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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第四章 ハードメタルリミックス

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2 場違いドライブ

 小雨が降る中、街道を行商人や旅人が行き交う。濡れて泥が跳ねる不快感。先を急ぐ焦り。天の気紛れは人の身を大いに悩ませる。

 そんな中を走る金属製の異物が、強制的に人々の目と足を止めさせポカンとした顔にさせていた。


 キウリャ達の今回の目的地はエルフの都。

 今回は馬車ではなく修理した車両で向かっていた。六人乗りハイブリッドカー。燃料や電力、人数に天候を考慮しての選択である。

 運転席にはヂンペー。基本は自動運転なので手は頭の後ろに回している。助手席にナイン。キウリャは後部座席。チッチィは胸ポケットに収まっている。万が一を考え荷物は山積み。武器もすぐ使えるように置いてある。


「ふわああ! これ凄いですね!」

「でしょ? 二人乗りならもっと良かったけど」


 高速で流れる風景に揺れの少ない車内。チッチィはこの日幾度目かの歓声をあげる。キウリャは温かい目で同意。不快どころか満ち足りた空気だ。


 ただしヂンペーとナインの反応は違っていた。


「いや良いのかよ。景観やら色々ぶっ壊してんだろォよ」

「この星への影響が心配でございます」


 迷いと心配は常識的な判断だろう。外を眺めて眉をひそめるヂンペーは居心地が悪そうだ。

 対してチッチィは朗らかに笑った。


「そんなの今更じゃないですかあ! かなり皆さんの噂は広まってますよ。魔法とは違う何かで活躍する凄い冒険者だって」

「まァ、そりゃそうだわなァ。ちなみに他にゃあどんな噂があんだ?」

「え? えーっとですね、魔法の一種だと思う人や、ドワーフの街での話も広まって同じ物を作ろうとしてる人もいますし……」

「ハッキリ言やァいいんだ。怪しい珍妙な一団って怖がられてんだろ?」

「そんな事は、ない、です、よ?」

「ウソは良くないねェ、妖精チャン」


 目を逸らしたチッチィを追い込むヂンペー。やはり否定的に思う者も多いらしい。

 キウリャがムスッと声をかける。


「なら降りれば?」

「ハイハイ反省しますよっと。今更馬車に乗れって言われても困るしなァ」

「御両人、事故に繋がる可能性がある為トラブルを起こす事はお控えくださいませ」


 ナインの正論が淡々と響けば、二人揃って黙るしかない。

 気を取り直したチッチィが両手の拳をぎゅっと握って力説する。


「それにきっと王様にはお考えがあるんですよ! 皆さんの知名度が高まれば友好的な関係に繋がるはずです!」

「よっし。んならこのままやりたい放題やっていくか!」

「限度はございます。お気をつけくださいませ」

「へいへい。分かってますよォ」




 雨中の景色は軽快に流れ行く。道に唯一のタイヤ痕を残して車は走った。

 途中で何度か宿場で休憩を挟めば、人集りができるか避けられるかの極端な反応があった。話を聞くと確かに噂は広まっており、囲まれた際は出ていくのが大変だった。


 人里を離れれば、すれ違う人も随分と見かけなくなる。

 獣。盗賊。それらをレーダーで発見する事はあっても障害にはならなかった。初見の何かを恐れるか、標的にされたところで追いつけないからだ。


「楽だわなァ。嬢ちゃんは暴れ足りねェか?」

「人をなんだとおもってるワケ?」

「オジサンをいじめて楽しむサディストだろォ?」

「ナイン。足踏んづけて」

「それはお応えできかねる指令でございます。ヂンペー氏も口は慎みくださいませ」


 ナインに再び警告される。心なしか怒りの感情が見えるのは感情再現技術の賜物(たまもの)だろう。ふざけるのは控えたい。


「建設的な話を致しましょう。エルフの方々についての情報を整理してみてはいかがでしょうか」


 だからキウリャはナインの案に進んで乗る。胸に(よど)む不安を遠慮せずに吐き出した。


「……本気でこのまま修理できると思う? エルフが直せるとしても協力してくれる?」

「ズカイナル様は『君達なら信頼を得られるだろう』と仰ってました」


 結局は交渉次第か。規格外、強力な魔法に大きな代償が必要なら、払えるかどうか。

 ズカイナルには悪いが安心はできなかった。


「あと『例の彼を手柄に活かすといい』とも」

「あァやだやだ。恩を着せて利益を引き出そうなんてワルい考え、悲しいねェ」

「白々しい。絶対そんな事思ってないでしょ」

「嬢ちゃんの方こそ歓迎してんだろォ。やっぱ暴れてェんじゃねェか?」

「着いた時覚えておいて」

「もうっ、二人とも仲良くしてくださいよお!」


 ナインの代わりにチッチィの叫び声が狭い車内に反響。互いに矛を収めるしかない。イライラを消す為にキウリャはチッチィと触れ合う事にした。


『今大丈夫ですか?』


 そこに通信が入る。船長のアモットの声が車内に加わった。


「大丈夫、船長」

『次はエルフの都に向かうと聞きました』

「おォ、丁度そこに向かって移動中だぜェ」

『困った事があればすぐに連絡をください。こちらでも情報は集められます』

「頼りにしてる」

『現地は珍しい植生らしいので調査も可能な範囲でお願いします』

「了ォ解」

『それから。気負わず、観光も楽しんでください。適度にリラックスする事はパフォーマンスを向上させますから』


 最後に業務連絡ではない、アモットの助言。凛々しさと柔らかさを持った微笑みが浮かぶ。

 おかげで不安や力みの抜けた、フラットな状態になれた。


「観光、ねェ。よし、ドライブには音楽がいるよなァ!」


 ヂンペーが再生したのは、百年以上前のロックバンドの曲だ。激しい曲調に過激な歌詞。不朽の名曲と謳われているらしいが、キウリャには古い曲でしかなかった。


「懐古趣味」

「いいだろ別によォ」

「人の好きな物に口を出すのは良くないですよ」

「ごめん。それはそう」


 リズムに乗り、気持ちよさそうに口ずさむヂンペー。なんだか気に食わないが、チッチィも興味深そうに聞いているので呑み込んだ。


「じゃ次の曲はワタシが選ぶ」

「仕方ねェなァ」


 高速テンポのサイバーポップ、中毒性の高い曲に決めた。ヂンペーはやはり合わないようで舌を出しているが、チッチィのリアクションの方が重要だ。


「これがキウリャさんの好きな音楽なんですね!」

「うん、チィも気に入ってくれたら嬉しい」

『次は私がリクエストしてもいいですか』

「いや流石にそっちでやってくれよォ」


 観光旅行のような気安さが湿り気を散らす。

 目的地に似つかわしくない、騒々しい旅路を一行は進んでいった。



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