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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第四章 ハードメタルリミックス

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9 遥かな旅路に贈り物を

 異星の宇宙船での戦闘は終わった。弾痕などの荒々しい形跡が残りつつも、平穏。物寂しくも日常の風景。

 これまでの経緯を一応水に流し、二組の冒険者は改めて対面する。


 スライムはイユーク、グリフォンはコッパリヨンと名乗った。彼らは同じ星に住む知的生命体であり、衝突の歴史はあれど、現在では協力して宇宙開拓に乗り出せるようになったらしい。


 例の部屋に招かれると、コールドスリープ設備に入った乗組員が並んでいた。スライムとグリフォン。深い傷に体の欠損、痛ましい姿。

 彼らを見つめるイユークとコッパリヨンの背中もまた、切ない。嘲笑ばかりの面影はなく、威圧感のあった体は小さく見えた。悲愴な空気を部屋の無機質さが圧縮しているよう。


 キウリャ達は真摯に断りを入れ、治療の準備を始める。


『グリフォンはともかく、不定形の方々は流石に厳しいネ』


 カメラ越しに診たワトウが医師としての見解を述べる。冷静で感情を挟まない口調が静かに響けば、イユークは早速反発した。


「はっ! やっぱりできないんじゃないか! 口先だけなんてしょうもない!」

『話は最後まで聞くものだヨ』

『スライムのデータならあるっスよ!』

「この星の似てるだけの生物と一緒にしないでほしいんだけど!」

『無論参考程度だヨ。文句を言うならデータを提供してくれないかネ』


 ブツブツと抵抗するイユークに代わり、コッパリヨンがデータを送ってくれた。視線の動きでホログラムモニターを操作するらしい。それを横目に、愚痴は尚も続いた。


「オマエらにこっちより優れた医術があるなんて思えないね」

『確かに僕には君達を治療する術はないヨ』

『実行するのはチッチィ君です』

「はわっ、私ですかあ!」


 アモットの言にチッチィが目を見開いて叫ぶ。今まで話についてこれずに疑問符を浮かべるばかりだったので完全に予想外だったようだ。

 モニターの中でアモットが真摯に頭を下げる。


『はい、お願いします。こちらで回復魔法の知見は得られましたが、キウリャ君とヂンペー君には再現は難しいでしょうから』

「それは、そうですけどお……」

「大丈夫。チィならできる」

「……う〜……はいっ、分かりましたよおっ!」

「ありがとう。お願い」


 自信なさげなチッチィを励まし、指を添える。心強く、どれだけ感謝してもまるで足りない。せめてもと優しく声をかけた。


 それから端末を通し、魔法陣のデータを受け取る。アモット達が苦労して城で築いた信頼の成果だ。

 チッチィが確認して、大きく目を見開いた。


「わっ! えっちょっ、これ、なんですか!? 見た事ないですよ!?」

『僕達で改良を加えたものだヨ。実験して効力と安全性は確認済み。つい先程得たデータを元に調整もしておいたからネ』

「はわ〜……かなり高度な魔法ですよ。確かにどんな重傷でも治せるはずですけど、私の魔力じゃとても……」

「だから宝を使やァいいんじゃね?」


 足りない魔力を借りるのは以前ドワーフの街でも実行していた。宝珠は莫大な魔力の塊、この場において最適だ。

 宇宙船が飛ぶだけのエネルギーは確保し、回収。

 空っぽになったと発言していたがハッタリだった。チッチィによれば、三つ合わせればまだまだ十分な魔力があるらしい。

 とはいえ物が物だけにチッチィは渋る。


「でもこれ、エルフの都の宝な訳ですし……」

「そんなの慰謝料としてもらったっていいんじゃなーい」

「ごめん。後でエルフに抗議されるかもしれないけど、使って」

「ほっ、本気ですか!?」

「黙っててくれる? 共犯になってくれる?」


 キウリャは自分でもこの言い方は卑怯だと思う。仲間に対して不誠実だと。それでも心の天秤はこちらに傾いている。

 チッチィはうんうん唸って、最終的に迷いを振り切った。


「え、ああ〜っとぉ……んんん〜…………分かりましたあ!」

「ありがとう。チィがいてくれて、本当に良かった」


 キウリャは微笑み、チッチィの頭を指を使って優しく撫でる。甘えたような表情がくすぐったい。後ろでヂンペーがなにやらニヤニヤしていたので足を踏んでおいた。


 こうして準備は整った。

 チッチィが朗々と唱えると空気が勢いよく流れ出す。魔力の奔流か。鳥肌が立ち、不思議と心地良い感覚がした。

 室内を覆う幾何学模様。虹色の光が無機質な装置を照らす。

 小さな汗が浮かぶチッチィ。キウリャとヂンペーはじっと見守り、イユークとコッパリヨンはそれぞれ、形を変え、姿勢を正す。彼らの祈りだろうか。

 光は強さを増して、対象者の中へと吸い込まれていく。幻想的で、厳かな光景だった。


 そして、魔法陣は消える。無機質に戻る室内。疲れ切ったチッチィがキウリャの肩に乗ったので、労いを込めて背中を優しくさする。

 この船の主達は、恐る恐る仲間の状態を確認。

 途端、イユークは溶けたように床へ広がる。キウリャは失敗かと焦ったが、聞こえてきたのは安堵の声だった。


「良かった……皆、良かった……!」


 コッパリヨンもまた脱力していたが、しばらくの後キウリャ達に向けて膝を折る。


