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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第四章 ハードメタルリミックス

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7 もう一組の冒険者

 開けた森は温かい。差し込む光は白く、柔らかな風が通る。そんな幻想的ですらある光景を侵食するように、言葉は紡がれていた。

 黄色い軟体生物──別の星から来た宇宙人は低く重苦しく、それでいて茶化すように話す。


「ん? どうした? 黙っちゃって。醜い姿がそんなに珍しい?」


 嘲りが深く濃い。コミカルなジェスチャーも(よど)んだ感情を引き立てる。

 否が応でも恨みが伝わってきた。


 通信越しのアモットの声も重い。


『失礼しました。私の考えは足りていなかったようです』

「は! 何を謝ってんだかねえ! 表面だけの同情は要らないんだよ!」


 痛い沈黙。同じ深みへ引きずり込まれそうな圧があった。

 一呼吸。キウリャは冷静さを意識して問う。


「……何が目的?」

「オマエらと同じ。帰りたかっただけさ」

「それで何故強奪なんて手段を……」

「ひひっ! よく言うよ。オマエらは運の良さで上手くいったからってさあ!」


 怒りと憎しみに満ちた声。体を奇怪に動かしながら、スライムは訴える。


「言葉も分からず、見つかるなり問答無用で攻撃された! 化け物を見る目で! なあ、どうしろって!?」


 キウリャ達が不利な条件があるとはいえ交渉を進められたのは、この星の人類と見た目が近かったから。もし彼と立場が逆なら、話し合いは始まりすらしなかった可能性はある。本当に、差は運の良さだけかもしれない。


 わずかに顔が歪むキウリャ。武器を構える手も下がる。迷いが生じていた。

 対してヂンペーは全く動じず、普段通りのおどけた調子で追及する。


「んで? お涙頂戴の裏で何企んでんだよ。帰りてェだけじゃねェだろォが」

「まあね? 確かにさ。正直、帰るだけなら他にも手段はあったかもね?」


 情緒はガラリと変化。演技か本音か、曖昧な語りが不穏さを募らせる。


「せめてもの嫌がらせだよ! いいだろ、それぐらい。今まで恵まれてたんだからさあ! ひひひひっ……!」


 壊れたような笑い声。それがますます異形に見えたが、その見方が彼の憎しみの原因なのだとキウリャは思い直す。


『考え直してはくれませんか。私からも話を通しますし、補償も引き出せるように』

「興味ないね」


 アモットの言をピシャリと遮った。一際に暗い声音。冷たい風が吹き抜けた。天の光も雲が隠す。


 固まるキウリャ。チッチィが顔に寄ってきて、震える体を頬にくっつける。そっと手を添えた。


 そこに、銃声。

 横からヂンペーがライフルを撃っていた。銃口から登る白煙。

 粘体に穴が空いて、しかし瞬時に塞がる。それすら構わずに連射。ゴーグルの奥の目を細めて凄む。


「悪ィな。知ったこっちゃねェんだわ」

「ちょっ……」

「そうですよ! ちゃんと話をしないと!」

「んな悠長な事言ってられっかよ」


 ヂンペーの台詞は平坦で重い。必要な悪役を引き受けているのだと分かる。忌避感はあれど強く否定できなかった。


 銃撃が止めば、そこには変化の見られない粘体。スライムは平然と話し続ける。


「そこまでお人好しじゃなかったか。いいよ、それが先進文明だもんな」

「はっ。どうせ俺らも復讐対象だろォし、第一もうとっくに始めてんだろォがよ」

「正解正解、大正解! 羨ましくて羨ましくてもう待ちきれなくてさあ!」


 目はない彼から視線を感じた。そして肌がヒリヒリとした感覚を捉える。


「報告。高エネルギー反応がございます」


 ナインの警告。

 キウリャとヂンペーは素早く身構え、伏せる。電磁障壁も発動。

 直後、森の奥から極大のレーザーが放たれた。(まぶた)を貫く白光。駆ける熱。

 幻想と対極の暴力が森を抜け、緑を焼き払う。


 スライムは両手を広げるように体を蠢かせて笑った。


「ひひっ。ひひひひっ! お話に付き合ってくれてどうもありがとう! 玉コロからのエネルギー充填が終わったよ!」


 森の奥、鬱蒼とした枝葉が吹き飛んで顕になった先には、巨大な銀色の構造物。彼らの宇宙船だ。

 駆動音が木霊する。強烈な風圧が発生。

 船はゆるやかに速度を上げながら浮いていく。本来の領分である、空へ。


「空っぽのゴミなら返してあげてもいいかもねっ!」

『宝珠の魔力をエネルギーに変換したのですか』

「その通り、またまた大正解! 欲しいなら勝手に取りに来なよ!」


 宇宙船からグリフォンが飛んでくる。未知の生物を従順になるまで手懐けたのだろうか。唯一の味方だったのだろうか。

 それでも手は緩められない。

 二人でライフルを撃つ。だが不自然に屈折した。彼の星が持つ技術か。


「じゃあねっ!」


 スライムを素早く乗せたグリフォンは再び空へ。開いた宇宙船のハッチ目がけて跳んで行く。

 その背中に、キウリャは声を投げた。


「何が目的?」

「オマエラの星に娯楽映画はあるかい? あるよな? なら分かるだろ。理不尽なB級映画には爆発オチが似合うと思わないかな!? 立派なお城が爆発したらさぞかし盛り上がるだろうね!」


