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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

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11 笑い声は彼方へ

 荘厳なる王城。

 フィアーピッカー号の乗組員達四人に与えられた部屋。

 ここでの生活も既に半月程が経った。


 文官との情報交換だけでなく、徐々に活動範囲は広がっていく。

 ワトウは城内や城下町で発生した病気について意見を求められ、薬も作った。

 ドゥーリンは専門の生物知識を活かしてネズミや害虫退治、騎乗動物の世話など。

 専門分野以外でも相談や力仕事を手伝うなど交流を深めていった。

 その為か城内でも乗組員達は受け入れられつつあり、客人が訪れる機会が増えている。興味深い話は本来の目的である調査にも活用できるので異星間交流は歓迎だ。



 そしてこの日。窓際の日当たりが良いスペースの格調高いテーブルと椅子に着くのは、王女のサーレキアだ。

 アモットとのお茶会は頻繁に開かれている。手間をかけたお菓子。高級銘柄のお茶。王族らしい佇まい。小柄なウールウを行儀よく腕の中に収め、朗らかに談笑している。


「船長さん、私達仲良くなれたでしょう? そろそろその証があってもいいと思うのだわ」

「失礼ですが身分が違うと思うのです」

「まあ! 船長さんったら意地が悪いのだわ」

「ふふ。失礼しました。私達は既に友人ですね。しかし証と言われましても生憎心当たりがありません。お教えくださいますか、王女殿下」

「それなのだわ!」


 王女は身を乗り出してアモットを指差す。

 が、無礼に気付いて慌てて引っ込め、恥ずかしそうに俯いた。失態と後悔、責任感が強い。ただ、ウールウが慰めるように頬を舐めればくすぐったそうに笑った。

 だからアモットは何事もなかったかのように、落ち着いた声で続きを促す。


「それ、とは?」

「王女殿下、なんて可愛らしくないのだわ!」

「失礼しました。では、サーレキア様と」

「まだ余所余所しいのだわ!」

「ではなんとお呼びすれば?」

「キア。お父様はそう呼んでくださるのだわ」

「キア様」


 そう呼んだ途端、ぱああっと顔を輝かせる。足をパタパタ動かし、ウールウをぎゅっと抱く。高貴さより年相応の喜びに溢れる様子が微笑ましい。


「ふふふっ」

「でしたら私はアモットとお呼びください」

「アモットさん」

「できれば、ただのアモットと」

「ではそちらもただのキアと呼んでくださるのかしら」

「ふふ。キア様には敵いませんね」

「これで友達なのだわ。ね、アモットさん」

「ええ」


 お茶を口に運び、お菓子の甘さに頬を抑える。花園のような芳しいお茶会が続いていく。


 そんな光景を、離れたソファから他の三人が眺めていた。


「麗しい主従関係って感じっスね」

「似合い過ぎさ。船長は元々ここに住んでたんじゃないかい?」

「貴族として育った船長。突如自然発生したワームホール。吸い込まれた船長は他の星にワープしてしまった。長年異星で過ごす内に帰還は諦めていたが、今旅を経て故郷に帰ってきたのだ!」

