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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第四章 ハードメタルリミックス

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6 邂逅、災いの主は

 緑に空を塞がれた森。エルフの都から離れる程に闇の深さは増していく。奇怪な鳴き声と共に閉じ込められているようだ。

 ヂンペーとナインはキウリャとチッチィと別れ、先行。エルフに追われる事はなくなっていたが、更なる脅威──森そのものに行く手を遮られていた。


「気持ち悪ィな畜生ォ!」

「大声は敵性生物を呼び寄せる可能性があります。お控えくださいませ」

『うわあ! やっぱ現地は最高っスね!』


 ドゥーリンからの通信は呑気なものだが、ヂンペーは必死。皮肉を返したいがその余裕もない。アンドロイドであるナインとの対比が滑稽に見える。

 バチバチと爆ぜる音が響いた。

 ナインの腕部に搭載されたレーザーが湿った空気を焼く。車サイズの芋虫、そしてツルを伸ばす花を貫いた。


 蠢く植物、牙を剥く獣や巨大な虫。森に住む多様な生物が行く手に待ち受けていたのだ。エルフも立ち入らないような危険な領域だろうか。

 単なる本能、エルフの指示、真犯人の仕業。どれにせよ切り抜けなければ未来はない。

 ナインの電力はなるべく節約したい。ヂンペーがライフルを放つ。適切な構えから連射。

 ヘビの頭を撃ち抜く。猛禽の翼に風穴を開ける。狙ったリスめいた動物の頭からは外れたが、ギリギリ後ろ脚に命中。動けなくなったそれらは容赦なく他の生物に襲われた。


「クソ。嬢ちゃんいた方が良かったなァ」

『頑張るしかないっスよ』

「つうか坊ちゃん専門家だろ。なんとかしてくれよォ」

『ちょうど資料をまとめたところっス。この星の人達が虫や獣避けに使ってる匂いとか音とか。ナインはデータさえあれば再現できたはずっスよね?』

「はい。可能でございます」


 送られたデータを元にナインが成分を合成、発生させる。本来はリラクゼーションを目的とした機能だが逆の用途でも有用。効果は絶大。見えていた虫が引いていった。

 ヂンペーにも不快となる音や匂いだったが、命の危険に比べたら遥かにマシだ。

 城での情報収集は大いに(はかど)っていたらしい。そのぐらい役に立ってもらわないと困る。


『あと獣の縄張りとか待ち伏せしてる植物とかマークしとくっスね! 今反映したっス!』


 比較的安全なルートが視界に表示。細い命綱を慎重かつ急いで辿っていく。完全に脅威が消えた訳ではなくまだ銃は必要だったが、一応安全に森を進む目処がついた。


 残る問題は、犯人の行方。


「熱、音波も反応がねェ。どうなってんだ一体よォ」

『やはり過去の進路からの予測だけでは厳しいですね。ドローンでの捜索にも対策があるようです』


 アモットの声も渋い。捜索は難航。ジャミングが強いのか、徹底的に隠れていた。

 周囲に気を張りつつ、ヂンペーは思い返す。


「ダンジョンで襲ったきた時ァレーダーにも映ったんだがなァ」

『その後に対策したのでしょうね。……であれば過去の記録には残っている可能性があります』

「事前調査か!」


 この星に降りる前。衛星軌道上で調査を行っており、その記録は勿論残っていた。存在を察知されていない時期なら、希望がある。


 やがてアモットは明るく成果を報告した。


『森に降りるグリフォンを見つけました。位置情報を送ります』

「おォ。流石ァボス」


 ニヤリと微笑むヂンペー。無反応もお構いなしにナインに腕を絡ませる。

 方向を変え、速度を上げた。今度こそ追う立場。そろそろ疲労が辛い頃合いだが踏ん張りどころと柄になく力を込めた。


『キウリャ君にも伝えました。幸運を祈ります』


 とはいえ、油断禁物。

 頭上に滑空する影。鋭いトゲの生えた大型の葉だ。運悪くヂンペーへと向かってきた。

 慌てて横に逃げるが、ジャケットが裂ける。見上げれば更に多くの葉が舞っていた。単なる落葉すら死を誘ってくるらしい。

