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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第四章 ハードメタルリミックス

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8 決着のトリガー

 緑と黒の深い森。天と地を遮る木々の間に、痛々しい破壊の跡が刻まれていた。星外の技術、レーザーが通った証が克明に残る。

 その上空を飛ぶ、元凶の宇宙船。銀色の流線型は悠々と進む。異質な光景は遥か遠くからも確認できるだろう。


 そこにキウリャとヂンペー、チッチィは険しい顔で降り立った。ドローンも一台残っている。


 船内はかなり広い。吹き抜けの二層構造。スロープが上階へ伸びる。材質も馴染みがない。フィアーピッカー号とはまるで違う。自分達とは異なる高度な文明だが、連想はかつての日常を呼び覚ます。

 それでもここは、敵地だ。

 ライフルを握る手が自然と強張った。


 入り口付近で立ち止まり、黙々と端末を操作していたヂンペーが毒づく。


「クソッ。スキャンが妨害されんな」

「目視しかない?」

「まァ構造とノイズの濃度からある程度予想できるがよォ」

『こちらでもサポートします』

「チィの魔法で探れない?」

「そうですね……魔力の気配なら辿れると…………はい、分かります!」

「ありがと」


 張り切ってくれたチッチィの報告を、予想したマップに反映。恐らく船を制御するブリッジとは逆方向の機関室に宝珠はあると思われた。

 次の問題は相手の対処方法だ。


「んで坊ちゃん、解析はァ?」

『んー……やっぱ弾丸の威力は吸収されてるっスね。どの部位も関係ないみたいで、核とか重要臓器も全然分かんないっス。熱による変化は少ないけど有効ッスね。あー! もっと詳しく調べたいッス!』

「おォい、発作は抑えとけよォ」

『分かってるっスよー』


 先程ライフルを撃ち込んだ時の解析結果。あの銃撃では制圧できないと理解しての先手。

 不謹慎に楽しむ気配はありつつもドゥーリンの仕事は真っ当だ。


「だってよ、嬢ちゃん」

「じゃあスタンガンは?」

『実際やってみなきゃ分かんないっスけど、レーザーよりは可能性あるっス。メインはそれっスね!』

「分かった」


 用意しておいた警棒型のスタンガンを手にしたキウリャ。レーザーライフルは降ろしスリングで背中に回す。グリフォンには有効であるのは確認済みなので外せない。

 ヂンペーはマガジンを変えた実弾ライフルを構える。


 最後に方針を確認。


「制圧と奪還、どっち目指す?」

「エネルギーを確保して取り引きした方がいいだろ」

「……なら、その方針で」


 作戦会議を終え、慎重に進む。目標は機関室。

 敵地。警戒は強く、全方向へ気を配る。ひどく静かだ。ドローンの作動音がやけに響く。空気が固く、重い。生活感のなさがこの船の乗組員のした経験を想像させた。

 罠や待ち伏せ、張り詰めた視線はそれらを見逃すまいと鋭い。チッチィの力を借りて、吹き抜けを一気に上がった。


 上層に踏み込めば、やはりそこも空虚だ。高い天井。広い通路。清潔な壁と床。

 相手は確実に仕掛けてくるだろうが、それはいつ、何処からか。手段も読めない。徹底的に痕跡を隠している。

 静かに機関室を目指す。何もいない。ただ白い空間。息が詰まりそうな緊張感。


 が、唐突に、キウリャの視界は歪んだ。


「っ!」

「わわっ、キウリャさんっ!」

「ひひっ。色素を薄くした程度で見逃すなんて情けないねえ!」


 嘲笑とともに透明なスライムがキウリャの頭部を覆う。

 呼吸ができない。手を伸ばしても何も掴めず、粘体に沈むばかり。チッチィの必死な声も小さく聞こえた。


 そんな状況で、ヂンペーはブリッジめがけ駆け出した。


「へえ! 仲間を見捨てて──!」


 嘲りの台詞を、バチン、という甲高い音が止めた。

 出処は粘体に突き刺したスタンガン。

 走る電流。スライムはスタンガンと接触する部分を切り離して逃げた。体色は元の黄色に。キウリャから素早く離れ、声を上げる。


「バッカじゃないの!? 自分まで感電してさあ!」

「うるさい」


 キウリャは強気に睨む。ダメージは覚悟の上。非殺傷武器は好都合。相打ちでもヂンペーとチッチィに託せるので上出来だと考えていた。


 それを察してか、膠着状態。

 キウリャは背後の機関室へジリジリと下がる。スタンガンを突きつけて牽制し、着実に目的へ近づいていく。

 だが距離が空くと、相手から動いた。

 粘体が蠢き、異物が浮かんでくる。どのような原理か不明だが体内からクロスボウが現れた。その瞬間にキウリャは転がる。直後に風切り音。驚く間もなく飛んできた矢がかすめていった。


