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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第一章 コミックスペースオペラ

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3 バズ、ビーム、炎上

 遠目からは一見母星に近かったこの惑星も、よく観察すれば違いの多い景色だった。

 見慣れない巨木が並ぶ森の中。下草の鮮やかな緑にもやはり違和感がある。バサバサと飛び立った鳥も絶対に母星には存在しない見た目だ。

 しかしそれらこそが本来の主。宇宙船と中の異星人の方こそ異物。自然を蹂躙した異物は報いを受けるように森に呑み込まれていた。


 そして宇宙船を囲むのは、一メートルを余裕で超える巨大な虫の群れ。羽に針、蜂のような外見。外殻は金属めいた光沢があった。人間は余裕で抱えて巣へ運べそうだ。肉食でない事を祈りたくなる。


 どうやら着陸の際に巣を破壊してしまったようで、砕けた破片が散らばっている。怒りで興奮しているのか、生存本能を刺激する羽音が響く。


 キウリャはこの状況で冷静に行動し始めた。

 生き残るには覚悟を決めるしかない。それが自分の役目だと奮い立たせる。

 目を閉じ、深く一呼吸。バンダナをギュッと縛り直した。

 そして素早くレーザーライフルを手に取るとエアロックへと駆け出す。

 そこに、アモットが真剣な面持ちで待ったをかけた。


「待ってください、キウリャ君。危険過ぎます」

「そうそう。そもそも現地生物の無闇な殺傷は厳禁っス」


 ドゥーリンも穏やかな調子で止める。その顔には危険な事態への恐怖よりも、異星の生命への好奇心が見えた。


 この惑星に来た目的はあくまで調査、資源の確保。現生生物を絶滅させては本末転倒。その為星外調査隊の規則で現生生物の殺害は制限されていた。帰還した際に記録を照会されて罰されるケースもある。