 そして、新たに象並の大きさの動物まで湧いてきた。

 銃を素早く構え、発砲。命中。だが弾丸が効いたように思えない。アリクイのように舌が伸ばされる。

 万事休す。かと思いきや、舌をは葉を絡め取り、口へと運んだだけだった。人間に興味はない様子。これがこの場の生態系か。


「クソ。無駄に焦っちまったなァ」

「いいえ。警戒は必要でございます」


 頭をボリボリかくヂンペー。淡々と正論を放つナイン。ドゥーリンがなにやら興奮していたが無視。

 一瞬でも緊張が弛緩したのは失態だ。スッとゴーグルの奥の目を細め、気を張り直す。冷静に弾丸を装填した。


 そうして苦労しながら進み続けた結果、深い闇は唐突に晴れた。

 森の奥、木々が不自然に倒された一角には眩しく光が差し込む。視界が開け、危険な動植物の気配もない。そして、先行したドローンが人影を捉えた。一人のエルフ。ワトウが看破した、あの顔だ。

 じっくり観察できる場所だが、相手からも丸見え。

 慎重に進み、開けた空間の手前に潜む。


「んじゃ嬢ちゃん待つかァ?」

「はい。そちらの方針を推奨致します」

『もう近くに来ていますよ。くれぐれも用心してください』


 言葉通り、数分もしない内にリズミカルな足音が聞こえてきた。

 そして木々の間からキウリャが登場。あちこち汚れた精悍な姿。激しい戦闘後のはずだが、いつも通りのグレーのジト目で問うてくる。


「追い詰めた?」

「よォ、凶暴な挨拶だなァ」


 返答は背中への軽い拳。チッチィがやかましく言ったが、今更二人とも変わらない。


 キウリャはレーザーライフルを静かに構える。ヂンペーとナインも武装を確認。

 空気が固く冷めていく。意識を研ぎ澄ませていく。


「カウントは?」

「いらねェだろ。もう行けばいい」


 緊迫した中のアイコンタクト。そして三者が同時に飛び出した。距離を置き扇形に並んで半包囲。

 何度も敵対してきた相手と、直接対峙する。


「盗んだ物を返しなさい」

「ひひっ。遅かったね」


 状況にそぐわない軽薄さで応えたエルフの姿が、ぐにゃりと歪む。

 次の瞬間には、服装まで揃ったキウリャの姿へ。

 彼女がしないような、口が裂けたような笑みを浮かべた。


「こんなモンに騙されるなんて、ホント馬鹿だよねえ!」

「馬鹿にするのが目的なワケ?」

「かもね! 間違ってないよ!」


 レーザーライフルを向けるキウリャ。銃口は真っ直ぐ、正確。あくまで平然と仕事を全うしていた。

 敵意を突きつけられて尚、相手は余裕を崩さない。


「何が理由?」

「羨ましかったのさ、オマエらが」

「ふざけないで」

「いひひっ。ヒドいなあ! ふざけてなんかない。本気で羨ましいんだよ!」


 心底おかしいという風に腹を抱えて嘲笑するキウリャの偽物。狂気すら帯びた笑いが森を抜けていく。

 その姿が、再び溶けていく。


「だって、オマエらは苦労しなかったんだろ?」


 人体が不気味に蠢き、変容、変色。異様な変化。キウリャはわずかに顔をしかめていた。


 やがて現れたのは、人の形をした、黄色い粘性生物。スライム。

 キウリャが遭遇したとの報告を受けていたのをヂンペーは思い出す。鉱山の奥で降ってきて、本来生息していないという話だったはずだ。


「あの時にコピーされたってワケ?」

「え? そんなスライム聞いた事ないですけど……話ができるっていうのも初耳ですし……!」


 困惑するチッチィ。青ざめた顔が未知への恐怖を物語っている。ヂンペーとキウリャは警戒を強めた。唾を飲み込む音も響く、不気味な静寂。

 スライムはそれらの反応を無視し、揚々と独白を続ける。


「だって、問答無用でモンスター扱いされて襲われた事もなかったんだろ? お客様扱いだったんだろ? オマエらは」


 不定形の生物。顔もない彼は、存在全てで意志と感情を示すように朗々と語る。


「ああ、全く羨ましいったらないよ。同じ、宇宙から来た余所者の癖にさ」


 低く、恨みがましい声がひたすらに雄弁。重い情念が突き刺さる。

 ゾクリと背筋に悪寒が走った。

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