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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

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3 ワクワク技術者交流会

 木々はまばらで、ほとんど緑のない山肌に鮮やかな原色の建物が造られていた。

 内部が綺麗に整えられた洞窟。キッチリ角の立った石と煉瓦。それらを炎の色が暖色に染める。それがドワーフの街の印象だった。


 レッサードラゴンの車が到着するなり、ゴワゴワしたヒゲでゴツい体格のドワーフが出迎えられる。


「待っておったぞズカイナル卿!」

「やあ、協力に感謝するよ。グンゲルン殿」

「挨拶なぞいらんいらん! 早う例のブツを見せてくれんか!」

「はは! せっかちな方だ。うん、それなら早速転移といこうか」


 ドワーフの長だというグンゲルンはバシバシと力強く肩を叩き、ズカイナルが爽やかに挨拶を返す。友人のような気安さで一応重要な手続きは進んだ。安全の為、物資を転移するにはその地の許可が必要との事だが、得体の知れない物を懐に入れる不安よりも興味の方が強いようだ。


 街に滞在していた魔法使いの手を借り、街外れの広場に複雑な魔法陣が描かれた。丘の方にも待機していて大人数で協力しているらしい。

 宙に浮かぶ図形。幻想的な光が辺りを満たし、魔法が発動する。


 そして巨大な影が一瞬で出現。

 宇宙船フィアーピッカー号が転移するなり、待ち構えていた大勢のドワーフに囲まれた。


「だっはっは! なんだあ、こりゃあ!」

「ウッヒョウ! 聞いてた以上に大物だ!」

「でっかいの! いじり甲斐があるわい!」

「売ってくれ! 金ならいくらでも積むぞ!」


 ドワーフ達は皆テンションが高い。

 誰もがキウリャより小柄で、立派なヒゲとガッシリした筋肉に覆われた体。服のあちこちに道具を携帯。動く度にガシャガシャと鳴る。

 興奮した面持ちから放たれる熱気が凄まじかった。チッチィが怯えてキウリャにくっついてくる程。


「おい。大丈夫かァ、コレ」

「無断で解体などはしないよう、通達はしているとも」

「奴らが聞くかどうかは別の話って意味だよなァ?」

「はて。そうは言ってないが。無礼な偏見ではないかな」


 白々しく答えるズカイナル。

 今のところドワーフ達はウズウズしていても手は出さない。が、ギラギラしたした瞳はいつか爆発しそうではある。


 その前に、ズカイナルがパンと小気味よく手を打った。


「さあ諸君、歓迎してくれて感謝する! 今回は良き交流の機会としよう」

「んな事よりさっさと見せてくれ!」

「話は短くしてくれんか!」


 興奮するドワーフ達は話を聞かない。自由に喋り続ける。勝手に動かないだけ有り難いというべきか。

 ズカイナルは肩をすくめてキウリャ達を見た。おどけても絵になるがそれで誤魔化されはしない。

 キウリャは呆れたように溜め息を吐くしかなかった。


「それでは紹介しよう。新星から降りてきた職人、ヂンペー殿だ」

「あァ、どーもどーも。ご紹介に預かりました、ヂンペーでございますよォ」


 軽い調子で前に出るヂンペー。この場でも普段の態度を崩さずヘラヘラした挨拶。

 だが、ドワーフ達を見極めようとする視線は鋭い。


「えー、随分勝手な事言ってたみたいだけどなァ。余計な事されちゃ困んのよ。もし言う事聞かねェならぶっ飛ばすからな。そこの嬢ちゃんが」

「……挑発に巻き込まないで」


 温度のないグレーの瞳がヂンペーを睨む。

 そしてドワーフ達は萎縮するどころか、キウリャを認識した途端更に興奮して詰め寄ってきた。


「ほお! なんじゃその武器は!?」

「見せてくれ見せてくれ!」

「ちょっ! 逆効果!」


 再び睨めばヂンペーはニヤリと笑った。思惑通りだというなら、後で彼の言う通りにぶっ飛ばさないといけない。

 念の為に持っていたのが裏目だったか。威嚇射撃ぐらいはするべきか、と少し迷う。


 と、そこに甲高い音が鳴る。ズカイナルが先程より強く手を打ち、注目を集め、その上で重みのある声を発した。


「誇り高い君達は、客人に無礼を働くような恥ずかしい真似はしないと、私は信じているよ」

「……そうじゃ落ち着けい! ワシらは略奪者ではなかろうが!」