「ありがとうね。本当に、ありがとう」


 翻訳は高性能なようで、涙声を鮮明に伝えて来た。

 もう恐ろしい姿には見えない。分かり合えた気がした。



 回復魔法で傷は癒えたとはいえ、目を覚ますにはまだ時間がかかる。

 一行は部屋を出てブリッジへ。

 直前の姿がなかったかのように、イユークは居丈高に振る舞っていた。


「でっ? この後どうするつもり? 見逃してくれるって? 古臭いヤツらに突き出すってんなら抵抗するよ? 契約は復讐を止めるってだけだもんね?」

「オイオイ、折角治した怪我人を危険に晒す気かァ?」

「人質のつもり? こっちがその気になれば多勢に無勢だって思わない?」

「ワタシは見逃してもいい」


 二人の喧嘩になりそうな話を遮り、キウリャは言った。通信先からも含めて視線が集まる。


 王国やエルフの都に身柄を引き渡すのが正道かもしれない。被害者であったとしても、加害者でもある事に変わりはないのだから。

 だとしても、残酷。理不尽だ。法に則り罪に問われるなら正当な手続きを経るべきだが、それが果たされるかも怪しい。断罪には筋が通らないと思えたのだ。


 ただ、まだ信用されないのか、イユークには煽られる。


「はっ。調子の良い事言っちゃってさあ! なに企んでるのさ。売った方が得なんじゃない!?」

「かもね。でも、気分は良くないから」

「オイオイ嬢ちゃん。甘ェんじゃねェの」

「甘いのは嫌い?」

「ああ。嫌いだね。……んだが、悪かねェんじゃねェの」


 ヂンペーは頭をボリボリとかきながら言った。素直ではないだけなのだろう。チッチィと笑い合う。


 憧れた父も、仲間内の揉め事でしかないが、誰もが納得できる形で治めていた。

 正解ではなくとも、一方的ではない平等な答えを追い求めたかった。


「船長の意見は?」

『現場の判断に任せます』

『あんな話を聞かされちゃあね!』

『賛成するっス!』

『全く、悪巧みは程々にしたまえヨ』


 乗組員達からも同意を得られた。ならば障害はない。

 やはり表情は読めないが、異星のふたりからはポカンとする気配がした。


 そんな温い空気の中、ぞんざいな態度でヂンペーは片手を突き出す。


「ほれ、そっちも提供しなァ。玉コロはくれるって約束だろォ」

「ひひっ。忘れてくれてよかったのに。むしろ感動した分の料金だと思わない?」

「正当な報酬だろォが。つうか流石に痛み分けじゃなきゃ言い訳立たねェよ」

「ええー? サービスしてよー?」

「イユーク」

「仕方ないなあ」


 コッパリヨンに諭された結果、宝珠はヂンペーの手に。本気で拒否していたのではなく遊びの範囲だろうか。若干声も柔らかくなったかもしれない。  


「ところでよォ、なんで三つもあんだァ?」

「一つはお城の近くの神殿。もう一つは衛星(つき)で見つけたのよ」

「はあ!?」 


 特大の情報に、ヂンペーが口をあんぐりと開けて固まった。キウリャも乏しい表情だが内心は似たようなもの。チッチィはひたすら困惑。

 コッパリヨンはおかしそうに笑い、説明してくれた。


「惑星に降りる前は月を拠点にしててね。有用な物質だから下でも探したのよ」

「へェ、そりゃあ良い事聞いたなァ」


 気を取り直し、ニヤリと笑うヂンペー。フィアーピッカー号の修理にも有用な情報。通信の向こうでも賑やかな反応がしていた。

 希望が、見えた。それはこの星から離れるのも近いという事だが、キウリャは一旦見ない事にした。




 キウリャとヂンペー、チッチィは宝珠を奪還したが犯人には逃げられた。そういう体で口裏を合わせる相談を終えて、脱出の準備へ。

 地上から狙われない程度に高度を降ろした後は、チッチィの魔法で着地する算段。その後この船はまた月へ向かうらしい。


 全員が開いたハッチの前に並ぶ。二組の冒険者は向かい合う。入った時とは異なる形で。

 イユークは今までよりかなりトーンを落として、言葉を発した。


「本当は考えを変える気なんてなかったよ。憎くて羨ましくて、自分が死んでも爆発させるつもりだったさ」


 暗い感情のこもった重い台詞。

 ハッチから風が吹き抜けると共に、軽やかに変わった。


「でも、オマエらがリヨンに気付いた時、どうでもよくなった。話が通じるってさ、本当に安心するもんだね」


 無邪気な笑顔は幻視だろうか。内心の疑念に、キウリャは静かに首を横に振った。


「荒療治してくれて助かったわ。正直、イユークもろとも壊れても良いと思ってたから」


 深い本音を吐き出したコッパリヨン。やはりかなり堪える状況。ギリギリで仲間を支えていたらしい。


「だからいつかお礼がしたいわ。また会う機会があれば共同で調査するのも良いわね」


 キウリャは素直に頷く。叶えばいいと、叶えたいと思った。もう争う理由はないのだから。

 この星に訪れるタイミング次第で、運命は変わっていただろうから。



 かつての敵同士の別れ。強い風の中、互いに爽やかに言葉を交わす。


「じゃあね!」

「さよなら」

「また」

「俺ァもう会いたくねェがな」

「もうっ、ヂンペーさん!」


 賑やかな声を残し、キウリャ達は船からダイブする。スピードと爽快感が妙な湿っぽさを押し流す。

 頭上には青空を登る銀の宇宙船。彼らの未来も上向くようにと願った。

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