10 未知を冒険するなら遠慮なく
快晴の空、ペガサスの群れが太陽を横切った。縁起の良い光景。眩く照らされる王城はより荘麗さを強調され、その威厳を誇る。賑わう城下町の声は高らかに広がっていく。
この日、城では式典が開かれる。
有力者が多数招かれ、もてなす準備も万端。城内は常よりも華麗な空間へと仕上がっている。
主役の一人であるキウリャも着飾っていた。薄緑の大きく広がったドレスに豪華なアクセサリー。母星ではまるで縁のなかった姿。きらびやかな格好に反し、顔色は曇ってる。
「早く着替えたい……」
「全くだ。こんなもん着たかねェや」
「散々城に行きたいって言ってた癖に」
「ボス達ゃこんな堅苦しいカッコじゃなかっただろうがよォ」
ヂンペーもまたこの星の貴族が着る豪奢な服装。ゆったりしたシルエットが新鮮だった。ゴーグルもない。ヒゲも剃られそうになったのを抵抗してなんとか認めさせていた。
お互いの不満もあって空気は悪い。
「仕方ないでしょ。今日は式典だし」
「ハイハイ。おこちゃまみてェなバッジもダセェバンダナも式典にゃ合わねェよなァ」
神速で脇腹に肘打ちを食らわせる。ドレスでも威力は変わらず安心。悶絶するヂンペーを冷たく見下ろす。思えば初対面でも言われていた。いい加減直せないのかと首を横に振る。
と、そんな二人の状況を明るく変える声が届いた。
「キウリャさーん!」
目を輝かせたチッチィが飛び込んでくる。服装は難しいのかいつも通りだが、髪飾りが変わっている。花の意匠がよく似合い可愛らしかった。
「ふわああっ! とっても綺麗です!」
「そう? いつもの服が落ち着くんだけど」
「勿論いつもの格好も素敵ですけどっ!」
「ありがとう」
二人、柔らかい微笑みを交わす。復活したヂンペーが背後でからかう気配がしたので睨んでおいた。
それから場にそぐわない弾んだ足音も響き、更に賑やかな声が増える。
「おお! バッチシ溶け込んでるっスね!」
「うんうん、たまにはこんな服を着るのも良いもんだろう?」
合流したアモット達もやはり着飾っていた。アンドロイドのナインにも特注の衣装が用意されている。アモットに懐いてしがみついている子供はなんと王女らしい。
城に到着した時にも会っているが着替えた姿は新鮮だ。皆慣れない様子だが、アモットだけは違和感なく着こなしていた。堂々とした彼女に、キウリャは弱々しい声で頼む。
「船長、主役変われない?」
「提案してみますが恐らく無理でしょう。晴れ舞台を楽しんだらどうでしょうか」
「人生諦めも肝心だヨ」
残酷な内容を告げられ深い溜め息を吐くキウリャ。落ち着かなくて無意識にバッジを触ろうとした手が空を切った。
「やあ、レディの皆様方。やはり美しいね」
颯爽と現れたズカイナルがキザに話しかけてきた。普段より立派な衣装。やはり男性陣の誰より似合っていた。
キウリャは彼をじっと見つめる。大袈裟な式典に、疑念を抱いていたから。
「……これ、何が目的?」
「英雄を称えるだけさ。奪われていた宝珠は建国の礎となった国宝だからね」
説明には納得できる。それだけ宝珠が国にとって重要であり、功績の大きい者を評価するのも道理だ。
それでも解消されないモヤモヤがあるのでジト目を向け続ければ、やがてズカイナルは肩をすくめた。
彼は声を潜めて語る。
「……ここだけの話、賊を取り逃してくれて助かっているんだよ。人類以外の知的な種族となればなにかと厄介でね。下手すると国が割れかねない。そしてそれは、君達も同様だ」
曖昧だが想像はできる。
例えば神話との整合性が取れなくなるのは都合が悪い。権威の失墜は、権力者だけではなく国民にも被害が及ぶ。利用して私腹を肥やそうとする者も現れるだろう。
