領空。飛行機は開発されていないようだが、他の方法により空中を移動する手段は確立されていると見ていい。
だから攻撃された。
罪を犯したのは事実だ。無知は言い訳にならない。交渉において不利だ。
「敵意はありません。領空侵犯は意図しないものでした。心より謝罪致します。私達は可能ならば商談をしたいと考えています」
「なるほど」
ズカイナルは見定めるようにアモットを、そして、背後の乗組員を見た。
美形の彼は悩む素振りも絵になる。ただ大仰な態度は真意を隠すようでもあった。
「私は国に仕える戦士。自国の安全が最優先。とはいえ友好的な関係を築こうとする相手を撃ち落としたのは問題だったね。謝罪しよう」
「こちらも事前の連絡なく申し訳ありませんでした。無礼をしてしまいましたが、侵略の意図はありません」
「未知の存在に警戒し過ぎたようだね。臆病な行動は恥ずべきだ」
「いいえ、当然の反応です。私達が同じ立場でも同じ対応をしたかもしれません」
「理解してくれて助かるよ。……だとしても、ドラゴンの一種を撃退する正体不明の強者を内に入れるのは躊躇われる」
緊張が走った。
笑顔の裏には、いつでも敵を打ち払える強さがあった。
「どうすれば認めて頂けるのでしょうか」
「それはお偉方次第だね。僕は所詮戦士でしかないんだ」
主導権はあちら側。微笑むばかりで無言。
アモットは言葉を重ねず、大人しく従うつもりらしい。
念の為、キウリャはいつでも撃てるように銃を握るが、ズカイナルに射るような視線を向けられた。
恐らく弓矢で宇宙船を撃ち落とす規格外の相手。敵意を向けられれば交渉の余地はない。ライフルを地に落とし非戦をアピールしておいた。微笑みを向けられたのはどんな意味だろうか。
しばしの膠着状態の後、ズカイナルの下に部下が走り寄る。
「戦士長。返事が届きました」
「うん、お疲れ」
爽やかに笑って部下を労う。
そして渡された書状に目を通すと、ニコリと微笑む。
「我らが王は君達使者を城に招待するようだ。お詫びを兼ねて治療をした上で話を聞きたいとの事だね。案内しよう」
「感謝します」
「ただし、全員の入城は認められないようだ。分かるね?」
やはり警戒は未だ強い。
アモットは乗組員を見渡す。
渋い顔、諦めたような笑顔、それでも全員が納得するしかなかった。
「はい。そちらの判断に従います」
「抵抗しないでくれて助かる。それじゃあそちらの彼とそちらの彼女」
キウリャとヂンペーが掌で指し示された。
「君達には治療の必要はないようだし、ドラゴンを討伐した責任がある。解体はこちらでするので、その人員が来るまで見張っていてくれるかな?」
「は?」
思わず声が出てしまった。聞こえてなければいいが。
アモットには申し訳なさそうな顔を向けられる。
無理を言って関係をこじらせる訳にはいかない。キウリャは淡々と頷く。
「なるべく早く合流できるよう手を尽くします」
「ま、期待しねェで待ってるぜェ」
「……了解」
ズカイナル達と仲間達を見送って、二人森に残る。
半壊した宇宙船とドラゴンの死骸の傍。カオスな森に。
キウリャはそっぽを向いて呟いた。
「……最悪」
「さァて、どうなることやら」