 グンゲルンの威厳ある一喝により、熱狂が収まる。少なくとも目に見える範囲では。抑えるのも限界があるだろう。


 そうして、なし崩し的に交流会は始まった。


 フィアーピッカー号の損壊は大きい。

 外装から貫く大穴は、改めて確認すれば人の手によるものとは思えなかった。当のズカイナルは涼しい顔で眺めているだけだが何を思っているのか。

 そう落ち着いて考える余裕は、群がったドワーフ達の騒ぎによってかき消されてしまう。


「なんじゃこの金属!」

「初めて見るわい!」

「合金じゃろうが見当もつかん!」


 船のあちこちに散らばってそれぞれに唸っている。大声を張りながら、雰囲気は真剣そのもの。

 手で触り、コンコンと叩き、深く観察。

 表面や断面に光を当てているが、解析する魔法だろうか。詳しい技術面の話は通じるかもしれない。


 しばらく様子見していたヂンペーが、後ろからグンゲルンに問う。


「んで? 同じ素材はあんのかよ?」

「こんなモンないわい!」

「まァ、だろうなァ」

「ないが、塞げばいいんじゃろう?」

「そりゃそうだがよォ」

「ならば安心せい!」


 小鎚を取り出しガンガンと叩きだした。

 ギョッとしグンゲルンの肩を掴もうとしたヂンペーだが、不意にその動きが止まる。


 船体の外壁が水のように流動したのだ。金属加工の魔法か。

 確かに穴は塞がった。あっと言う間に、いとも簡単に。


「へェ、なるほど?」


 ヂンペーは自らも拳で叩いて音を確かめる。それから機器で測定。真剣に結果を睨む。

 そして溜め息を吐き、渋い顔でグンゲルンを見下ろした。


「オイオイ、塞がっても薄くすんなら直ったなんざ言えねェぞ?」

「ガハハ! そうか済まぬな! じゃが安心せい。魔法の効きを確かめただけよ!」


 豪快に笑うグンゲルン。ヂンペーは目を細め無言で詰めるも何処吹く風。

 両手を広げてドワーフ達へ呼びかける。


「これからが本番よ! 皆の衆、やる事は分かっとるな!」

「おう、すぐこの合金を作ってみせるわい!」

「どれだけでも試作してやろうぞ!」

「待て待て。素材の情報なら教えてやっから! いや、それよりまずは他のモンで試せ! 持ってくっからよォ!」


 ヂンペーは勢いづくドワーフ達を制し、船内へ走った。故障している車両や機材を並べていく。そしてデータを壁に投影。

 次々と出てくる未知の技術に、ドワーフ達は大盛り上がり。ヂンペーに協力するナインとドローンも興味の対象だ。


「うおおおお!」

「いちいちうっせぇなァ……」

「自己紹介?」


 キウリャが薄く笑う。舌打ちを堪える様子のヂンペーがおかしかった。


「なァ、またさっきのやってくれよ勇者サマ」

「もう君の領分だろう? ミスター」


 ズカイナルに断られ、ヂンペーは思いっきり顔を歪めた。面倒臭さを隠そうともしない。


 それからはひたすら試行錯誤だ。データと金属を比べて近いものを探し、調整していく。

 ヂンペーが中心として指揮。ナインも質問へ丁寧に対応し、ドローンも飛び回る。ドワーフ達は汗だくで工房と行ったり来たり。

 キウリャは専門外なので離れた場所で武器の説明をする事になった。構造は把握しており、問題は強過ぎる熱意が苦手な事だけだ。


 が、唐突にヂンペーが苛立ちをぶつけてきた。


「嬢ちゃん、ボサッと見てんなよ」

「は? なにか用?」

「あん?」


 疑問を返せばヂンペーも困惑していた。

 振り返ってキウリャの位置を確認する辺り、なにか勘違いしたらしい。

 改めて隣を見れば、ドワーフの少年がいた。十才くらいなのでヒゲはなくドワーフらしさはない。真剣な顔つきでじーっと車両を見つめている。

 ヂンペーはボリボリと頭をかきながら面倒そうに声をかけた。


「おう、なんだボウズ。気になるか」

「父ちゃんが作るのと、ぜんぜんちがう」

「まァ、そりゃあなァ」

「見てていい?」

「もう見てんだろォが」


 目も口も大きく開けた少年。凍りついた表情は絶望的。

 ショックを与えるつもりはなかったか。流石にヂンペーも声音が柔らかくなる。


「んな顔すんなって。邪魔しねェならそこに居ろ」

「やった!」


 キラキラした瞳にたじたじ。明らかに居心地の悪さを感じるヂンペー。

 今までより更に面倒そうにしつつも手際よく仕事を続けるのだった。

 

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