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飛べない鳥のセッション 〜宇宙船がファンタジーな惑星に落ちたので帰還できるまで冒険します〜  作者: 右中桂示
第二章 アンダーポップスハミング

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2 噂の新人が馴染むまで

 この惑星に到着してから十日程。

 キウリャとヂンペーはファンタジーの一員として過ごしていた。

 宇宙船内の自由や所有権は保証されているとはいえ、半壊のまま国の管理下。修理はほぼ不可能に思える状態。船長達とも会えていない。

 絶望的な状況。それでも表面上は余裕に見せていた。


 あちらとの窓口となった妖精のチッチィから仕事を仲介され、着実にこなす日々。

 疑問はあれど立場的に断れなかった。衣食住は確保されているので生活には困っていないが満足とは言い難い。少なくとも合流を許されるまでは、この便利屋扱いを受け入れるしかないのだろう。

 魔獣の討伐。害獣の狩猟。保護生物密猟者の捕縛。危険地域での採集。様々な仕事を場違いな装備でこなしてきた。

 今も商人を護衛し、野盗を撃退した帰り道。


 報告を終え、城下町を三人で進んでいた。


「うおっ。アレも魔法か? 技術的に同じ事ができるってもやっぱロマンがあんなァ」

「案外子供っぽい事言うんだ」

「興味なさそうにしてっと逆におこちゃまみてェだぞ?」

「たかがオジサンの感想でしょ」

「はーあ。俺達ゃ星の代表だぜ。愛想良くしねェと人格を疑われちまうだろォ?」

「ヘラヘラしてる方が問題でしょ」

「妖精チャンにも愛想つかされるかもよォ?」

「……オジサンだけだから大丈夫」


 道端の大道芸をきっかけとして言葉の応酬が繰り広げられた。

 並ぶと身長差のある二人。目線は合わない。合わせる気がない。

 だから道から自然と人が避けていく。


「明日は楽なのが良いねェ。ゴミ拾いとかさァ」

「なにそれ。ある訳ないでしょ」

「希望を持つのァ悪くないだろ?」

「ほぼ見てるだけのクセに」

「オレの仕事は後だろ。武装は整備しなきゃマトモに戦えねェぞ。感謝してくれよォ」

「それはお互い様」

「確かに。んじゃさんきゅー。ほれそっちの番な」

「……は?」


 凍てつくような視線。にやにやと迎えるヂンペー。

 この空気にいたたまれなくなったのが、一人。


「もー! 揉めないで下さいよー!」


 元気に割り込んだチッチィ。小さな体で物理的に空気を晴らしてくれる。

 案内役兼監視役としてこの頃はほとんど一緒にいた。

 しかし実態はツッコミ兼癒し枠に近い。乗組員の代わりの一時的な仲間として馴染んでいる。


「仲間なんでしょう? 仲良くした方が良いですよ!」

「同意するけどオジサンが悪い」

「酷ェ。まァ反抗期だから仕方ねェわな」

「そういうところでしょ」


 言い合いは止まらない。つい悪態が湧いてくる。

 それでもオロオロするチッチィに悪いのでキウリャが矛を収めて終わるのが普段のパターンだった。



 そうして目的地に到着。

 宿屋兼酒場の「欠けた車輪亭」。いかにもなファンタジーの雰囲気。カウンターとテーブルに客が大勢賑わう。一番多い角が生えた人種も、エルフやドワーフも見慣れたもの。チッチィ以外の妖精も珍しくない。料理の匂いと明るい喧騒が人気店の証しだ。

