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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第二章 アンダーポップスハミング

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3 ルールを守ったダンジョン探索

 丘を照らす朝日が白く輝いている。夜を追い出す眩しさは目が痛くなる程だった。


 酒場での一幕の翌日。普段より早く朝の支度を終えた後。

 フィアーピッカー号の前にキウリャとヂンペーは立っており、腕を組んだチッチィにぷりぷりと叱られている。


「昨日は私まで怒られたんですよ! もうあんな騒ぎは起こさないでください!」

「だってよ。嬢ちゃん」

「オジサンも悪かったでしょ」

「二人とも反省してください!」

「うん」

「へいへい」


 必死な剣幕のお説教に、気の抜けた返事が揃う。妙なところでは息が合った。それが気に食わなくてキウリャは隣のやや上を睨んだ。


 諦めたように溜め息を吐くチッチィ。

 首をぶんぶんと振って無理矢理意識を切り替え、真面目に告げる。


「今日はダンジョンに潜ってもらいます」

「ダンジョンんん?」

「あ,お二人には説明が必要ですよね」


 今までの仕事とは毛色の違う内容。

 聞き馴染みはないが、予想はできる。


「いやまァ、地下迷宮だとかそんなもんだろ?」

「あ、知ってますか? でも、その中でも特別な場所なんですよ。危険なんですけどお二人にピッタリのダンジョンです」

「俺達にピッタリィ?」


 怪訝な顔で聞き返したヂンペーに、チッチィは深刻な顔で告げる。


「はい。魔力が封じられるダンジョンなんです」





 目的のダンジョンは王都からほど近くにあり、王家が管理しているらしい。

 付近には小さな村があった。管理する者と、たまに訪れる挑戦者が準備、滞在する宿。最低限必要なものだけがある村だ。

 人通りは少なく物寂しい。城下町とは大違いだが母星での田舎らしさも感じられた。

 キウリャ達はここで食事と休息を挟んだ後に、探索へ挑む。


 目の当たりにしたダンジョンには風格が備わっていた。

 古い石造りの遺跡だ。壁はなく、規則的に並んだ柱が屋根を支える構造。至る所には緻密な彫刻。中央には地下への階段。地上に見える部分は一部で地下深くに広がっているらしい。

 手入れされているからか劣化は少ないように見える。この星の考古学的に貴重な資料か。明るくない分野だが相当に価値があると確信できる。


「今までの挑戦者の報告によるとこのダンジョンでは魔法が一切使えないみたいなんです。どうも魔力が吸収されてしまうそうで。それで誰も踏破した人がいないんです。ある程度進めた分の報告はありますけど、危険な生物はいない代わりに罠が多いそうです」

「だから俺達って訳ねェ」

「任せて」


 この星の戦闘では魔法が用いられるのが常識。専門の魔法使いだけでなく、武器をもって戦う者もなんらかの形で魔力を使っているらしい。であればこのダンジョンでまともな探索は不可能だ。

 しかし二人なら逆に魔力に頼らない探索しかできない。

 だから抜擢自体は納得なのだが、国としてはなにがなんでも攻略してほしい事情があるのだろうか。裏を考えたくなるが、やはり断れなかった。


 なので全力を尽くす事とする。

 キウリャはいつも通りの戦闘装備、数種類の銃器を待ち込んでいる。しかしヂンペーは背中に重装備を整えていた。遺跡の探索と聞いて用意してきたものだ。

 早速機材の一つを起動させる。

 超音波を照射して測定、内部構造をモニター上で明らかにするものだ。初手から無法だと思わないこともないが、無駄に苦労しなくてもいいだろう。


「おォ。使える使える」


 ゴーグルに表示されているはずの測定結果を見ながら、ズカズカと階段を降りていくヂンペー。遺跡への敬意はまるでない。

 キウリャも続こうとしたが、チッチィがおずおずと手を挙げる。


「すみません、魔法が使えなくなるので私、飛べなくなるんですよ」

「どうする? 外で待つ?」

「見てなきゃいけないので運んでもらえると助かります」


 申し訳なさそうに縮こまるチッチィ。

 キウリャは少し迷った後、胸ポケットを広げて示す。


「ここで良い?」

「はい、大丈夫です」

「あ、羽が当たる?」

「これは実体化した魔力の塊なので大丈夫ですよ。それではお邪魔しますね!」


 スッポリとポケットに収まった。両手で縁を掴み、布団を被っているよう。可愛らしくて微笑ましい。

 首を真上に向ける彼女と目が合う。照れたように笑う。二人は物理的な距離の近さに温かさを感じた。

 振り返ったヂンペーがニヤニヤとはやし立ててくる。


「仲がよろしくて羨ましいねェ」

「ヘラヘラした目で見ないで」

「辛辣ゥ」


 いつも通りのやりとりをしつつヂンペーの後に続く。

 長い階段を降りていけば反響する音が不気味な雰囲気をかき立てた。すぐ外光は届かなくなり、ドローンのライトが周囲を照らす。緊張感からキウリャはレーザーライフルを強く握り締めていた。