「残念! もう近寄らないよ!」

「それならそれで」

「私も助けますよ!」


 態勢を整える間に二射目の用意は終わっている。死線に肌がひりつく。

 キウリャはスタンガンのストラップを手首にひっかけ、レーザーライフルを構える。チッチィも魔法で援護してくれる。

 空虚な場に生まれる静かな熱気。撃ち合いが始まった。



 一方、ブリッジへ向かったヂンペーは、立ちはだかるグリフォンに足を止められていた。

 距離を置いて向かい合う。大型生物の迫力が船内を圧している。

 ヂンペーは安定した姿勢をとり、ライフルを放つ。

 反響する銃声。宙を裂く銃弾。しかし全弾、壁に命中。グリフォンは堂々と揺らがなかった。


「なにやってんの」

「俺ァ悪くねェよなァ?」

『はい。軌道は不自然に曲がりました』


 スライムも嘲笑の気配。やはり仕掛けがある。原理を解明しなければ銃での突破は難しそうだ。


「だったら手段は選ばねェぜ?」


 ヂンペーは進路を変え、とある部屋の前へ。ロックされた扉を軽く調べ、ライフルを構える。

 そしてアピールするように声を張った。


「弱点はここだろ!?」


 発砲音と同時に、悲鳴のような声。グリフォンが翼を広げて突っ込んでくる。燃える瞳。余裕ある通路を真っ直ぐに飛んでヂンペーへと迫り、スライムが慌てる。


「戻れ! 来なくていい!」

「やっぱ大事な部屋だよなァ!」


 スライムの意識が逸れた。その隙にキウリャは距離を詰めてスタンガンを突き出すも、あと一歩のところでかわされた。しかし丁度いい間合い。勝負所だと絶え間なく攻め続ける。余所見の暇は与えない。


