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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

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9 勇者は立ち、戦場は爆ぜる

 乾燥した大地から砂埃が舞いあがる。空を覆い暗くなる様は、山に満ちる絶望感の具現か。


 ドワーフの街を目指し、魔獣は進む。

 巨躯を器用に動かして崖を登る様は遠目なら滑稽だっただろうか。体重を支える山は偉大だが、動く度に震動が発生。街中の命と誇りを揺るがした。

 街外れに立った脅威は威圧する。金属のような毛皮。口は家ごと収まるサイズ。獰猛な瞳を輝かせ、空間を叩きつけるように吼えた。


 キウリャが出発した後、更にヂンペーも追っていった。

 二人を見送ったチッチィはズカイナルの下へ慌てて飛んでいく。せめて助けようと思ったが、まだ遠いはずの威容に呑まれてしまう。


「はわわわわっ……! こんなのっ、もう、無理じゃないですか……っ!」

「そう思うかい? ボクがいるのに?」


 街の境目で待ち受けるズカイナルは陽気に微笑む。

 余裕綽々。少なくともそう見えた。見せていた。


「そ、うですよね。ズカイナル様なら勝てますよね!」

「ああ。勝ってみせよう」


 背後では多くのドワーフ達が逃げ惑う一方、一部の者達は戦闘準備。投石機やバリスタ、大型の兵器を引っ張り出し組み立てる。戦争の様相。まだ時間はかかりそうだ。


 チッチィも援護しなければと張り切る。魔法を発動。温かい光に包まれるズカイナル。妖精の魔力を分け与えた。


「ありがとう。これで更に負けられないね」

「大丈夫ですよね!? 勝てますよね!?」

「心配させてしまうとは不甲斐ない。不徳の致す限りだ」


 ズカイナルは弓に矢をつがえる。ギリギリと力を込めれば、魔力と共鳴した角が震える。

 放つのは、かつて宇宙船を撃ち落とした一撃。


豪咆真煌(グリッターチャージ)


 極太の白光が伸びる。放たれた矢は真っ直ぐに標的へ。

 魔獣の雄叫びは悲鳴か怒声か。

 表面には傷は見えない。歩みも緩まない。通じたのかは不明だ。


 続けて第二射を構えるズカイナル。かなり消耗するはずだが、躊躇はなかった。

  

豪咆真煌(グリッターチャージ)


 破壊的な光を(まと)う規格外の一矢。しかし、今度は魔獣に叩き落とされた。小山のような前脚で。弾かれた矢が豪快に地を抉る。

 おぞましい雄叫びがあがる。更に山が崩れていく。


「流石は伝説の魔獣。腕が鳴るね」


 ズカイナルは余裕をアピールするように笑う。弱気になる暇などない。

 魔獣と目が合った。極大の敵意を小さな身体が引き受ける。

 スケールの違う両者が対峙。同じ戦場で、互いに命を取り合う敵として。


「うん、真っ向勝負といこうか」


 ズカイナルはトントンと軽快に駆け出す。剣を構えて颯爽と。

 街から離れるように誘導するつもりだ。


 やがて始まる剣戟。

 巨大な影と、小さな人影。光を放つ攻撃は派手だが、違い過ぎて虫のように扱われている気がした。

 互角だろうか。互角のはずだと信じる。少なくとも負けてはいない。

 チッチィは勝利を祈る。近寄れない領域の外から必死に見守る。無力を噛み締めながら。


 そんな時、無機質な声が呼びかけてきた。


「チッチィ様。貴殿に指揮権限が移譲されております。避難誘導は終了致しました。いかが致しましょうか?」

「あ、ナインさん……」


 アンドロイドだという機械じかけの人形。キウリャ達の仲間。

 非戦闘員のドワーフ達を、空に浮かぶ岩を利用した避難所に誘導したらしい。頑丈で揺れにも影響されないが、魔獣の前では心許ない。

 戦力が必要だった。


「一緒に戦ってくれますか……?」

「敵性存在の排除による安全確保をお求めであればお助け致しますが、どうされますか」

「え? えー……はい、求めますう! 思いっきりやっちゃってくださいいぃ!」

「でしたら最大火力で援護致しましょう」


 ナインは宇宙船に向かう。その速度は速い。滑るような移動がゴーレムとの違いを表している。

 やがてナインは大荷物を抱えて出てきた。太い筒を中心に大掛かりな物を設置。

 多くの部品が体格には大き過ぎるが、軽々と扱う。


「攻撃を開始致します。お下がりくださいませ」


 なにやら操作すると、筒から極太の光が発射された。熱く目を焼く眩しさ。ズカイナルにも劣らない一撃。

 魔獣に命中し、爆発。巨体を仰け反らせた。


 チッチィは無言でその光景を見つめる。

 自分の一言のせいでとんでもない事を起こしたと後悔しかけたが、魔獣には必要だろうと言い聞かせた。

 当のナインはあくまで淡々。遥か彼方を計測して指示を求める。


「対象の損傷は軽微でございます。続けた方がよろしいでしょうか」

「えーと……倒せるまでは……。でも、やっぱりもう一度封印した方がいいですよね……やり方って……」

「以前の戦闘データは皆様より収集済でございます。参考になるかと愚考致します」

「先に教えてくださいよお! 封印するにはどうするんですか!」

「宝珠の機能は魔力(エネルギー)供給、封印区域での儀式は山頂近くの施設で制御が可能。要は宝珠を戻し、対象を出てきた場所に押し返した上で、施設において魔法を実行する事が条件のようでございます」


