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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第一章 コミックスペースオペラ

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2 飛んで火に入る宇宙船

 激しい振動。重なる悲鳴。

 謎の攻撃により、混乱に陥ったフィアーピッカー号船内。衝撃が収まると、ブリッジに一時の平穏が戻る。


「全員無事ですか!?」


 船長のアモットが叫べば、全員からの返事がしっかり届く。ひとまずは胸をなで下ろす一堂。ストレスを感じ取ったウールウが可愛らしい鳴き声を発した。

 強烈な攻撃にも席から飛び出したりせず、しっかり守られていた。一度目の後にちゃんと座席に着いたおかげだ。訓練された乗組員達はすぐに落ち着いてそれぞれの仕事を果たす。


「あァん? んっだ、これはァ!」


 モニターを凝視したヂンペーが怒声を放つ。


「外壁貫通してぶっ壊されてんぞォ! 貨物室が悲惨な事になってらァ!」

「小型の隕石でも耐えられるはずですが、それよりも強い攻撃が……? いえ、今は追撃に備えてください」


 不可解だとアモットは眉をひそめつつ、外見上は冷静に指示を出す。

 ヂンペーが肩をすくめて愚痴った。


「だから言ったでしょうよォ。問答無用で外敵排除なんざ予想できた可能性ですよねェ!?」

「はい、謝罪します。私の判断は軽率でした」

「んな事ないっスよ。障壁壊されるなんて予想すんのは無理っス!」

「大口叩いたアタシにも責任あるさ!」


 ドゥーリンとタミスが朗らかに船長を援護。本気の言葉だと(うかが)える声音だ。

 ヂンペーもそれ以上言わず、大人しく引き下がる。緊迫した事態であるからこそ不満をきっちり解消し、空気は良好に保たれた。


 気を取り直してアモットが指示を出していく。


「コントロールはまだ可能なんですね」

「もうヘマはしないよ!」

「モニターが一部機能していませんね」

「直接被害状況を確認してくるっス!」

「外壁の補修はできますか」

「ま、なんとかやってみせらァ」

「追撃の反応は今のところありませんか」

「引き続き警戒を続けているヨ」

「念の為に武装の準備をお願いします」

「了解」


 状況を確認し、対応。それぞれ的確に動く。

 タミスの手動操縦で安定した航行はできている。モニターとコンソールの動きが目まぐるしい。損傷を補うべく船内を疾走。慌ただしくも手際は軽やかで鮮やかだ。


 そこにナインの淡々と発言が投じられた。


「報告。映像を確認したところ攻撃の正体が判明致しました。矢でございます」

「や?」

「弓矢の矢でございます」

「はああ!?」


 タミスが顔を歪めて叫ぶ。更にはヂンペーがお手上げの仕草をして続いた。


「メチャクチャだ! 時代遅れなんてレベルじゃねェ武器が宇宙船に勝つのかよ!」

「事実は認めるべきだネ。映像を見た上に窓から直接見もしただろう。街並みはそのような感じだったはずだヨ」

「いや、まァ、そりゃそうだがよォ……」

「受け入れるしかないでしょ」

「……マァジかよ」


 ワトウとキウリャが淡々と諭し、ヂンペーは絶句しつつ手を動かし続けた。現実逃避のようでもある。


 フィアーピッカー号の下には、母星のようには破壊されていない深い自然が広がっている。

 そして石と木で造られた、大昔の都市のような街並みがあった。石畳、あるいは土を固めただけの街道。馬車もあるが、恐竜めいた生物も車を牽いている。

 遠くを飛んでいるのは飛行機ではない。母星には存在しない、羽の生えた馬、ペガサス。

 母星における空想の世界そのもの。

 だから弓矢で宇宙船を破壊する英雄も存在しているのだ。納得できずとも受け止めなければ進めない。

 動揺は最低限。乗組員は澄ました顔で仕事に戻った。内心は大いに揺れていようとも。


 アモットは真剣な表情で問う。


「着陸は可能でしょうか」

「モチロン。ただ、場所が難しいね」

「……二時の方向に向かいましょう」

「了解!」


 市街地への被害を避けるべく森の方へ。木々の少ない平地を目指す。一応飛行は安定しているのでそこまで余裕はあるはずだ。

 いつ制御不能になるか不明なので急ぎたい。被害を出せばそれこそ戦争の原因になりかねなかった。


「総員、着陸に備えてください!」

「了解!」


 森に入っていく内に高度も随分落ちた。そろそろ潮時。

 本来は重力制御と逆噴射で速度を落として着陸するのだが、今の状態では難しかった。バランスも不安定。胴体着陸しかないだろうか。

 タミスが不敵な面持ちで決行。他の乗組員は固唾を呑んで待つ。ウールウが高く鳴いた。


 そして、宇宙船は強引に地表へ降りた。

 何度目かの振動が駆け抜ける。地面を抉る。擦る。草花が舞い散る。船体が軋む。乗組員は苦難を耐える。

 最後に衝撃が襲った。轟音も響く。これでもタミスの技術で抑えられたようだ。

 大荒れから一転、停止。しんと静まる。嫌な沈黙が船内に満ちる。

 アモットが凛々しく号令をかけた。


「総員、安否確認!」

「タミス、問題ないよ!」

「ヂンペー、無事だぜェ」

「ワトウ、無傷だヨ」

「キウリャ、大丈夫」

「ドゥーリン、動けるっス!」


 全員怪我などはない。それぞれ異なる形で喜び合う。着陸は成功だ。

 そして次に湧き上がったのは未知の惑星へ降りた、感慨。


「もう降りていいっスか!?」

「いやいや。バケモンが狙ってんの忘れんなよォ」

「ははっ! 直接拝んでやろうじゃないか!」


 明るい空気は意識的。ポジティブさは過酷な環境でも心を保つ大きな要因だ。乗組員達はあくまで楽しもうとしていた。

 だが、既に次の危険が迫っていたのだ。


 ナインの声が淡々と現実を告げる。


「報告。本船は巨大生物に包囲されているようでございます」

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