2 飛んで火に入る宇宙船
激しい振動。重なる悲鳴。
謎の攻撃により、混乱に陥ったフィアーピッカー号船内。衝撃が収まると、ブリッジに一時の平穏が戻る。
「全員無事ですか!?」
船長のアモットが叫べば、全員からの返事がしっかり届く。ひとまずは胸をなで下ろす一堂。ストレスを感じ取ったウールウが可愛らしい鳴き声を発した。
強烈な攻撃にも席から飛び出したりせず、しっかり守られていた。一度目の後にちゃんと座席に着いたおかげだ。訓練された乗組員達はすぐに落ち着いてそれぞれの仕事を果たす。
「あァん? んっだ、これはァ!」
モニターを凝視したヂンペーが怒声を放つ。
「外壁貫通してぶっ壊されてんぞォ! 貨物室が悲惨な事になってらァ!」
「小型の隕石でも耐えられるはずですが、それよりも強い攻撃が……? いえ、今は追撃に備えてください」
不可解だとアモットは眉をひそめつつ、外見上は冷静に指示を出す。
ヂンペーが肩をすくめて愚痴った。
「だから言ったでしょうよォ。問答無用で外敵排除なんざ予想できた可能性ですよねェ!?」
「はい、謝罪します。私の判断は軽率でした」
「んな事ないっスよ。障壁壊されるなんて予想すんのは無理っス!」
「大口叩いたアタシにも責任あるさ!」
ドゥーリンとタミスが朗らかに船長を援護。本気の言葉だと窺える声音だ。
ヂンペーもそれ以上言わず、大人しく引き下がる。緊迫した事態であるからこそ不満をきっちり解消し、空気は良好に保たれた。
気を取り直してアモットが指示を出していく。
「コントロールはまだ可能なんですね」
「もうヘマはしないよ!」
「モニターが一部機能していませんね」
「直接被害状況を確認してくるっス!」
「外壁の補修はできますか」
「ま、なんとかやってみせらァ」
「追撃の反応は今のところありませんか」
「引き続き警戒を続けているヨ」
「念の為に武装の準備をお願いします」
「了解」
状況を確認し、対応。それぞれ的確に動く。
タミスの手動操縦で安定した航行はできている。モニターとコンソールの動きが目まぐるしい。損傷を補うべく船内を疾走。慌ただしくも手際は軽やかで鮮やかだ。
そこにナインの淡々と発言が投じられた。
「報告。映像を確認したところ攻撃の正体が判明致しました。矢でございます」
「や?」
「弓矢の矢でございます」
「はああ!?」
タミスが顔を歪めて叫ぶ。更にはヂンペーがお手上げの仕草をして続いた。
「メチャクチャだ! 時代遅れなんてレベルじゃねェ武器が宇宙船に勝つのかよ!」
「事実は認めるべきだネ。映像を見た上に窓から直接見もしただろう。街並みはそのような感じだったはずだヨ」
「いや、まァ、そりゃそうだがよォ……」
「受け入れるしかないでしょ」
「……マァジかよ」
ワトウとキウリャが淡々と諭し、ヂンペーは絶句しつつ手を動かし続けた。現実逃避のようでもある。
フィアーピッカー号の下には、母星のようには破壊されていない深い自然が広がっている。
そして石と木で造られた、大昔の都市のような街並みがあった。石畳、あるいは土を固めただけの街道。馬車もあるが、恐竜めいた生物も車を牽いている。
遠くを飛んでいるのは飛行機ではない。母星には存在しない、羽の生えた馬、ペガサス。
母星における空想の世界そのもの。
だから弓矢で宇宙船を破壊する英雄も存在しているのだ。納得できずとも受け止めなければ進めない。
動揺は最低限。乗組員は澄ました顔で仕事に戻った。内心は大いに揺れていようとも。
アモットは真剣な表情で問う。
「着陸は可能でしょうか」
「モチロン。ただ、場所が難しいね」
「……二時の方向に向かいましょう」
「了解!」
市街地への被害を避けるべく森の方へ。木々の少ない平地を目指す。一応飛行は安定しているのでそこまで余裕はあるはずだ。
いつ制御不能になるか不明なので急ぎたい。被害を出せばそれこそ戦争の原因になりかねなかった。
「総員、着陸に備えてください!」
「了解!」
森に入っていく内に高度も随分落ちた。そろそろ潮時。
本来は重力制御と逆噴射で速度を落として着陸するのだが、今の状態では難しかった。バランスも不安定。胴体着陸しかないだろうか。
タミスが不敵な面持ちで決行。他の乗組員は固唾を呑んで待つ。ウールウが高く鳴いた。
そして、宇宙船は強引に地表へ降りた。
何度目かの振動が駆け抜ける。地面を抉る。擦る。草花が舞い散る。船体が軋む。乗組員は苦難を耐える。
最後に衝撃が襲った。轟音も響く。これでもタミスの技術で抑えられたようだ。
大荒れから一転、停止。しんと静まる。嫌な沈黙が船内に満ちる。
アモットが凛々しく号令をかけた。
「総員、安否確認!」
「タミス、問題ないよ!」
「ヂンペー、無事だぜェ」
「ワトウ、無傷だヨ」
「キウリャ、大丈夫」
「ドゥーリン、動けるっス!」
全員怪我などはない。それぞれ異なる形で喜び合う。着陸は成功だ。
そして次に湧き上がったのは未知の惑星へ降りた、感慨。
「もう降りていいっスか!?」
「いやいや。バケモンが狙ってんの忘れんなよォ」
「ははっ! 直接拝んでやろうじゃないか!」
明るい空気は意識的。ポジティブさは過酷な環境でも心を保つ大きな要因だ。乗組員達はあくまで楽しもうとしていた。
だが、既に次の危険が迫っていたのだ。
ナインの声が淡々と現実を告げる。
「報告。本船は巨大生物に包囲されているようでございます」




