表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第三章 ホットロックビート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

2 道中で親睦を深めてみよう

 まばらな草木が生えるだけの荒れ地。石をかじる生き物。その中で石畳の街道は綺麗に整えられている。

 王都周辺とはガラリと変わった景色だが、その最たる物は頭上にあった。

 はじめは雲が多い空かと思ったが、白い岩が宙に浮いているのだ。今更驚く事もないかと油断していたが間違いだったらしい。

 キウリャは改めて今までの常識に囚われないよう、胸の内で言い聞かせる。これから向かうドワーフの街でもきっと想定外があるだろう。


 そんなキウリャ達が移動に使っているのは、レッサードラゴン──小型の恐竜めいた生き物が引く車だった。箱形の部屋はシンプルな装飾の四人がけ。予想していた揺れも少なく乗り心地は快適だ。天井にかなり余裕があるのは角を考慮しての事だろうか。ある程度地位ある者が乗る高品質なものらしい。

 キウリャの隣にヂンペー。斜向かいにはナイン。向かい合うのはズカイナル。チッチィはキウリャの傍にいる場合が多いが話に合わせて頻繁に移動していた。

 長距離の道中にはお喋りが定番である。


「レディ。好きな果物はあるかい? 私はノベシーの実が好きでね。故郷の名産なんだ」


 ズカイナルに爽やかな笑みを向けられ、キウリャは窓から視線を戻す。

 正直、朝からこの手の質問ばかりで辟易していた。


 ヂンペーなら適当に流せるが、今後の関係性を考えれば無碍にできない。

 乏しい表情には愛想笑いもないが、嫌悪感もまたない。あくまでいつも通りの、平坦な態度で返す。


「……ここの果物は、まだよく知らないので」

「ああ、その通りだね。でもレディの国のものでも構わないよ」

「……上手く説明できるか」

「すまないね、レディ。会話はお嫌いだったかな?」


 答えに困り、キウリャは沈黙。ズカイナルは眉を下げた困り顔だが少々演技臭い。探られている感覚がして、窓を向いてこっそりと小さく溜め息を吐く。


 一方ズカイナルは綺麗な微笑みを浮かべ、腰につけた袋から紫の小さな木の実を差し出してきた。


「いや、すまないね。意地悪をしてしまった。これがノベシーだよ。お詫びにお一つどうかな」

「……どうも」


 流石に失礼はすまいと受け取る。噛めばぷちりと弾けて、ほんのりとした甘さが広がった。手軽なおやつといった風情。次々口に放り込みたくなる。


「お気に召したかな?」

「この甘さは良いと思う」

「素朴な味わいだろう? ご馳走を食べられるようになってもこの味をたまに欲しくなるんだ」

「分かる気はする」

「だったら故郷に来てくれるかい?」

「……上の許可がおりないのでは」

「うん、だろうね。でも希望を語るのは悪くないだろう?」


 にこやかにウインク。ヂンペーとは違うやり辛さがキウリャを座席の隅に押しつける。

 単なるお喋りではなく探りを入れられている感覚があり、立場的に強く言い返せない。これならヂンペーと向かい合う方がよかったと思う。


 そう思われていたヂンペーは感情の読めないヘラヘラ笑いをチッチィに向けていた。


「ありゃあナンパだよなァ? 英雄色を好むってヤツか」

「い、いえ。ズカイナル様は誰にでも分け隔てなく優しい方です」

「へェ。生粋のタラシってワケかァ」

「そういう意味じゃありません! 失礼な事言わないでくださーい!」

「ははは。ありがとう」


 泣きそうな顔で叫ぶチッチィに、当のズカイナルが微笑む。輝くような美形の対応にはチッチィも赤くなる。

 キウリャは助かったとホッとしただけだが。


 と、そんな和やかな談笑を打ち破るように。

 ナインが淡々と報告した。


「皆様、前方に攻撃的な反応がございます」

「おや。私より早く気付くとは。やはり君達は優秀だね」

「ホントかねェ」


 ズカイナルに疑いの目を向けるヂンペー。どうでもいい嘘を吐く意味は薄いと思うが、確かに察知していてもおかしくはない。

 ただ無視してもいいだろう、とキウリャは本題を促す。


「詳しい情報をくれる?」

「かしこまりました」


 ホログラムモニターが壁に投影された。周辺地図に幾つかの反応。前方、街道の右側に複数の生物がいるようだ。

 キウリャは戦闘準備をしながら、モニターに興味津々な様子のズカイナルに問う。


「……この位置なら襲ってはこない? 無視して良さそう?」

「縄張り争いのようだね。うん、下手に刺激しなければ安全だと思うよ。レディ」


