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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

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6 酒盛り、急転、大舞台

 キウリャ達が鉱山を出ると、日が山に沈みかけていた。赤く染まる絶景の大地に思わず立ち止まる。あちこちに吊るされ橙の灯りが温かい。

 街の雰囲気は熱い仕事から安らぐ休息へ。住人達の笑顔が微笑ましい。


「終わったんですね、キウリャさん! こっちです!」


 そして合流したチッチィに先導されヂンペー達の様子を見に行けば、前とは空気が一変していた。


「わははは。そうかそうか! 立派なモンだなァ!」

「ガハハハ! おうお前さんもな!」

「悪いねェ。いや酒もお世辞も美味い」

「世辞でなく本心よ。そらもっと飲め飲め!」

「お酒もっと飲む!?」

「おっと、ボウズはとっとと帰んな」

「えー! やだ!」


 ヂンペーとドワーフ達は険悪だったのが嘘のように盛り上がっている。広場に酒とツマミを持ち込み大宴会。

 皆顔が赤い。空き瓶も山程。

 ナインの講習会より、きっと酒の力。飲み会で意気投合したのだろう。


 キウリャは氷のような視線を全員に向けた。


「酔っ払いは面倒で嫌い」

「そ、そう言わずに……。ほら、仲良くなれば修理が進みますよ?」

「良い大人なんだから、こんなのなくてもちゃんとすべきでしょ」

「そう、ですよね……」

「ところでナインは?」

「先に戻られました」

「ほら。ちゃんとしてる」


 チッチィが擁護しても温度は戻らない。まるで汚い物かのように目を逸らす。

 その先に、ズカイナルの陽気な笑顔があった。


「良いじゃないか。我々も同じように交流を深めよう」

「アナタはマシなだけだから」

「おや手厳しい」


 スマートに肩をすくめた。相変わらずの絵になる姿だがなびきはしない。


「しかし食事はとるだろう? 私がいきつけを紹介しよう」

「……じゃあお願い」

「任された」


 ズカイナルが案内したのは比較的高級な宿。城下町での行きつけより、内装も豪快に見えた。とはいえ客のドワーフ達は豪快に飲み食いしている。マナーの意識が違うのかもしれない。


