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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

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7 バーリトゥードチェイス

 快晴の空を背景に、大自然と職人の技が織り成す壮麗な景色が崩壊していく。

 ドワーフの街は伝説の魔獣の再来により大パニック。建物から転がり出て山自体からも降りようとする人々の逃げ惑う惨状は、普段の喧騒より遥かに荒々しい。

 ただしその魔獣も、単なる囮。本命の宝を盗んだ輩がいる。魔獣を止める為にも、必ず取り返さなければならない。


 キウリャ達は並んでいた車両の下まで走る。ナインが待機しており準備を整えていた。


「直ってんのァ全部じゃねェぞ?」

「十分。オジサンまで来なくて良いでしょ」

「本当かねェ」

「いいから避難誘導でもしてて。それから向こうの援護も」

「人使い荒くねェ?」

「それじゃあナイン、お願い」

「かしこまりました」


 文句を言うヂンペーの代わってナインに託し、キウリャが選んだのはエアヴィークル。

 流線形をした一人用の車両だ。重力制御機構とジェット推進で飛行。最高速度は時速百キロを優に超える。

 惑星移動用に配備された機体。訓練は積んできているし、爽快な気分になるので前々から乗れる事を期待していた。こんな状況でなければ楽しむところ。


 キウリャは頭のバンダナを外して腕に巻き、ヘルメットとパラシュート機能付きのジャケットも着込む。

 急ぐ場面でも安全第一。守らなければ作動しないロックがかかっているし、なにより万が一の際に命取りだ。


「チィも向こうの方手伝ってて」

「私も一緒に行きたいです!」

「速いし危ないと思う。だから待ってて」

「……分かりました」


 心強いのは確かだが、一人で追う。高速移動に小さな体が耐えられるか分からなくて不安だったから。


 座席に座り、空きスペースに複数の銃を置く。重力制御機構を始動させた。

 静かな動作音。軽い振動。高揚感が体を駆け巡る。修理は万全らしい。


 エアヴィークルはゆっくりと浮き上がり、キウリャは最後に振り返った。


「取り返してくる」

「無茶はしないでくださいね!」

「うん」


 チッチィに応え、風防を閉める。

 そして発進。

 いきなりの急加速で崖から飛び出す。雄大な光景を場違いな異物が突っ切っていく。

 ぐんと加速すれば体に圧がのしかかるが問題ない。

 遠目で魔獣を眼下に確認。ズカイナルと目が合って指を立てられた気がした。


 視界にレーダーを表示するも、なんらかの妨害工作で目標は表示されない。望遠カメラで確認したが、遠く小さな点だ。

 自由な空中。障害物もないので最高速度。こちらの方が速い。時間さえあれば追いつける。

 油断せず気を引き締めないといけない。


 点は徐々に大きくなり、やがてグリフォンの姿が確認できた。

 その時、水を差すような通信が入る。


『嬢ちゃん、真っ直ぐ突撃は止めとけよォ。向こうには矢があんだぞォ』

「大丈夫。忘れてない」


 むっとして答える間に、望遠カメラがハッキリと捉えた。

 クロスボウに矢をつがえるのが見える。普通なら届く訳もないが、この星ではそんな常識は捨てるべきだ。


『そらもう来る』

「気が散る。黙って」


 真っ直ぐな追跡から、上下左右ジグザグな軌道に変えて追う。

 矢が機体の横を過ぎ去っていく。当たれば貫通するだろうか。

 フィアーピッカー号に搭載されていた電磁障壁、その小型版がこの機体にもある。が、電力消費が激しいので最終手段だ。

 速度は落ちてもまだ速い。じりじり距離は縮まっていく。


 そろそろ反撃開始か。

 キウリャは自動操縦に設定し、風防を開けた。

 レーザーライフルを構える。こちらも射程距離は十分。

 位置情報を頼りに狙いをつけた。自動でジグザグに動く機体。条件は最悪なので期待はしない。


 放たれるレーザー。光が無機質な崖に線を引いた。

 あえなく外れる。グリフォンもキウリャと同じようにジグザグ飛行に切り替えている。優雅に舞っているよう。

 予測し、タイミングを測って、引き金を引く。互いに牽制しつつ、どちらも速度を緩めない。一歩間違えば致命傷だがその程度では揺るがない。覚悟は決まっていた。

 手元にあるバッテリーは二十発分。使い切るまでに仕留める。唾を飲み込み、視線を更に鋭くした。


『外れ。人に下手くそ言っといてそりゃねェだろ』

「条件が違うでしょ。黙ってて」


 距離は付かず離れず。差は縮んでいたはずだが、向こうも加速している。

 そして進路を変更。

 魔獣の傷跡。複雑な谷間に入っていく。