 対応は不要だったようだが警告としては優秀だ。敏感過ぎるという事もない。

 念の為に武器を構えておくキウリャ。ズカイナルも警戒を完全に解いてはいない。


 しばらくして窓の外に現れたのは金属めいた甲殻の巨大なサソリ。激しく争う音はまるで車両同士のクラッシュ。

 キウリャ達が通り過ぎる間もお互いしか眼中になかった。正直相手にしたくない。


「安全を確認しました。現在、危険性はないようでございます」


 ナインの報告に深く安堵したところ、見定めるような鋭い視線が、レーザーライフルに向いていた事に気づく。


「誰でも同じように強者とする武器に興味はあるけどね。またの機会にするよ」

「……そんな機会がないと良いですね」

「ああ、平穏が一番だね」


 食えない笑みの奥には、見透かそうとする冷徹な強さがある。英雄は常に英雄であり続けるらしい。

 その後はまたお喋りを再開したのだが、やはり落ち着かなかった。




「さあ、そろそろ休憩にしよう」


 昼を過ぎた頃、湖の側にある町で一行は止まった。

 狭く居心地の悪い空間から解放されてキウリャは思いっきり体を伸ばす。水を飲むレッサードラゴンは近くで見れば存外に可愛いので優しく撫でてみた。


 案内すると張り切って先導するチッチィ。だが、ズカイナルは先に行ってくれとその場に残る。

 彼は細長いパイプを取り出していた。薄く煙が立ちのぼるそれに、ヂンペーがめざとく反応した。


「お? そいつァタバコか?」

「ミスターはこちらが好みかな? ならば予備があるよ。どうぞ」

「おおっ。あんがとよ。いやァ、マジモンを吸えるなんてなァ」


 健康の為、煙草が完全に規制されて百年以上。かつての歴史はデータ上にしかない。ヂンペーが味わう複合現実の再現度は高いはずだが、本物を知る人間は誰も生きていない。


 ワクワクと少年めいた表情でヂンペーはパイプを咥える。

 だが、吸った途端、ゲホゲホと激しく咳き込んだ。

 キウリャがニヤニヤとした薄い笑みを向ける。


「偽物と違ってキツいんだ?」

「違ェよ、甘過ぎでむせたんだ! なんだこりゃあ?」


 目を剥いて抗議するヂンペー。

 ズカイナルは不思議そうに首を傾げた。


「勿論甘いとも。花の蜜の甘さを楽しむ物だからね。そちらの煙草は違うのかな?」

「翻訳ミスだろォ。全くの別モンだぞ」

「先走るせいでしょ」


 苦い顔をしつつヂンペーは手早く操作。改めて成分の計測を始めた。


「クッソ。先に調べときゃ……」

「日頃の行いの罰じゃない?」

「へいへい、すみませんねェ……まァ、毒性はねェ。んだが、俺好みじゃねェわ」

「おや。残念」

「んじゃ俺の煙草はいるかい?」

「では頂こう」

「どうするつもり?」

「こうするしかねェだろォよ」


 ヂンペーが愛用するのは複合現実での再現タバコ。ズカイナルのようには渡せない。

 そこで彼はゴーグルの設定を変更し、ズカイナルにも使えるようにするようだ。


「そんな事していいワケ?」

「こっちの技術の良さを教えりゃ良い交渉材料になんだろォ?」


 悔しいが一理あると認めざるを得なかった。この星にとって利があるアピールする事は平和的解決に繋がるはずだ。


「コレもずっと気になっていたんだ。いやあ、楽しみだよ」


 そうしてゴーグルをかけたズカイナルは母星の俳優のように似合っていた。

 ヂンペーに使い方を教えられ、実行。途端、目をカッと見開く。が、むせたりはしない。


「成る程。随分と違うね。共通点は煙だけみたいだ」

「お味の方は?」

「悪くないよ」


 お世辞ではないようでそのまましばらく楽しむズカイナル。

 ヂンペーは悔しそうに呟く。


「んだよ。イケメンの醜態ナシかァ」

「性格悪いせいでしょ」

「嬢ちゃんにゃ言われたかねェなァ」


 肘打ちをすれば乾いた悲鳴が聞こえた気がした。


 煙草に満足したのかズカイナルはゴーグルを外し、そしてニコニコと言う。


「仲が良くて羨ましいね」

「は?」


 キウリャは反射的に睨んだ。ヂンペー相手にするような氷の視線。爽やかな笑みは崩れないまま。

 だがチッチィは慌てた耳元にまで飛んできて声を張った。


「はわわわっ……キウリャさん! ズカイナル様に失礼ですよ!」

「構わないよ。距離が縮まるのは喜ばしい事さ」


 あくまで友好的で気持ちの良い笑顔で彼は答えた。

 大人の対応にキウリャは反省し、歩み寄る。


「……どうも」


 もしかしたら探りを入れる思惑はなく、単に興味があるだけなのではないか。

 キウリャはほんの少し警戒心を和らげるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