 ヂンペーは扉への銃撃を続ける。グリフォンが来るギリギリまで破壊を目論む。横目が敵意を捉える。

 ドローンが強烈な光を発した。

 間一髪。

 止まらないグリフォンの突撃を、ヂンペーが横っ跳びで回避。鋭い爪から逃れた。わざとヘラヘラした笑みを浮かべてライフルを構え直し、対峙する。


 結果、ブリッジはガラ空き。


「チィ、お願い!」

「任せてくださあい!」


 そよ風が髪を揺らす。先程とは反対に妖精が宙を駆け抜けた。

 反応したグリフォンをヂンペーが射撃で牽制。扉を破壊する素振も見せ、決して追わせない。

 キウリャも揺さぶりをかける。


「追わなくていいワケ?」

「ひひっ。ハッタリだね。囮になんて引っかかるもんか。古臭いファンタジーにこの船は手に負えないよ」

「そ」


 スライムの断言に微笑を返す。ならば集中するだけと細く息を吐いた。


 キウリャとスライム。ヂンペーとグリフォン。二つの攻防は近距離での泥臭い争いとなっていた。

 銃にクロスボウ、爪。あとはドローンのサポート。

 互いに動き続ける事で避け、合間に攻撃を与える。武器は限られ、尽きているのだ。いつ致命傷を追ってもおかしくない。

 激しい運動により心臓が暴れる。荒い息が熱い。

 傷ついていく真っ白の床と壁。破れる服。

 徐々に思考は鈍くなり、鍛えた肉体の反射任せになっていく。


 それに終わりを告げたのは、静かな作動音だった。


「はあ!?」


 機関室の扉が開いた。チッチィが仕事を成したのだ。意識が覚醒してクリアに。

 疑念と苛立ちを声にしたスライムへ、キウリャは自慢げに理由を教える。


「翻訳はチィの得意技なの。馴染みのない機械もマニュアルさえあれば動かせるでしょ」

「ああ、そう!」


 振り返れば機関室の内部が見えた。宝珠が設備と繋がっている。しかも三つ。奪われたのはエルフの都だけでなかったらしい。

 全力で駆け出す。

 追って伸びる粘体。

 狙い通りに再び反転し、スタンガンを繰り出した。


「そんな事だろうと思ったよ!」

「そう」


 粘体は自由自在。こちらの攻撃に合わせて形を変え、空白が作られた。クロスボウが頭に向けられる。


 キウリャは冷静に、作動したままのスタンガンを投げる。そして床に伏せた。同時にレーザーライフルを前に構える。

 その視線の先にはヂンペー。こちらに向くライフルの銃口。背後のグリフォンの爪が光る。

 二丁の異なるライフル、その引き金が引かれた。


 銃弾がスタンガンに命中。弾かれてスライムに飛び込む。炸裂する電撃。感電した彼はクロスボウを取り落とした。

 レーザーがグリフォンの後脚を貫通。力が抜けて横倒れになる。舞い散る鮮血。倒れながら振り下ろした爪は空振った。

 時が止まったかのような静寂。息と心臓が激しく存在を主張していた。


 ヂンペーは疲れた顔でしゃがみ込み、チッチィが心配げに飛んでくる。

 我に返ったキウリャも立ち上がり、機関室へ。一番近い宝珠を手に取ると素早く戻る。

 落ちたスタンガンのスイッチを切り、スライムを解放。表情は見えないのに何処か悔しげだ。


 キウリャは平常心を意識して話しかける。


「じゃ、取り引きしない?」

「はっ。脅迫の間違いだろ。偉そうにしといて野蛮人なんだからさあ!」


 強気な発言だが、覇気はこれまでより弱いスライム。勝敗を強く意識する。

 それでも上からではなく、淡々と持ちかけた。


「仲間を治療する。だから復讐は諦めて」

「……へえ? 何の話かな?」

「あの部屋に仲間がいるんでしょ。この星の住人に襲われて、致命傷を治療できずにコールドスリープするしなかったってところじゃない?」


 沈黙は正解か。

 語られた境遇に、求めるエネルギー。状況からの推測はヂンペーとも共有していた。


「おいおい、状態も見ねェで勝手な事言ってんじゃねェよ。できませんでした、じゃ余計こじれんだろォが」

「つまり治療自体には賛成なんだ?」


 ヂンペーは眉をひそめ、それから舌打ち。やはり悪役にはなり切れないのだ。


「はっ。哀れみなんていらないよ」


 しかしスライムは乾いた笑い声で否定。深い恨み、不信、黒々とした思いが壁を作る。


 だからキウリャは、もうひとりへと呼びかける。


「アナタはそれでいいワケ?」


 グリフォン。

 動物ではなく対等な知的生命体として、対話を求める。


「帰りたいんでしょ? 皆で」


 スライムの乾いた笑い声が止んだ。きっとポカンとしている、そんな気配。


 グリフォンは太い声で楽しげに答える。


「……へえ、気付いてたのね」


 その音声は口ではなく、首の辺りから聞こえた。自動翻訳装置があるのだろう。


 キウリャもヂンペーも驚きはしない。これもまた予想通り。


「そりゃ、あれだけ見た目について言われてたらね。オジサンを止めようとしたのも仲間を守ろうとした感じだったし」

「つうかこの船デカ過ぎんだよ。思いっきりグリフォンサイズだろォが。やっぱり見た目で判断するって馬鹿にしたかったんだろォ?」


 スライムはやはり悔しそうだ。不貞腐れたように体を床へ広げている。

 グリフォンはゆっくりと近寄ってくる。警戒を解き、素通し。

 彼らは寄り添い、朗らかに会話を交わす。


「ね、イユーク。失敗したじゃないのよ」

「あーあ。賭けはこっちの負けかあ」

「ふふ。強がっちゃって。かわい」


 恨みの抜けた声が新鮮。仲間内での本来の姿は微笑ましかった。

 邪魔せずに、見守る。


「……彼らとなら協力できると思うわ」

「失敗したら今度こそ爆破するからね?」

「はいはい。それでいいわよ」


 グリフォンはキウリャに向き直ると、真剣な瞳で承諾を告げる。


「それじゃあお願いできるかしら」

「勿論」

「ありがとね」


 船内は温かなムードへ。

 来訪者同士の争いは決着。新たな縁を結び、交流を始めるのだった。

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