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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第一章 コミックスペースオペラ

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1 大いなる第一歩はしっかり踏み締めたかった

 人類が母星を飛び出し、数世紀。

 月から他の惑星、更に遠くの銀河系へ。宇宙開拓が進んで人類の生活域は大幅に広がった。

 それでも尚、あらゆる物が不足していた。医療の進歩や機械化技術により寿命が延び、クローン技術の実用化、人格を有するAIを搭載したアンドロイドも増加。食料や資源、居住空間の確保、思想の対立といった多くの問題を母星は抱えており、一刻も早く、一つでも多く、資源の供給源あるいは居住可能な星を発見し開拓する事が望まれている。

 その為の調査隊の活動は常に求められていた。


 宇宙船フィアーピッカー号もその一つ。

 惑星FN82。そう識別された目的地へ向かった調査隊だ。

 事前調査によると恒星(たいよう)との距離が丁度よく、大気や気温が母星と近い。水の存在も確認。衛星(つき)は二つ。大きな成果が期待できる星だった。


 遥かな彼方にある惑星だが、宇宙開発を大きく進めたワームホール技術、亜光速航法により調査隊は一年程の期間で到着した。

 衛星軌道に宇宙船を乗せると、まずは調査用のドローンを投下。ある程度情報を得た後に直接降り立って調査する計画だった。

 そして、到着から五日。ドローンによる調査は概ね成功していた。衛星軌道上の船まで映像は送られてくる。故障や制御不能もなく全て帰還。

 結果、貴重な情報が得られた。

 



 フィアーピッカー号の乗組員が集まるブリッジ。物理モニターとホロモニター、計測機器が整然と並ぶ。暖色の照明が照らす清潔な空間だ。


「そろそろ私達が降下して直接調査しましょうか」


 船長のアモットが爽やかな微笑みを浮かべながら告げる。

 凛とした女性だ。髪はロングのプラチナブロンドで軍服のような白い探索用の服装もクールに着こなしていた。威厳のある船長がブリッジの空気を引き締める。


「いやァ。もう調査自体、十分だと思いますよォ?」


 だがそんな船長の声を、ヂンペーがやんわりと否定する。

 飄々とした男性。メカニックであり、船や設備の整備を担当していた。


 アモットが怪訝な顔で問いかける。


「ヂンペー君。どうしてそう思うのです」

「異星人が住んでる星なんざ厄ダネでしょうよ」


 この惑星には知的生命体、異星人が住んでいた事がドローンにより確認された。文明が築かれているのだ。

 無人なら簡単に資源回収が可能だったが、有人ならそうはいかない。交渉が必要だ。言語、文化、価値観の違い、多くのトラブルが予想される。


 とはいえ、無人の惑星以上のメリットが期待されるのも確か。

 アモットは身を乗り出す勢いで、渋るヂンペーを説得する。


「宇宙人との遭遇ですよ? 宇宙開発における最大の夢ではありませんか」

「夢は夢。実際はリスクの塊でしょうよ。諦めも肝心。大人しく危険な星だったと報告しましょうやァ」


 アモットの熱意に対し、あくまでヂンペーは冷ややか。どちらも揺るがない。

 そんな膠着状態に賑やかな声が割り込む。


「えー! 折角ここまで来たのに帰るって言うんスか!」

「心配要らないさ。アタシ達ならやり遂げてみせるよ!」

「ほら、ドゥーリン君とタミス君もこう言っています」


 自らの主張に二人が加わった事で、アモットは強気に微笑む。

 一人目は研究者のドゥーリン。若く人懐っこい男性。長髪をうなじの辺りで一本に結んでいる。

 現地生物の調査する際の要として期待されていた。


 それから操縦士のタミス。体格の良いドレッドヘアの女性だ。

 フィアーピッカー号、ドローンや車両の操縦が主な役割。自動操縦があってもマニュアル操作が必要な場はなくならないのだった。


「僕は反対だネ。報告して上に対応を仰ぐべきだ」

「残念。ワトウ君は反対ですか」


 流れに逆らったのは医師のワトウ。乗組員の中で最年長。過去の怪我により体を半分程サイボーグ化、顔の下半分は軽金属製のマスクに覆われている。

 彼の肩にヂンペーがニヤニヤと馴れ馴れしく腕を乗せるも、ワトウの方はチラリと横目で見るだけだった。


 そしてアモットが話に加わっていなかった一番若い女性乗組員、キウリャに話を振る。


「キウリャ君の考えはどうです」

「……リスクならとっくに呑み込んでる」

「だそうですよ」

「へいへい。これで四対二ですねェ」


 キウリャは答えた後、興味がなさそうにそれまでの行動に戻る。

 つまりは小動物との触れ合いだった。

 猫と犬が混ざったような顔、フワフワな厚い体毛に包まれた足の短い生き物。バイオ技術によって人為的に生み出された存在だ。名前はウールウ。乗組員のメンタルケアの為に隊に加えられていた。