 当然乗組員の安全が第一ではあるので緊急性を証明できれば問題ないが、可能な限りは避けたかった。


「中に居れば大丈夫っス。流石にあんだけデカくても虫じゃ壁は破れないっスよ」

「もうとっくに穴空いてる」

「あ、そういえば! でも流石に入れる大きさじゃないっスよね?」


 指摘に焦り始めるドゥーリン。楽観視が陰り出していた。


「電磁障壁やらもブッ壊れて使えねェぞ」

「どうやって籠城するつもり?」

「壊せないなら諦めてその内帰るっスよ」

「へェ。いつまで続けるつもりだ。執念深かったらどうするよォ?」

「希望的観測でしょ。壊せるかもしれないし。被害が出てからじゃ遅い」


 キウリャだけでなくヂンペーも補足。

 二人で危険な事態を改めて突きつける。楽観視は命取りだ。

 それでもドゥーリンは本職は生物の研究者。興味深い対象は生きたまま調査したい。なるべく傷つけない方針を探す。


「銃以外で、ほら、煙で(いぶ)すとか……」

「アレらは言わば宇宙生命体。効果があるかどうか不明だヨ」

「まずは試してみましょうか」


 アモットの指示もあり、渋々キウリャはライフルの構えを解いてスリングで肩に掛けた。

 求める物資は幸い無事だった。

 調査先は未知の惑星。不測の事態も想定して多様な物資を積んでいる。圧縮、軽量化技術により積める物資には余裕があった。


 安全の為にドローンに燻煙器を取り付けて実行。エアロックを開けずに穴から飛ばした。煙がみるみるうちに森へ広まる。

 効果があるか、全員でモニターを凝視。やがて近寄ってきていた巨大虫が退いていった。


「ほら、これで安心っス!」

「だと良いのだがネ」

「在庫はタップリあるよ!」

「ドローンのバッテリーも当分保つみてェだ」

「とりあえず様子見をしつつ、次の策を練りましょう」


 作戦会議の最中、外では案の定の結果が発生。

 煙が晴れてくると、蜂はまた集まってきたのだ。しかも更に興奮している様子。

 荒々しい羽音が嫌な想像をかきたててくる。


「時間稼ぎにしかなってないね! なくなるまで続けるかい?」

「なら今の内に逃げるっス!」

「エンジンは動きますか」

「修理しなきゃムリだなァ。そんな時間もねェし」

「はい。機関部の損傷は甚大でございます。短時間で完了する事は不可能でございます」

「修理するまで籠城し続ける?」

「そう悠長にしていられますか?」


 打開する手は思いつかない。検討を重ねる度に選択肢は闘争の一本へと絞られていく。

 そしてドローンのカメラがある事態を映す。

 蜂が天井の穴に顔を突っ込む様子だ。

 みしりと変形する音がした。計測機器でも損傷が広がるのを確認。


「これならもう認められんだろォ?」

「……そう、っスね。これはもう仕方ないっス」


 無念そうにドゥーリンは顔を伏せた。

 アモットは凛然と決断を下す。


「止むを得ません。駆除を許可します。キウリャ君、危険ですが頼みました。総員補助をお願いします」

「了解」


 キウリャは軽快に走る。貫通した穴の真下へ。

 破壊された物資が散らばる貨物室。穴から蜂の顔が見えた。

 確認した大きい的へ即座にレーザーライフルを向ける。

 真っ直ぐ天へ伸びる光線。蜂を焼き貫き、動きを止めた。


「次、外に出る」

「健闘を祈ります」


 エアロックから外へ出ると備え付けられたはしごを使い船体の屋根へ。

 森を一望。蜂の群れがよく見えた。

 敵意が肌を刺す。死地に体が震える。

 唾を飲み込み、キウリャは胸ポケットの端末を起動した。


「射撃補助」


 視界に広がる半透明のホログラムモニター。情報が展開。

 ざわめく羽音が耳障りなのでノイズもカット。

 落ち着いてレーザーライフルを構えた。

 まずは一番近い個体に狙いをつけ、放つ。

 素早く飛び回るがこちらは光速。しっかり頭部に命中。あっさり地に落ちる。焦げた匂いが森に広がった。

 次を撃とうとしたところ、端末からヂンペーの声がした。


「やるねェ。さっすが嬢ちゃん」

「邪魔するなら黙って」

「邪魔じゃねェ、助けんだよ。ほれ」


 視界に情報が転送されてきた。

 生態を分析したデータは確かに助かる。人格はともかく仕事は評価できた。


「あァ、あと嬢ちゃん。悪いニュースだぜェ」

「なに」


 イライラしつつも淀みなく銃口を動かし、次々と蜂を撃ち落としていった。集中は乱さない。

 目を離さぬまま、応じる。


「レーザーのバッテリー在庫が残り少ねェ。ほとんど使いもんにならねェみてェだ」

「は?」


 思わず端末に目を向ける。


 矢が船を貫いた際、直接射抜かれたものだけでなく、衝撃や熱により物資が損壊していたようだ。

 残ったのは五つらしい。それで全部。蜂の群れ、更に今後この惑星で過ごす事を思えば心許ない。やはりここでレーザーを使い切るのは躊躇われる。

 動揺を一呼吸で収めて、冷静に尋ねた。 


「……分かった。代わりは?」

「実弾ならタップリある」

「そんな骨董品……」

「あとはスタンガンに麻酔に水鉄砲に榴弾に……」

「もういい。実弾持ってきて。どうせなら軍用ドローンがあれば良かったのに」

「戦争しに来たんじゃねェからな」

「……分かってる。まあ、なんとかしてみせる」


 民間のドローンに兵器は搭載できないようロックがかけられている。星外調査隊でも同様だ。

 そして惑星の環境、生物の特性によってはレーザー銃が使えない場合も有り得た。多様な武器はあらゆる場合に備えての装備だ。

 不慣れな銃でも訓練は十分積んでいる。


 すぐにドローンが船内に引っ込み、実弾ライフルと弾丸一式を運んできた。

 蜂の攻勢が途切れたタイミングで実弾ライフルに持ち替える。

 レーザーライフルとは違う重みがずしりと手にのしかかった。実戦では初。一瞬だけ目を閉じ、震えを抑え込んだ。


 基本通りの射撃姿勢と動作で狙い定め、撃った。

 反動が自身に響く。心臓が跳ねた。

 それだけ重い鉛弾だが、甲殻を貫けず、蜂は飛び続けた。続けての二射目でようやく落ちる。

 長く息を吐いた。


「おォ、いけそうだな」

「邪魔しないで」


 息を止め、集中。引き金を押し込む。セミオートの連射。蜂を貫く。撃ち落とす。機敏な動きで外す事はあれど弾数でカバー。

 しばし銃声が響き続けた。

 タイミングを計り、余裕を持って装填。少し手間取るも攻撃は途切れさせない。

 そうしてキウリャは周囲から巨大蜂を一掃した。表面上は涼やかな顔で。


「……ふう」


 吐く息も、握る武器も、脈打つ心臓も、激しく熱かった。



 一方、船内ではナインがまた不吉な情報を捉えていた。


「報告。新たな生体反応がございます」

「蜂以外ですか?」

「こちらをどうぞ」

「……は?」


 データを確認した乗組員は呆けた声を出すしかなかった。それでも事実は事実だと受け入れるしかない。


 空想が現実に。

 炎が空を駆けた。赤が目を焼く。全員が強張った顔でそれを見た。


 逃げていた蜂が黒く焼けて落ちていく。

 ずしん、と重い足音が響く。

 弱者をバリバリ食べるのは圧倒的な強者。


 大型の爬虫類めいた獣。幻想の大物、ドラゴン。


 乗組員達は騒然となるしかなかった。


「マァジかよ……」

「ハハッ。こんなの笑うしかないね!」

「うわあ! 安全なところで見たかった!」

「面白くなってきましたね」

「それは空元気かネ?」

「……負けない」


 不思議と恐怖はなかった。凪いだ心は現実逃避かもしれないが。

 ただキウリャは乗り越えるべき障害物として、前を見据えた。

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