 丘から毎日見ていた、アモット達乗組員もいる、あの城か。

 復讐。嫉妬。憎悪。当然の帰結。理解できる感情の末路だ。

 だが、認める訳にはいかなかった。



 飛び込んだグリフォンが飛び込んだハッチは、これ見よがしに開いたまま。

 挑発。罠。戦いを誘っている。それも復讐の一部なのだろう。


 キウリャは静かに闘志を滾らせつつ、呟く。


「追いかけないと」

「へェ。どうやって?」

「チッチィの魔法で」

「向こうはレーザー撃ってくるんだぜェ?」


 沈黙。具体的な手段は、難しい。チッチィを見ても怯えた様子で首を横に振られるばかり。


 と、そこに耳障りな轟音が割り込んでくる。


『お待ちどう! 到着だよ!』


 タミスの言う通り、遠隔操縦で車が合流。車体はボコボコで無残な姿になっていたが、辿り着いただけで奇跡的だ。

 ヂンペーが冷めた目でツッコむ。


「いや飛べねェだろォが」

『荷物があるだろ? なにか使えるんじゃないかい?』

「あァ、そりゃ色々と持って来たがよォ。こんなザマでぶっ壊れてんじゃねェか?」


 呆れつつ確認に向かうヂンペー。

 その間にキウリャはチッチィを正面から見つめた。エスコートするように手を伸ばす。


「チィ、お願いできる? 一緒にいて、守るから」

「……〜っ! ……わっかりましたあ! 任せてくださいっ!」


 赤く染まる顔。口と目を大きく開いて固まった後、精一杯胸を張る。怯えは消えた。互いに温かく笑い合う。


 ヂンペーが真剣に吟味した結果をぶっきらぼうに言ってきた。


「電磁障壁とレーザー砲は使える。グレネードもあんなァ。しっかし遠隔操作はできねェぞ?」


 兵器類の扱いは厳しい。安全対策の為のロックは星外に持ち出そうと変わらない。

 報告を受け、ナインが淡々と提案。


「でしたらわたくしが引き受けましょう」

殿(しんがり)かァ。エルフが追ってくるかもしんねェぞォ?」

『その時はアタシのテクで逃がすさ!』

「そりゃ罰ゲーム、いやトドメだろォよ」


 問題は残るが他に選択肢はなかった。

 ナインが牽制し、キウリャとヂンペー、チッチィが宇宙船に乗り込み、止める。成功率は高くないだろう。

 キウリャはしまっていたバッジを強く握り、ジャケットにつけた。


 素早く準備を済ませ、一行は空を、悠々と飛ぶ銀の船を見上げる。


「チィ、お願い」

「任せてください!」

「んじゃ適当にな」

「最善を尽くしましょう」

『必ず生きて再会しましょう。こちらでもサポートしますし、城の方々に進言しておきます』


 まずナインがグレネードランチャーを発射。上空で爆発。

 爆炎と煙で視界を遮ったところで、次の段階へ。

 チッチィの魔法を用いて、キウリャとヂンペーが飛び上がる。そしてドローンも追従。プロペラではなく重力制御型のものを足場に、より高くへ。魔法と併用して迅速に空を目指す。

 ただ、やはり安定しない。肝が冷える。心臓が跳ねる。危険なアクロバット。それも徐々に爽快感へ変わっていく。

 次弾のグレネードも緊張感を高めるギミックだ。


 そして、白光。爆炎を貫き、砲撃が地上へ落ちる。

 ナインもランチャーを置いて設置型レーザーへ。

 レーザーの撃ち合いが空を一色に染める。電磁障壁も激しくスパーク。深い森を眼下に、凄烈な光が天を覆う。

 ドローンが焼かれる。一台、また一台と落ちていく。間一髪で外れたレーザー。チッチィの愛らしい悲鳴が響く。指に掴まる、その小さな力が闘志に変わる。


 決死の挑戦は数分、引き延ばされた感覚では長期戦。体が痺れ、息が段々荒くなる。

 それも遂に終わりが来る。

 ナインの操作するレーザーが、相手の発射口に着弾。空が一際激しく発光。真っ白になる世界。

 宇宙船は進み続けるも、レーザーは止んだ。しかし地上も反応がない。ナインの方も無傷ではないらしい。

 感慨深い気持ちで通信を繋いだ。


「ありがとう。後は任せて」

『成功を願っております』


 もう邪魔のない青い空を、真っ直ぐにハッチへ。

 薄い空気を駆け抜けて、硬い床を、しっかりと踏む。宇宙船には無事乗り込んだ。


「ありがと、チィ」

「はい! 私頑張りましたっ!」

「おォ、床ってモンはこんなに有り難ェんだなァ」


 笑みと会話を交わし、息を整える。敵地で程よくリラックス。

 平常心を保って、全員で目的の阻止を目指す。

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