3 華々しいエルフの歓迎
エルフの都はイメージ通り森の奥まった場所にあるらしい。目的地へ近付くにつれてどんどん手つかずの自然が濃くなっていく。一応街道は通っているが、あまり管理されていない。ぬかるんだ道にタイヤを取られなかったのは幸運だろうか。
そうして大した苦労もなく、森の入り口にある小さな町に着いた。エルフが大半だが他の種族も住んでいる。
しかし都は更に奥。鬱蒼とした森には小道しかなく、車では進めない。とはいえチッチィが安心してくださいと胸を叩いたので困惑や不安もなく休憩を挟んだ。
その後。長のエルフにチッチィが身分を示せば町外れに案内された。幾何学模様──魔法陣が刻まれ、樹木のアーチに囲まれた、厳かな雰囲気の空間。
渋い顔をされつつも車に乗ったまま進めば、空間が歪んで見えた。
転移魔法。
ぐわんと頭も体も揺さぶられる感覚に目を開けていられない。
ただ、次に目を開けた時には、景色が変わっていた。
小さな窓に切り取られた部分だけでも明らかに。
そして車を降りれば、絶景が広がる。
日光を遮る濃緑の薄闇には木漏れ日が美しく映える。圧倒される巨木の幹に色鮮やかな葉。華麗な花が咲き、豊かな香りが漂う。鳥の鳴き声も心地良い。
深い森に馴染んだ、巨木を利用した建築。質素なようでいて品がある。神聖な空気すら感じられ、自然と背筋が伸びた。
当然駐車場などなく、馬車を停める場所も少ない。交易はあれど盛んではなさそうだ。エルフは徒歩か魔法を用いた移動が主らしい。話は通っているはず、と少々無理矢理にスペースを見つけて停めた。
そのタイミングを見計ったのように、一行の前に上品な服装のエルフが現れた。
「ようこそ。我らが都へ」
「はい、よろしくお願いします! 長様への挨拶を……」
「いえ。少々お待ちください。謁見の準備が整い次第お呼びさせて頂きます」
「そうですか……分かりました!」
用件を終えたエルフは瞬く間に消えたので、時間までは観光しましょうとチッチィを先頭に都を進む。
優雅に歩むエルフが目立つが、他の人種も見かける。出歩く人自体が少なくサンプルは足りないが、少なくともイメージ程排他的ではないらしい。
「昔はほとんど交流がなかったそうなんです。ですけど今は王国に来てくれるエルフの方も増えたんですよ!」
「んじゃこっちに来る人間は少ねェのかァ? やっぱ排他的って事じゃねェの?」
「いえ、皆様優しい方々ですよ。ただ誤解されやすいといいますか……」
「さっきのヤツみてェに事務的で無駄な事はしねェって事かァ?」
「そうですね。嫌いだから意地悪してる訳じゃないんです!」
「嬢ちゃんと気ィ合うんじゃね。違ェか、嫌いで意地悪してんだよなァ」
「うるさい」
自然と共存する都の中は、随分と見応えがある。
物珍しく、リラックスできる風景。珍しい意匠。見て回るだけでも十分に有意義だ。城のメンバーと通信を繋ぎ、資料となる記録も残しつつ、観光気分で楽しむ。
「とりあえずメシにしねェか」
「途中で呼ばれるかもしれませんよ?」
「そん時ァそん時でいいだろォ」
「ワタシもそれでいい」
「分かりました、お昼にしましょう!」
ないのかと心配になる程時間はかかったがなんとか店は見つかった。人口はあまり多くない上に食べ物は自ら用意する事がほとんどで、多種族との交流によって需要が増えたがまだまだ数が少ないようだ。
木と花の香りが濃い店内は、王都の酒場とは違う高級店の趣があった。
「おっ。酒もあるな。つっても果実酒だけかァ」
「仕事中でしょ」
「固ェ事言うなよォ」
「いいえ。重要人物との会合前でございます。飲酒はお控えくださいませ」
「そこをなんとかよォ。な?」
メニューには食用の花や果実を使った料理が多い。カエルやリス、虫の料理もあった。怖々と口に運べば、繊細で優しい味付け。
キウリャはマナーに気を付けながら食べ進め、果物一粒を抱えるチッチィは一口ごとに目を輝かせた。ヂンペーは一杯だけ許された果実酒を舐めるように味わう。今のうちにナインも充電する事にした。