 レーザーに映らない以上見失いかねないし、射線が通らない。流石にレーザーでも岩盤を貫くのは厳しい。

 リスクの大きさを把握した上で、キウリャも意を決して深い谷間に飛び込む。


『また厄介なトコに逃げられたなァ。ほい地形データ』

「……助かる」

『素直に礼ぐらい言えねェのかよ』

「言ったでしょ。邪魔しないで」


 お喋りする余裕はあまりない。クラッシュの危険性が常にある。無意識に胸元のバッジを握っていた。


 両側の岩壁の圧迫感。見通しの立たない閉塞感。

 しかも早速矢に歓迎される。うねる谷の向こうから現れた唐突な殺意。危機。しかし間一髪で回避。

 と、思った直後、矢はあり得ないはずの曲線を描いた。


「また魔法……!」


 銃を即座に持ち替え、ショットガンで撃ち落とす。

 落ち着く間もなくまた一本。軽やかに再装填し、発砲。谷に激しい音が反響し、空薬莢が煌めきながら崖に落ちていく。


『やっぱ二人がかりの方が良かったんじゃねェの』

「……かもね」


 判断ミスを認めつつ、後悔すら時間の浪費と一方的に通信を打ち切る。

 

 高速移動は続行。崖にぶつかりそうなスレスレを狙って最短で追跡する。障害物の回避は自動操縦の得意分野。ならばあとは防御。追いついてから攻めるべきと、牽制は捨て迎撃だけに集中した。

 ショットガンの弾が切れれば、ライフルの連射で対応。ブレる手元。動く的。だとしても撃ち漏らさない。危機に昂ぶる脳が神業を可能にしていた。

 

 暴力的な速度で流れていく景色。すぐ傍に迫る赤茶けた壁。死角を付け狙う矢。

 死がすぐ傍にある状況に、肌が痺れる、唾を飲む。追跡を止める選択肢は思い浮かびすらしなかった。

 既に心は決めていたから。


 そこに変化。相手は崖を撃ってきた。細い頼りない矢のはずが絶大の破壊力。

 崖が崩れ、岩や土砂が流れてくる。空が塞がれ夜のよう。

 しかも攻撃は止まない。間隙を縫って矢が迫る。


『ほい、安全地帯の予測。自動運転に反映させとくぜェ』

「……感謝しとく」


 自動で安全な空間に滑り込み、避ける。が、その急で不安定な軌道では矢を狙えない。しかも追尾されては安全地帯などなかった。

 仕方なく電磁障壁を使用。矢は弾け飛んで粉々に。

 すぐに障壁を切り、電力の全てを推力へ。

 谷間が真っ直ぐな道となり、視界が開けた。グリフォンも確認できる。

 リスク覚悟で勝負すべき時か。


 レーザーライフルに持ち替え、短く息を吐く。

 スッと集中。動きを予測。確実な一撃を見舞うべく銃身をピタリと構える。


「……今度こそ」

『嬢ちゃん、後ろだ!』


 切羽詰まった警告に振り返れば、背後に矢が迫っていた。

 全て破壊したはずが、何故。疑問は一瞬。隠れている間に罠はいくらでも仕掛けられると思い至った。

 迎撃も障壁も手遅れ。自動操縦による回避にも、誘導が追いつく。

 強靭な矢が、機体側面を抉っていった。苛烈に散る火花。剥き出しになった内部構造。


「ぐ……っ!」


 ガクンと高度が下がる。

 鳴り喚く警告音。重力制御を失った機体が落ちていく。

 リカバリーができない。落下の感覚が体を襲う中で、緊急安全装置が起動。座席ごと脱出し、パラシュートが開く。

 油断せずライフルを構えるが、追撃はない。

 ふわりと地面に着地したキウリャは更に受け身。荒れた地面を転がる。

 スムーズに立ち上がると、パンパンと砂を払いつつ遠くを睨んだ。


「……失敗した」

『まァ、気にすんなよ。まだ手はある』

「下手な慰めは要らない」


 標的は既に、肉眼では小さな点。それも岩壁の向こうへ消える。追いつく術はないのだ。


 魔獣は野放し。あの暑苦しくも明るい街が、崩壊してしまう。守られて当然の日常が失われてしまう。

 自分の責任は重い。

 憧れた背中は、災害や事故から必ず仲間を救っていたのに。


 ギリッと奥歯を噛む。強く痛みを伴って。

 八つ当たりだと意識しつつぶっきらぼうに呟く。


「なに? 一瞬で直すって言うワケ?」

『はっ。動けるヤツに乗りゃいいだろォよ』


 冷笑する声と入れ替わるように、重低音。段々大きくなるそれは、援軍を意味していた。

 背後に谷底を疾駆する影。その正体は、ガソリンエンジンで動く旧式のオフロードバイクだった。急ブレーキがもうもうと砂埃を舞わせる。

 そしてヂンペーの声は通信ではなく、直接耳に届く。


「よォ。乗ってくかい、嬢ちゃん」

「……最悪」


 ゴーグルを上げてニヤニヤした顔を晒したヂンペーに、キウリャは苦々しさを隠そうともせず応えた。

MACKさんから頂いた今回ラストシーンをイメージしたFAです。

挿絵(By みてみん)

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