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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

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5 それぞれの戦場を駆ける

 雲のように岩が浮かぶ空に迫る高山。職人仕事による原色の鮮やかな建物。

 真昼の活気あるドワーフの街に、怒鳴り合う声が尽きることなく響いていた。


「だァから勝手にいじんな! まずは見てろ!」

「ああん! 手伝ってもらいたいんだろうが!」

「俺が指示すっから待て! 何も知らねェだろォよ!」

「なんだと! わしらを愚弄するのか!」


 ヂンペーとドワーフは互いに譲らず叫び声でぶつかり合う。


 宇宙船の修理が本命だが、その前に技術の見極めを兼ねて機材や車両の修理から始まった。

 工作機械や3Dプリンターといった修理に必要だった設備。

 車両も複数。フロートバギー。エアーヴィークル。電動車。オフロードバイク。母星と異なる惑星の環境に備え、構造も動力も異なる車両が用意されていた。

 ドワーフ達の金属加工は見事なものだ。変形した外板の修理は完璧だった。複雑な構造の部品も難なく精巧に作り上げた。

 問題は電気系統。

 当然存在しない知識と技術なので、一から教えるのにヂンペーはかなり苦労している。

 素材を提供してくれるだけでも有り難いと諦めるべきかもしれない。ただやはり、大元の加工設備が壊れていては話にならなかった。協力が必要だ。


 とは思うものの、ヂンペーは遂に我慢を放り投げる。


「あァくそ! ヤメだヤメ! 一人でやった方がマシだ!」

「ワシらの誇りを侮辱するのか!」

「知らねェよ。んなモン抱えてっから遅れんだろォが」

「やはり侮辱! 決闘を望むのか!」

「んな余計な事より手ェ動かせ! いや動かすな!」


 ヒートアップする怒号。もはや単なる口喧嘩。そこには知性の欠片もなかった。

 そんな荒れた空気とは真逆の、ナインの声が朗々と割り込む。


「ヂンペー殿。私から説明させて頂きましょうか」

「そうしてくれ。俺ァ疲れた」

「おう、人形殿よ。バラして中を見せてくれるのか!?」

「いいえ。その要請にお応えする事はできかねます。しかし一部なら応える事が可能でございます」

「うん? なにを言っとるんじゃあ!?」

「ご覧になった方が話が早いかと思われます」


 岩肌をスクリーンにして投影。

 表示されたのはナインの内部構造。基板からケーブル、隅々まで明らかにしていた。

 ドワーフたちから弾んだ声があがる。


「おおおお! これは中身か!?」

「皆様には詳細な説明が必要だと愚行致します」


 ナインはドワーフ達を一気に引き込んだと確認して、スクリーンに投影する図を変える。


「基本から参りましょう。電気とはなにか。皆様翻訳は大丈夫でございましょうか」

「お、おう?」


 戸惑いつつも大人しく、真剣に話を聞く。立派に教師と生徒だ。

 ヂンペーは近くの店先の椅子にどっかりと腰かけて笑う。


「おォ。こりゃ良いなァ」

「だったらオジサンは要らなくなる」

「んじゃサボっていいよな?」

「ふざけないで」

「嬢ちゃんもヒマだろォ?」

「……それは、そうだけど」


 目を逸らして口ごもるキウリャ。暇を持て余して既に座っていたので悔しくも反論できなかった。

 と、そこに元気な声が飛び込んでくる。


「ヂンペーさん! ドワーフのお子さんが探してるみたいですけど!」

「やべ」


 チッチィに呼ばれ、ヂンペーは慌ててナインの下へ走る。補助をするつもりらしい。

 後から来た少年も追いかけて教室に加わった。


「あんなオジサンの何処に懐いたんだか」


 ぼーっと両者を見比べながら呟く。

 無理に引き剥がそうと思わないが不思議には思った。


 武装の解説も求めれていないので、そのままぼーっとし続けている。


「……やる事ないんだけど」

「キウリャさんはああいうの詳しくないんですか?」

「別に」

「手伝いもしないんですね?」

「二人がかりなら大丈夫じゃない?」

「嫌いだからじゃないんですね?」

「……いや。まあ、ね」


 ヂンペーを信用はしている。

 嫌いなのは合っているが、仕事には手を抜かないはずだとの確信はあるのだ。


 それより、サボるなと言い続けてきた手前、現状は落ち着かない。

 膝に肘を置いて組んだ手にあごを乗せ、珍しい景色を眺める。


「この辺りの調査でも進めようか。なにか知ってる?」

「そうですね……」

「では私の野暮用に付き合ってくれないかな。レディ」


 颯爽と登場したズカイナル。長との手続きは終わったが帰らないのは、付き添いと監視の役目があるからだと思っていた。

 眉をひそめつつ続きを促す。


「野暮用?」

「ああ。ちょっとした荒事だよ」


 嫌な予感はした。

 だが実際、手持ち無沙汰。今更危険に躊躇するような性格でもない。すくっと立ち上がった。


「……オジサンよりマシか。うん、行く」

「光栄だね」


 仰々しく差し出された手は取らず、自ら前へと歩んでいく。