 キウリャは無表情ながら随分と可愛がっているのだ。


「ではナイン君は?」

「保留とさせて頂きます。判断する為の情報が不足しております」

「これで四対三だな」

「保留ですから四対二対一でしょう」


 更にはアンドロイドのナインにも意見を求めた。デフォルメされた人型マスコットのような愛らしい外見。少年のような合成音声。乗組員の中で最も小柄であるが重労働もこなせる仕様だった。


 乗組員それぞれの意見が出たところで、アモットが船長としての言葉を重々しく告げた。


「確かに不安要素はありますが情報の価値は高いです。連絡を待つにしても一度帰還するにしてもコストが高くつきます。可能な限りの事前調査をしておくのは成功に必要な事でしょう」

「ならば引き続きドローンでも良いと思うがネ」

「……いいえ降りましょう。より詳細な情報が得られます。ただし安全を重視します。現地住人を刺激しないよう慎重に行動しましょう」

「あーあ。ま、仕方ないわなァ」


 真剣な顔で決断を下せば、ヂンペーとワトウも大人しく従う。渋々といったポーズをしつつも船長への確かな信頼があった。


「総員降下準備!」

「……了解!」


 凛々しい号令に乗組員の声が揃う。

 そして自動操縦により衛星軌道を外れ、異星人の住む惑星へ。


「さあ楽しんでいきましょう。それが成功に繋がるはずです」


 アモットは柔らかく微笑んでそう言った。希望を示す船長がいてこそ、乗組員の士気は上がり良い結果を呼び込むと信じていた。




 景色は移りゆく。

 モニターから窓へ。漆黒の宇宙から色のある風景へ。

 大気圏突入は静か。人工重力制御技術により摩擦熱も発生しない。


 眼下には緑と水、過去の母星とほとんど変わらない、豊かな自然。

 窓際へ移動し、実際に未知の景色を目の当たりにした乗組員に喜色が広がる。


「さて、どんな出来事が待っているでしょうか」

「いやあ、ワクワクするもんだね!」

「観光で来たかったッスねー」

「物見遊山気分は感心しないネ」


 感動、興味、興奮。子供のようなはしゃぎ方も無理はない。

 とはいえアモットが低い声で注意する。


「警戒を怠らないようにしてください。大型の飛行生物が生息しています」

「任せな! 宇宙生物が相手だなんて腕が鳴るよ!」

「いやァ、オートに任せた方が安心だろ」

「はっ! アタシがそいつに劣るとでも?」

「当たり前だろォが」


 タミスとヂンペーが火花を散らして言い合うも、他の乗組員はマイペースだ。

 キウリャはウールウを抱えて静かに景色を眺める。ドゥーリンは窓から見えた風景と生物を記録。ワトウは腕を組んで彼らを後ろから見守るように控えていた。

 遂に調査が始まる、そんな緊張感とは一見無縁。和やかな雰囲気と明るい希望に溢れていた。


 だが、ナインの警告により一変する。


「報告。高速飛翔体の反応がございます──!」


 けたたましくアラームが鳴り響いた。乗組員達は口を閉じて仕事の態勢へ。

 重力斥力制御、電磁障壁。防御機構を素早く展開。

 何かがそれらに干渉したようだが、船内に影響は響かない。


「は? 攻撃……?」

「でもなーんもいないっスよ?」

「……総員席についてください」


 周辺空域に異常はない。安堵より戸惑いが勝るブリッジ。困惑したまま座席に着いた。

 そして尚もアラームは止まらない。

 緊張が高まる音の中、悪い報告は更に続く。


「只今の接触により障壁システムがダウンしております」

「ヂンペー君、復旧を頼みます。タミス君次に備えてください」

「一撃でキャパオーバーだ。次は生身で受ける事になんぞォ」

「チィッ! 早速とはね!」

「高速飛翔体、再度接近しております」


 自動操縦から切り替え、タミスが船体を傾けて急加速。乗組員に強い負荷がかかった。


 直後に、轟音。まるで天災。

 船内に破壊的な衝撃が走り、天地をひっくり返した。

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