 階段が終わると、闇へと続く通路が真っ直ぐ伸びていた。


「早速罠だな」


 ヂンペーの声が唐突に警戒を帯びた。戸惑う程に真剣な声音がキウリャの意識を自然と切り替えさせる。


「そこの足元がスイッチになってんなァ。踏むと壁が左右から迫り出して挟まれるぞ」


 キウリャは平然と受け止め、チッチィは青ざめる。


「ひええ……」

「ならちゃんとマークしといて」

「へいへい。しっかし凄ェ技術だ。不思議パワーだけじゃなく機械的な方も発達してんだなァ。動力は謎だが」

「吸収した魔力じゃないですか?」

「あァ、やっぱし不思議パワー? ムダがなくて素晴らしいねェ」


 視界に重なるホログラムモニターに赤い光でスイッチとなる場所が表示された。そこを避け慎重に歩を進める。

 そしてたまに曲がり角があるだけの一本道に、罠が次々と見つかっていく。


「今度は天井が落ちてくんなァ」

「次は落とし穴だぞォ」

「ギロチンみてェなデカい刃物だ。怖ェ怖ェ」

「また壁か。微妙な違いだけとかネタ切れかよ」


 次々と罠を回避。チッチィはずっとゾッとした顔、キウリャは涼しい顔で、ヂンペーはヘラヘラと。軽口を叩く余裕も出てきた。

 至って順調。硬質な足音は軽快。暗闇の恐怖もすっかり弱まった。


 そして最深部。道の終わりに辿り着く。

 行き止まりの壁が塞いでいた。

 ライトを辺りに向けるも、扉や階段など進めそうな場所は見つからない。


「ここまでは辿り着けた方も多いんですが、どうしたって開かないみたいなんです」

「ほォ」


 不敵に笑ったヂンペーが機材をいじる。鋭い目付きで集中していると普段のふざけた姿が嘘のようだ。

 キウリャはじっと待機するしかない。なのでポケットのチッチィと相談、しようとしたところ、不意にヂンペーが呟く。


「あァ。罠が鍵なんだなこりゃ」


 アッサリと答えを提示。


「こりゃ凄ェぞ。全部の罠を作動させりゃ開くようにできてらァ」

「そう。なら戻る」

「待て待て。ギロチンやら落とし穴やら全部作動したら道が塞がれんぞ」

「……じゃあどうするの」


 一転、沈黙。闇から冷気が生まれた気がした。

 頭をボリボリかきながらヂンペーは呟く。


「爆破していいか? 石材を溶かすって手もあんぞ」

「どっちもダメですよっ!」

「……まァ、下手すりゃ生き埋めだしな。んじゃ実地調査してみるかねェ」



 とりあえず一つ前の罠へ。

 罠が作動するスイッチは分かりやすくマークしてあるので躊躇いなく走った。チッチィは怖がったが無駄に慎重になる必要もない。


 だが、今度はわざと踏んで作動しなければならない。

 キウリャはスイッチの手前で逡巡する。


「……本当に安全?」

「おォ、そこは安全地帯だ。信じてくれよォ。悲しいぜ」


 じとっと不信感丸出しの目で見つめる。見つめ続ける。


「ったく。わァったよ。俺が自分でいきゃいいんだろ」


 ヂンペーが折れたので自らスイッチを踏んだ。

 するとゴゴゴと遺跡が震え、数秒後に一メートル程先から壁が動いた。

 右から迫り、通路が塞がれる。


「ほらな」


 確かに言う通り。踏んだ後も歩き続けていれば直撃しただろうが、スイッチの場所は安全地帯だ。


「元に戻せる?」

「おォ。ここだな」


 ヂンペーは最初のスイッチとは違う場所を踏んだ。

 再び壁が動き、横の壁に引っ込む。綺麗な遺跡の壁だ。見た目だけでは判別できない。


 続けて他の罠も作動させて確かめる。種類は違えど全て同じように正確な動きだった。糸口になりそうな情報ではあっても、先に繋がらない。

 ドローンで荷物を置こうとしたが全てを作動させるには数が足りない。スイッチを銃弾で撃っても作動しなかった。

 最初より狭く感じる通路の中心で、三人で唸りながら悩む。


「……タイムラグがあんだよな。嬢ちゃん、ひとっ走りすりゃいけねェか」

「じゃあ計算して」

「……時速七十キロってトコか。頑張りゃいけんだろ」

「殴っていい?」

「おお怖っ」

「なら真面目にやって」

「つうか車両……バイクならいけそうだがなァ」

「壊れてるでしょ」

「だから愚痴だろォ。ただの」

「こんな時まで揉めないでくださいよー! ほら、協力しましょ?」

「妖精チャンは偉いねェ。何もしてねェ嬢ちゃんとは大違いだ」

「は?」


 刺すような視線もヂンペーは飄々と受け流す。あえて普段の流れを意識して落ち着こうとしているようでもあった。


 そうして最後、一番最初の罠にまで戻ってきた。

 期待はせず諦めムードでスイッチを踏めば両側から壁が迫り、通路を塞ぐ。ただし。


「……隙間あるんだけど」

「今までもそうだったろォ? 気付いてなかったんかよ」

「報告すべきでしょ」

「傷跡がねェんだから言うまでもねェだろォ。保護と隠蔽(いんぺい)の為の遊びじゃねェの」


 今までのように端までいかず、中央で閉じる形だから分かりやすかった。

 いちいち(しゃく)に障る言い方には手を出したくなる。が、キウリャはぐっと堪えた。

 そうして閃きを口にする。


「……チッチィなら通れるんじゃないの?」


 一瞬の空白。

 そして当の彼女がキウリャのポケットから身を乗り出して叫んだ。


「わっ、私ですかあ!?」


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