 はじめは場違いな空気に戸惑っていた二人だが、今では堂々と馴染んでいる。


「まともなメシが食えるのァ有り難いねェ。ほれ、機嫌直せ」

「押しつけがましい」


 席を確保しおすすめを注文。

 すぐ若い給仕によって運ばれてきた。

 黒パン。豆と根菜のスープ。肉の串焼き。シンプルながら味は良く満足感のある品々だ。培養ではない天然の食材という特別感は薄れ、既に日常的な親しんだ味となっている。

 周囲の音声が騒がしく、五感が忙しい食卓。船での食事とは大違い。

 キウリャはこの一時が嫌いではなかった。ヂンペーが絡んでこなければもっと好み。サイズの合う食器を前にしたチッチィがいればそれで良かった。

 それでもつい反応してしまう。


「へェ。羽猪の肉だってよ。持ち帰りてェな。酒に合う」

「酔っ払っても面倒見ないから」

「おこちゃまじゃねェんだ。自分のキャパぐらいわきまえてんよォ」

「どうだか」


 アルコールも母星では厳しく規制されており、飲める機会はわずか。ヂンペーも慣れていないはずだがガバガバ飲んでいる。きっとその内何かしでかすだろうと確信している。

 もし酔い潰れたら放置して帰ると決めた。


「おうおうおう! なんだ、都っても大した事ねえな!」


 と、不満はあれど楽しんでいた夕食を台無しにするように、唐突なダミ声が酒場に響いた。不快感を煽る非常に悪質な態度だ。


「へえ。なんだよオマエら。見ねえ格好だ。それがここの流行りか?」


 その彼がキウリャ達に話しかけてきた。立派な装備を身に着けた厳つい男性。ドクロの入れ墨が特徴的だ。

 珍しい二人に興味を持ち話しかけてくる事は今までもあったが、ヂンペーの馴れ馴れしさもあってか話が弾んで顔馴染みになっていた。


 ただ今回は、あまりにも相手の態度が悪い。チッチィが怯えているし、キウリャは警戒を強めていた。


「知ってる?」

「あの見た目は話に聞いた覚えがあります。遠くの街で問題を起こした人物です」


 悪名響く厄介者。周りの客も迷惑そう。

 本人はそんな事をまるで気にせず堂々と振る舞っている。


「あん? なにコソコソ話してんだ?」

「はい、どーもー」


 ヂンペーがひらひらと手を振る。この手のあしらいは得意分野だろう。

 彼に任せてキウリャは無視して食事を続けた。

 が、それが癪に障ったか。完全に目をつけられる。


「おっさんはいいが、そっちは随分失礼だな。ええ? そんだけ美人なんだ。ちょっと一緒に飲もうぜ」


 手がキウリャの顔に伸びてくる。頬を撫でようとしているのか。

 だからその先に、食事に使われていた串を突き出していた。刺さる寸前で手が止まる。その程度の反射神経はあるようだ。


「お断り」

「……いい度胸だな」

「堂々とチンピラ仕草できるそっちに比べれば負ける」


 空気がひりつく。互いに嫌悪感を隠さない、一触即発。

 その横でヂンペーがチッチィにささやく。


「妖精チャン、法律どーなってる? 反撃したら喧嘩両成敗かァ?」

「暴力はいけませんよっ。そりゃあ、正当な理由による鎮圧ならお咎めなしですけど……」

「オーケー。ならこりゃ正当防衛だなァ。嬢ちゃん、やっちまいな」

「指示しないで」


 二人はまるで恐れず、むしろ見下している。

 遂に堪え切れなくなったチンピラが、拳を大きく振りかぶった。


「っこんの女が!」

「……へえ。それが度胸ない人の態度なんだ」


 キウリャも拳を構え、カウンターを叩き込もうと集中した。

 そして豪快に拳が振るわれる。


 直前、甲高い破裂音が鳴った。

 チンピラがビクッと反応し、硬直。

 ヂンペーが端末から鳴らした音だった。指を指しながらケラケラ笑う。


「よォ、そんなナリしといてビビリなんだなァ? 不審者」

「テッメ……!」


 今度こそチンピラは激昂。どすの利いた声とともに剣を抜いた。ギラリと光る凶器が酒場をパニックに染める。

 キウリャはヂンペーの方に苦言を呈した。


「挑発しないで。面倒」

「嬢ちゃんに言われたかねェな」

「だから! 暴力はダメですってばあ!」


 チッチィが泣きそうな顔で声を張り上げ、そして光が周囲に溢れた。


 キウリャとヂンペー、チンピラもふわっと浮かぶ。他の客の頭程の高さを強制的に漂う。浮遊させる魔法か。

 ジタバタと憤怒の表情でもがくチンピラは滑稽な有り様。


 一方、キウリャとヂンペーは体を丸めて悠々と浮かんでいた。


「無重力訓練を思い出すなァ」

「まさかここで役に立つなんて」


 体勢を整え姿勢を維持。

 他者の奮闘をよそに、手を伸ばして途中だった食事すら再開。強引ながら器用に掴んで味わう。


「え、お二人ともなんでそんなに動けるんです?」

「だからこういうの慣れてんだよォ」

「説明は長くなるから気になるなら今度また」


 もう脅威ではないと完全に気を抜いている。


「てめえらふざけんじゃねえ!」


 一方、チンピラは当然激怒。剣をメチャクチャに振り回しだした。スカスカと空を切るばかりだが、やはり危ない。


「先に片付けないと」

「手ェいるか」

「不本意だけど」


 キウリャはテーブルの端を掴んだヂンペーの手を取った。そこが軸だ。

 体をひねり、対面。

 まずブーツで剣の腹を弾く。体重の乗らない振り回しは容易く明後日の方向へ。

 なす術なく慣性のままに回転し背中を向けるチンピラ。


 キウリャは自分の足で相手の足を挟み、背を反らした。ぐるりと旋回。体格が大幅に上回る相手を軽々と振り回す。

 そして体幹だけで勢いをつけ、豪快に投げ飛ばした。

 宙を一直線に飛ぶ大男。酒場の入口へ吸い込まれていった彼は、扉をこじ開けて店外へ。騒々しい音を立てて転がった。


「ナァイスゴール」

「うん。スッキリした」


 ぱちぱちと拍手するヂンペー。キウリャはわずかに笑う。

 次いで歓声。派手な一幕に酒場は大盛り上がりだ。

 客達に囲まれ、今日は奢りだと揉みくちゃにされかけるのをなんとか回避しようとする。ただ流石に数が多く無駄な努力か。


 チッチィだけはぽかんと輪の外。泣きそうな顔で熱狂へと抗議する。


「だから大人しくしててくださいよお!!」


 残念ながら、その叫びは呑み込まれて誰の耳にも届かなかった。

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