「わははっ! それだよそれ。信じそうになるね!」

「与太話を楽しむのは余所でやってくれないかネ」


 盛り上がる二人にワトウがツッコミを入れる。母星でも長年愛される定番の物語の型だが、この星でのあれこれを経験した以上洒落にならない。


 それに話が聞こえていたサーレキアが目を丸くして大きな声をあげた。


「まあ! アモットさんは貴族だったのかしら?」

「ほら見たまえ。誤解を与えかねない」

「ふふ。お医者様。冗談なのだわ」

「……それは失礼をしたネ」


 くすくす笑うサーレキア。ワトウの目元は柔らかい。まるでやんちゃな孫を見るよう。


 ドゥーリンが身を乗り出して目を輝かせる。


「わー、羨ましいっスね。ジブンもお姫様とお話したいっス!」

「ならば直談判するといいヨ」

「それならアタシも頼んでみるかね!」


 タミスも同調。子供のようなワクワク感が溢れている。

 それを察してか、サーレキアは席を立ってソファまで来ると、おずおずと声をかけた。


「ごめんなさい、皆様。今まで(ないがし)ろにしてしまったのだわ。どうぞこちらにおかけになって?」

「それじゃ遠慮なく!」

「流石はお姫サマだ!」

「羽目を外すんじゃないヨ」

「気品ある言動を心がけてくださいね」


 お茶会は華やかな空気から一変。賑やかな若者の集まりに。王城らしからぬ振る舞いに弾ける笑顔。これはこれでかけがえのない時間だった。




 しばしの楽しみの後。お茶会の終わりを告げに、新たな来客がノックする。


「プリンセス。お迎えにあがりました」


 ズカイナルは恭しく一礼。完璧な所作で王女へ呼びかけた。


「もっと皆様とお話したいのだわ。時間をくださらない?」

「お言葉ですが、予定が控えています」

「……そう。だったら諦めるのだわ」

「御立派ですよ、プリンセス」

「最後にウーちゃんを抱いていってもいいかしら?」

「どうぞ」


 感触を焼きつけるようにウールウをぎゅうっと抱きしめれば、元気づけるような鳴き声が応えた。

 未練を断ち切って、サーレキアは一人で歩き出す。


「また会える時が楽しみなのだわ、アモットさん。それから勿論皆様も! ごきげんよう」

「はい、キア様。また楽しみましょう」


 にこやかに手を振る。流麗な所作で去っていく後ろ姿にエールを送った。


 そして扉が閉まった直後にワトウは切り出した。


「それで、用はなにかネ」

「相変わらず拙速な方だ、ミスター。小粋な会話の楽しみ方をご存知ないと見える」


 役者のように大袈裟な身振りで応じるズカイナル。

 しかしワトウがじっと待つばかりで無言を貫いたので、肩をすくめて話し始める。


「先日、お仲間と協力して魔獣に対応してね。それはそれは華々しい活躍だったんだよ」

「魔獣!? なになになんスかそれ教えてくださいっス」

「活躍は記録してないのかい? 見てみたいもんだ!」

「やはり期待に応えてくれましたね」

「気になるだろうが詳しい報告は君達に任せたい。返却するよ。自由に使ってくれて構わないそうだ」


 興奮する乗組員達にズカイナルが取り出したのは、回収されていた全員分の個人端末。

 喜ばしいはずだが、警戒が浮かぶ。


「どういう風の吹き回しだい?」

「報酬のつもりっスか?」

「仲間と通信していいと良いのですか」

「ああ、自由だとも」

「盗み聞きはしないのだろうネ?」

「さて。個人的に無礼な真似は好まないが。上に立つ方は個人の流儀よりも国防を優先するだろう」


 盗聴を否定しない。それも誠実さだろうか。

 メリットとデメリットを秤にかける必要がある。

 だとしてもアモットは恭しく礼をした。


「ありがとうございます」

「ボクは君達の幸福を祈っているよ」


 爽やかな微笑みを残し、ズカイナルが退室。

 乗組員達は喜びや疑念の面持ちでそれぞれの端末を手に取った。


「やっと返ってきた!」

「壊されてないだろうね!?」

「ああ。確認は必要だネ」

「いえ、真っ先にすべき事があるでしょう」


 三人の視線が船長に向く。アモットは頼り甲斐のある笑顔で言った。


「キウリャ君とヂンペー君、ナイン君を労いましょう」


 まずはメッセージ。

 そして準備が整えば映像を表示。


 鮮明な仲間の姿を目にする。感極まる者も一見動じない者も、気持ちは同じだ。


「久しぶりですね。お疲れ様です。よく頑張ってくれました」

『船長』

『おォ、ボス。ありがとさん』

『どうぞお気遣いなく』

「これまでに素敵な思い出はありますか? 是非聞かせてください」


 アモットは役割を優先せず、そう尋ねた。

 堅苦しくない、日常会話の延長。船長らしいと笑いが起こる。

 報告以上に他愛ない話で延々と盛り上がったのだった。

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