 やはり酒が有名で酒に合う料理が中心。茶色のソースのかかった塊肉。魚の揚げ物。野菜たっぷりの煮込み。ガツンとくる味付けは肉体労働の後には最適か。

 キウリャも探索で疲れているので丁度いい。周りにならってガツガツと食べ進める。

 スパイスの刺激。歯応えのある肉。噛めば噛むほど身体が熱くなる。暴力的な多幸感が口内に溢れ、少々くどいがそれが癖になる。弱めの酒をつい注文してしまった。


「良い食べっぷりだ! 惚れ惚れするね」

「……どうも」

「気に入ってくれたかい?」

「うん、良い味」


 ジト目ですげなく返答。すぐに食事を再開。あくまで目的はお喋りではなく食事だ。

 ニコニコと眺められては居心地が悪いが食べるペースは落ちない。


「キウリャさん、流石にもう少し……」

「今イライラしてるの。誰かさんのせいで」

「あはは……」


 チッチィもキウリャの冷えた空気に説得を諦めた。丁度いい大きさのパンくずにソースをつけて食べ始める。


 ズカイナルは自らも料理を口に運びつつ、声音を低くした。


「では真面目な話をしよう。この街に迫る脅威についてだ」


 キウリャは空気の変化を感じ、正面を見据える。


「凶暴化の心当たり?」

「ああ、人為的な工作を疑っていたが、奥地に侵入や魔法の痕跡がなくてね。しかし間違いなく狙われているよ」

「誰に?」

「ダンジョンをクリアした君達を襲った、グリフォンを駆る彼だよ」


 記憶に新しい、グリフォンに乗った襲撃者。

 鉱山の奥にあった宝玉は、あの時宝箱に入っていた宝玉と確かに似ている。

 流石に食事の手が止まった。


「……ここの宝も狙われてる?」

「話が早くて助かるよ。……実を言うとね、最初に君達の船を撃墜したのもこれが理由だ。彼と関わりがあると誤解してしまった」


 明かされた撃墜の真相。タイミング次第では安全に降りられたのだろうか。

 ならば王の警戒を解くには、犯人を捕らえればいいのか。

 まだ気になる点はある。


「それだけ危険って事でしょ。目的は?」

「国家転覆を狙う、と考えられているよ」


 あくまで推測。つまりは不明。

 読み違えは想定外の敗北に繋がる。そこはズカイナルも心得ているようだ。


「話して良いワケ?」

「上からは口止めされているよ」

「じゃあなんで」

「君達を信頼しているのさ。レディ」


 素直に受け取っていいものか、少し前ならいまいち判断しかねるものだった。

 しかし既に多くの言葉を交わした。ここは過剰に疑うべきではない。

 爽やかな笑顔は、確かに信頼の証に思えていた。




 店を出てズカイナルと別れた帰り道。ドワーフに呼び止められた。


「おう、新星の娘っ子! お仲間は頼むぞ!」


 それだけで事態を理解して、深く溜め息。

 広場に向かえば、酔い潰れた者がそこかしこに寝転がる。ドワーフ、ヂンペーも違和感なく混ざっていた。それぞれに迎えが来ている。例の子供も既にいない。


「全く、なにが『おこちゃまじゃねェ』なんだか……」


 だらしなく大の字になっているヂンペーを見下す。再度大きく溜め息を吐いた。


「チッチィ。浮かせる魔法使ってくれる?」

「はい、いいですよ!」


 フワリと浮かぶ成人男性。その襟元を掴み、風船のように引っ張って船に持ち帰るのだった。





 それから、二日後。引き続き二人で鉱山周辺を探ったが凶暴化獣の駆除のみで収穫無し。不安を抱えて迎えた朝。


 日差しが山肌を焼く。乾いた風が潤いを奪う。

 見事な職人の仕事を誇るドワーフの街。

 ただし活気はなく険悪な騒ぎが起こっていた。


「一体どうなっとる!?」

「火がつかん!」

「仕事ができんぞ!」

「炎神のお怒りじゃあ!」


 街中の工房から怒号がもれる。ドワーフ達の困惑と絶望、街全体がネガティブな感情に芝居されていた。

 原因はハッキリせず、それが混乱を加速しているよう。


 当然キウリャにも心当たりがなかったのでチッチィに質問する。


「どんな仕組みになってるの?」

「山の中心に各工房へ魔力を供給する魔力源があると聞きました」

「……それって、もしかして」

「その通りだよレディ。我々が確認した宝珠だ」


 唐突に現れたズカイナル。堂に入った解説、訳知り顔が聞いてほしいと語っていた。


「それに異常が?」

「それを確かめよう」

「……分かった」


 三人で例の鉱山へ。

 到着する前から荒々しい喧騒が耳に届く。既にドワーフ達が押し寄せていた。


「ああ。入るまでもないようだね」


 ズカイナルの視線の指にはヂンペーがいた。機材をいじりながら唸っている。


「それらしい反応なんざねェぞ。温度も低くなってらァ」

「なに!? 消えたのか!?」

「む!? つまり宝珠を盗んだ輩がおるのか!?」


 事態が判明。

 盗人。例のグリフォンの騎手だろう。既に事を起こされた後らしい。

 ヂンペーと共に確認していた長のグンゲルンが、こちらに気付いた。


「おおズカイナル殿!」

「昨日獣を討伐した際、鉱山に異常はなかったよ」

「おいおい、それで入りやすくなったんじゃねェの?」

「無論警備は厳重に──」


 話の途中。突然、衝撃が襲った。

 地震か。

 集まっていた全員が地面に伏せ、あるいはしゃがむ。驚きはあってもパニックにはなっていない。

 しばらくして揺れは収まった。


「お? 熱反応が出てきたぞ」

「妙な気配があるね」


 ヂンペーとズカイナルが異変を察知。

 だが、それを検証する前に、再び激しく揺れる。地響きは更に大きくなっていた。

 ズカイナルの顔がサッと青ざめる。


「しまったな。これが狙い……いや、副次的に発生しただけ……陽動か!」


 そこに爆音。世界を叩く衝撃。

 大地がひび割れ、押し上げるように膨らむ。

 重なる爆裂音。街の下、山の中腹辺りが弾けて、雄叫びが轟いた。

 次いで、巨大な影が姿を現す。


 遠めに見た城程の体長。規格外の生物だった。サイズ以外は二足歩行の哺乳類。毛皮が針山のように逆立ち、爪や牙は大木のよう。凶相は殺意に満ちている。

 一帯が騒然、恐怖に包まれた。


「うおお! 魔獣の復活じゃあ!」

「本当か! あれがあの魔獣!」

「おいおい、まァたこんなバケモンかよォ……」

「……もう慣れたでしょ」

「冗談キツイぜ全く」


 スケールの違う巨大怪獣。ドラゴンよりもダンジョンの石像よりも大きい。

 ライフルはちっぽけだ。


「流石にコレだけじゃ厳しい。オジサン、アレに効く武器作れる?」

「無理だろォよ」

「ああ。そうだね。君達には別の仕事を頼みたい」


 ズカイナルは魔獣ではなく空を見ている。鬼気迫る雰囲気を備えて。


「なにか?」

「これは陽動だ。ドワーフの宝珠を盗んで逃げ切る為のね。凶暴化は魔獣の封印が弱まっているせいだと気付けなかったのはボクの落ち度だ……ほら、彼だ」


 指差した先には、空駆けるグリフォン。予想は的中したようだ。

 このパニックなら確かに他に意識は割けない。が、陽動としては大き過ぎる。

 キウリャは疑問を投げた。


「そんなに宝に価値があるワケ?」

「あるとも。魔獣を封印していたのだからね。だから今すぐにでも追ってほしい」

「アレへの対処には取り返す必要が?」

「その通りだね。すぐ取り掛かってくれ。時間が惜しい」


 いつもの爽やかな笑みも、やや硬い。引きつった緊迫感。事態は切迫している。


「まァ、追いつけなくもねェスピードだなァ。つうかレーダーに映らねェな。ジャミングかァ?」

「どうやって追うワケ。まだ壊れたままでしょ」

「おォ、直ってんぞ。全部じゃねェけど」

「……なら良いけど」


 酔い潰れるだけでなくちゃんと仕事はしていたらしい。

 手段は揃い、追いかける目処は立った。


「で、あっちは放置してて良いワケ」

「あれはボクがお相手するよ」


 ズカイナルが不敵に笑う。歴戦の戦士の気迫。闘志に燃えている。

 頼もしい背中を向けて、颯爽と駆け出した。

 最後にこう言い残して。


「頼んだ。この街を救ってくれ」


 キウリャはいつものジト目に、応援の気持ちを込めて見送る。


「救うのはどっちなんだか」

「大人しくおこぼれにあずかっとこうぜェ」

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