 説明を理解して、チッチィは絶句した。

 その条件は、厳しい。

 大規模な魔法には大規模な陣が必須。だが魔獣が岩壁を壊して出てきたあの場所に、あれだけの巨体を運ぶのは不可能に思えた。


「で、できるんですか……?」

「わたくしに判断はできかねます」

「えーと……とにかくまず宝が必要ですよね! それから考えます!」


 後回しにして無理矢理前向きに笑う。

 キウリャ達なら取り戻せると信じているが、それまでの時間稼ぎも困難だ。


 遠くでズカイナルは魔獣の周りを跳び回って戦闘中。魔獣も鬱陶しそうに腕を振るっており、足止めにはなっているらしい。

 その余波が、周囲を破壊していた。地が裂け、山が崩れ、建物が砕ける。

 とても近づけない。英雄以外は。

 声を届けるのが精一杯だ。


「ズカイナル様負けないでください!」


 こちらを気にかける余裕はない。それでも力になっていると思えた。


 それにドワーフ達の兵器による援護も増えた。豪快な攻撃が空を駆けていく。

 ズカイナルに当たらないかハラハラするも、的確に見極めていた。魔獣に傷は見当たらないが、移動速度が鈍っているので効いているのだろう。


「ナインさん! さっきのもう一発お願いしますう!」

「かしこまりました」


 ナインも機械を操作する。

 が、途中でその動きを止めた。


「どうしました?」

「通信が入りました。キウリャ、ヂンペーの両人が間もなく到着するようです」

「わ! 本当ですか!」


 即座に空へ飛び上がり、ウキウキ気分で探す。

 不自然な砂煙はすぐ発見。唸りを上げて山道を登ってくる、金属の物体を確認できた。

 こちらから迎えに飛んでいく。


「チィ!」

「キウリャさあん!」

「なんだ、まァだ倒してねェのかよ」

「偉そうに言わないで」


 相変わらずのやりとりに緊張感はない。それが嬉しい。


「取り返せましたよね! それが必要なんです!」

「うん、ちゃんとある。どうすればいい?」


 真剣な目になったキウリャに、チッチィも興奮を抑えて説明する。


「元あった場所に戻してください!」

「分かった。オジサン、目的地分かるでしょ。行って」

「あんなトコにバイクで行けってか?」

「急ぎなんだから仕方ないでしょ」

「あァ、クソッ! まァだ働かせんのかよォ」


 進路は鉱山へ。曲がる為に速度を緩めたところで、キウリャは強引に降りた。転がって起き上がった事も含め、チッチィは二重に驚いて声が出せない。


「あと任せた。こっち手伝う」

「あァん!?」

「一人で十分でしょ」


 舌打ちを残し、ヂンペーは鉱山へ疾走。

 服装を整えるキウリャと向き合う。


「あとやる事は?」

「魔獣を出てきた場所に押し込まないといけないんです……」

「アレを? ……チィの出番じゃ?」

「ええ無茶ですよう!」

「浮遊させればいいと思ったけど、無理?」


 キウリャの提案は理に適っていた。実行できれば、の話だが。期待に応えられないと、泣きそうな顔で答える。


「流石に魔力が足りないですよう!」

「……宝珠には莫大な魔力があるんでしょ。そこからもらえない?」

「……え? えーと……やってみます!」

「うん、お願い」

「頑張ります!」


 拳を握り不安を振り払う。キウリャの微笑みも応援してくれているようで心強い。


 魔獣へ向かうキウリャと別れ、山頂近くの施設へ。あとからドローンというらしい機械もついてきた。

 中では魔法使いが倒れていた。命に別条はない。犯人の仕業だろう。


 ドローンが壁に光を放てば、複数の場所が見えた。音も届く。

 チッチィはこの場に一人でも、全員が一つになっている感覚。やる気は十分だ。


 施設内を調べ、急いで封印の方法を掴んでおく。


『嬢ちゃん、返却ボックスにぶち込んどいたぜェ』

『言い方』

「わわ! 魔力が……」


 地下から魔力の流れが一気に増した。誰かが制御しなければ危険な程。慌てて放心しかける。


『チィ、いけそう?』

「頑張ります!」


 落ち着いた声で冷静になれた。

 魔力を自らに通す。下手すれば溢れて溺れそうな魔力の塊を正確に制御。

 封印だけでなく、自らの魔法、浮遊にも活かせそうだ。

 壁の光景と魔獣の気配を頼りに発動。

 小さな映像の中で巨体が浮かぶ。


 するとキウリャが大型の武器を発射。赤い爆発が起き、軽々と魔獣が吹き飛ぶ。


『チィ、一旦解除できる?』

「はい、任せてください!」


 崖から出たところで魔法を解除。

 自由落下する魔獣。

 崖に爪を突き刺し巨体を支えたが、ズカイナルが崖際で剣を構える。


荒雅白閃(ブライトタスク)


 駆け抜ける光が地形を切断。

 伝説は再び落下していく。

 地面に激突。大きな地震。

 再度浮遊魔法をかけた。


『これで、終わり』


 キウリャがもう一度武器を発射。魔獣より奥で、爆発。爆風が魔獣を洞窟へと運んでいく。


 後からドローンが追いかけ、施設の壁に映し出す。

 広大な洞窟、精緻な魔法陣。

 全て、分かる。チッチィは伝説の儀式魔法を、現在に起動する。魔獣と宝珠と自分、一直線に結んだ魔力の流れを制御し過去の偉業に身を委ねる。


「封印します!」


 虹色の光が洞窟を満たした。嘆きの声も激しく反響。

 岩盤が沼のように変化。巨体は地下へ沈んでいく。


 後には、痛い程の静寂。


「終わ、りま、した?」

『ああ。ボク達の勝利だよ』

『お疲れ、チィ』


 声を聞き、へなへなと床に降りるチッチィ。ぐったりと突っ伏して動けない。

 勝利の余韻など味わう余裕はとてもなかったのだった。

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