 向かった先は鉱山だった。

 洞窟を照らすのは、規則的に並べられた光る石。岩壁は四方全て真っ平らに整えられている。やけに作り込まれた人工的な通路だ。


 ズカイナルは悠々と歩きながら説明してくれた。


「ここは奥にいく程多種多様な鉱石が産出してね。職人達にとっての命なんだ」

「部外者が入っていいの」

「だからこその仕事さ、レディ」


 隣のキウリャに向け爽やかにウインクする。

 チッチィはヂンペー達の下に残ったので二人きり。サービスに沸き立つファンはいなかった。


「苔ムカデ。荒皮ネズミ。本来は鉱石を食べる大人しい生き物だ。しかしここ最近人を襲うようになったらしい」

「原因は?」

「それを探るのが仕事さ。とは言っても既に当てはあるのだがね」

「そう」


 キウリャは淡々と返す。何事も油断せず危険度を予測すべく、普段以上に会話へ意識を割いていなかった。

 が、ズカイナルが爽やかに告げた内容に思考が一時止まる。


「異常個体が襲ってきたらレディのお手並みを見せてもらおうかな」

「……あまり弾は使いたくないんだけど」

「おや、手の内を晒したくないのかな。残念だけど仕方ないね」

「……矢と同じ。使えば補充が必要。だけど持ち込んだ物には限りがある。この街でできるようになればいいけど」

「職人に期待しよう。なに、彼らならきっと叶えるよ」

「いつかの話でしょ?」


 渋っていたらズカイナルが立ち止まり、剣を鞘ごと腰から外した。


「では私の剣を貸そう。切れ味は保証するよ」

「……こんな物を使う訓練してないけど」

「実践あるのみだよ、レディ。それとも貴重な武器を消費するのかな?」

「……試してみる」


 受け取れば、ずっしりと重い。

 しかし軽く素振りしていく内に馴染んだ。

 強力な銃も扱うので筋力はそれなりにあるし、使う分には問題なさそうだった。


 そして、洞窟が枝分かれし四方が荒い岩肌になるまで進めば。

 一メートルを超える大きさのネズミが現れた。硬そうな外皮。ナイフめいた前歯。凶暴そうな鳴き声。殺気立つ獣の姿だ。

 キウリャは灰の瞳で見据え、剣を腰だめに構える。

 じっと待てば、獰猛な突進が来る。それに合わせて槍のように突き出した。双方の速度が乗る刃。容易く体は貫かれる。


 揃って落ちる武器と死骸。絶命したネズミに足をかけ、剣を引き抜く。勢いよく血を振り払った。


「ほう。本当に初めてなのかい?」

「嘘は吐いてない。それにしても嫌な感触」

「そうか。弓矢と剣では異なるからね」

「……それで? 何が目的?」


 剣を下げたまま、鋭く見据えるキウリャ。

 少しの間硬い視線が交錯。やがてズカイナルは頬を緩め肩をすくめた。


「実力を確かめたくてね」

「そう。お眼鏡にかなった?」

「素晴らしいね、レディ。最奥まで安心していけるよ」

「なら報酬として船長達を解放してくれる?」

「申し訳ないが約束はできないよ、レディ」


 不満はあれど文句は言わない。称賛は本物だと思えたから。


 時折会話を交えつつ奥へと進む。

 その途上、ネズミとムカデが何度も襲撃してきたのでズカイナルと共に撃退していく。華麗な剣技は確かに見惚れるように美しい。魔法を使うまでもなく順調、まるで苦戦はしなかった。


 そして最奥へ。枝分かれした道の一つが、鉱山とは異なる雰囲気となっていた。人の手が入らない領域はダンジョンで見た物と似た様式。

 歩く速度を緩めて行けば、荘厳に装飾された部屋に行き着く。

 中央に燃え盛る台座。神聖な祭壇のよう。炎の中に宝玉が祀られている。

 それもまた、ダンジョンの宝箱にあった物とよく似ていた。


「またこれを持ち帰ればいい?」

「いいやりここに安置されるべきドワーフの宝だよ、レディ……危ない、上だ!」


 切羽詰まった声に見上げれば、黄色の液体。粘性があり、かぶれば顔にまとわりつく。呼吸ができない。振り払えない。

 即座に構えたズカイナル。熱烈な気迫。遠間から剣を振る。その風圧で黄色の液体は吹き飛んだ。

 ゲホゲホと咳き込みつつ、キウリャは素早く姿勢を正す。


「ありがとう。助かった」

「どういたしまして。しかしスライムか……」


 顔を伏せ、眉間にしわを寄せて考え込む。珍しく空気が重い。


「おかしいね。ここに生息していないはずだ」

「凶暴化と関係が?」

「……腑に落ちない。別件かもしれないね。ちょっと念入りに調べておこうか」


 懐から手の平サイズの水晶玉めいた物を取り出す。光が放たれ、部屋を覆う。魔法の効果はキウリャには分からない。

 静かに見守っていると、やがてズカイナルは周りをキョロキョロと見回しだす。

 そして大袈裟に肩をすくめた。


「どうやら当てが外れてしまったようだ」

「……凶暴化の?」

「その通り。だから改めて調べないといけないね。いやすまない」

「別に」


 まだ仕事があるなら望むところと、受け入れる。いざとなればヂンペーも連れてこればいいだろう。


 凶暴化の根本的な原因は謎のままだが、対処は必要。

 帰り道ではできる限り討伐して、今日のところは一旦の解決としたのだった。

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