「これも良い資料だよなァ」
「……チィ、そんなに美味しい?」
「はい、ここの果物凄いんですよ!」
『おー、それがエルフ料理! もっとよく見せてくださいっス!』
ドゥーリンが端末越しに話しかけてきた。子供めいたワクワク感が否応なしに伝わる。
『食べてみたいっス!』
「そっちでリクエストすりゃいいんじゃねェの」
『あー、それもそうっスね! あれ? そう言えば食べた事あったような……?』
「オイオイちゃんと記録しとけなァ。人に調査押し付けてんだからよォ」
「調査なんてロクにしてない癖に」
『あ、記録あったっス』
「はい、エルフ料理は美しさから宮廷料理の参考になったと聞きます」
『でもアレンジとかあるっすよね? いやあ気になるっス』
そうして盛り上がる食卓のすぐ傍に、足音なく一人のエルフが現れる。美形で圧のある存在感が会話を途切れさせた。
「少々お静かに願えますか」
「あ、すみません!」
「以後お気を付けください」
冷たく言い残し、給仕の男性は去っていく。
愛想は良くないがエルフでは普通か。他の客からも白い目が向けられていた。悪いのは騒いだこちらだ。
しかし懲りないドゥーリンが後ろ姿に声をかける。
『あのう、食材を詳しく教えてくれないっスか?』
「お静かにお願いします」
『そこをなんとか! どうしても知りたいっス!』
「食材について知りたいのでしたら、食事がお済みになった後に市場を訪ねると良いでしょう」
すげない返事を最後に、今度こそ去る。
以後はなるべく声を出さず静かに食事を終え、店を出たところで会話を再開した。
そして市場で食材調査へ。質問には答えてくれるものの、やはり最低限の会話だけだった。
「エルフの方々は動物や植物の声を聞くといいます。静かな環境でそういう声に耳を傾けるのがお好きみたいです」
「そりゃあくだらねェ話なんかより綺麗な声を聞きてェよなァ」
「自覚したなら控えて。ドゥーも」
『はい、気を付けるっス!』
「まずそれがうるさいから」
想定より長い観光の後に訪れたのは、木造の神殿めいた建物だった。白い木材は暗い森に浮かび上がるよう。華美でなく、自然と一体化した美しさがあった。
最初に会ったエルフにようやく呼ばれて、本格的に役目が始まる。
「あちらが長の若君、テルミフ様です」
神殿内の入り口ホールのような場で顔合わせ。
相手はほっそりとした美形。美しく流れる金髪。いかにも想像するエルフ、その中でも秀麗で厳しい雰囲気が強い。
「ご機嫌麗しゅう。若サマ」
ヂンペーがヘラヘラと、一応礼儀正しく挨拶。和ませようとしているのかもしれないが信じられなかった。怒らせるのでは、とハラハラする。
しかしテルミフはヂンペーを無視し、じっとキウリャを見ていた。険しい目が刺さるよう。
居心地が悪い。なるべく穏和に問いかける。
「……なんでしょうか」
「……貴様、見覚えがあるな」
「お? またナンパか。嬢ちゃん、モテモテだねェ」
横目でヂンペーを睨みつけるキウリャ。状況が状況だけに手は出さない。
テルミフの視線はより鋭く、更に空気が重くなる。そして次の発言に、一行は驚く。
「ふん。白々しい。よく顔を出せたものだ」
「え?」
警戒、むしろ敵対。ここから友好的な話になる雰囲気は皆無。
心当たりがないので困惑するしかなく、両者の溝は深まるばかりだ。
「話が違くねェか?」
「そう、ですね? なんでしょう?」
「すみません。仰っている意味分かりませんので説明を頂けますか」
敵意に臆せずキウリャが直接切り込む。
するとテルミフは、心底見下した、軽蔑の表情で応えた。
「ふん。己がよく知っているだろう。盗人よ」
「盗人?」
「我らが宝珠を納める聖域に侵入したその姿、この目でしかと見た」
「そんな! 違いますよ!」
チッチィが必死に反論するも、聞く耳はなかった。
冤罪だ。だが証明する術も信用もない。先手を打たれていた。
一行は衛兵らしきエルフに囲まれてしまう。
「諸君。不届き者を取り押さえよ」
なにがなんだか分からない内に、冷徹な命令は下されたのだった。