要は国内の政争を有利に進める為のアピールか。面倒な事この上ない。
それでも、逆らうのはリスクが大き過ぎた。
ズカイナルも同情的なのか、優しい笑みと声を向けてくる。
「我慢してくれるかな。頑張ってくれるなら月へ行く為の援助もできるよ」
「持ちつ持たれつってワケでしょ。分かってる」
「嬢ちゃんは暴れてりゃいいだけだしなァ」
「ヂンペー君、過ぎた言葉は控えてください」
「ヘイヘイ。ボスの仰せの通りにィ」
「反省してないッスよ!」
「アタシがガツンといくしかないのかねえ!」
「おう止めろよ。凶暴なのァ一人で十分だ」
「もう忘れてる」
キウリャがヂンペーの後頭部にチョップを叩き込む。他のメンバーは笑ったり、呆れたり、それぞれ愉快に反応。懐かしさに胸が温かくなる。チッチィとズカイナルすら馴染んで朗らか。
気兼ねない仲間のやりとり。戻ってきた日常が、愛おしい。キウリャが浮かべるのは微笑みだが、内心には心地良い熱が満ちていた。
そして英雄を称える式典へ。
威厳ある国王と謁見。光栄な言葉を賜る。
こうして宇宙からの調査隊、来訪者一行は歴史に刻まれる。彼らの奮闘が認められた証が克明に。
先が見えずとも着実に進んできた道の、可視化された成果。誇らしいと胸を張って受け取る。
絢爛な空間を貫く陽光が、ただ真っ直ぐに伸びていた。
「……んっで、まだこんな事しなきゃならねェんだよ!」
『エルフとの交渉に希少物質が必要である事が理由でございます』
「んな事聞いちゃいねェ!」
晴れた空には不思議な岩が浮かぶ。草木がまばらに生えた広大な荒野から土煙がもうもうとあがっていた。
爆走するのはフロートバギー。その後ろには、大型のミミズめいた生物。
賑やかな声が、吹き込む強風や大型生物の移動による地響きをかき消さんばかりに放たれていた。
「わああっ! 来てますもう来てますよ! もっと速く!」
「悪いけどとっくの昔に最高速度だね!」
「オジサン、喚いてないでサポート」
「ったく、分かってんよォ!」
「ええっ! もう少し観察したいっス!」
『自重したまえヨ』
『効率的なルートを計算致しました。ご確認くださいませ』
『助かります。皆ナインを見習ってくださいね』
喧騒の中、キウリャは背後の怪物に何発も撃ち込んだ実弾ライフルを置き、代わりにグレネードランチャーを向けた。
轟く爆音。土煙を上書きする爆炎。巨大ミミズは頭部を大きく損傷し、ようやく止まった。
「やりましたねキウリャさん!」
「ありがと、チィ」
「止めてください、調べるッス!」
「止まるのは坊ちゃんの方だろォが。目的は地下資源なんだぞ?」
「ま、両方やればいいさ! なんとかなるってね!」
希望は見えてもまだ遠い。
もうしばらくは、この惑星に滞在するしかない。
危険度は高く、それでも勇敢で頼もしい仲間が揃えば必ず成功できると確信できた。既に証明した以上、今後も果たせるはずだ。
だから一行は今日も楽しく騒がしく、冒険を繰り広げるのだ。
第一部 完
という訳で、ここではまだ一区切り。「飛べない鳥のセッション」はまだまだ続きます。
とりあえず書いておいたネタの回収やキウリャとヂンペー以外のメンバーの掘り下げなど、5章以降の構想もあるのですが、いつになるかは分かりません。早くても夏頃になると思います。それまで完結済みにしておきます。
ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました!
連載再開しましたら引き続きよろしくお願いします!




