表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/43

第35話 いくじなしの自称・名助手 ④

 とりあえず、服を着なければならない。

 だけど、すでに服は燃やしてしまった。

 ふと、思い出したのは昔見た、お笑い番組。


 とりあえずそこら辺の葉っぱで大事な部分を隠すことにした。


 しかし、男はこれでいいけど、目の前の少女はそうはいかない。


 何かないかとグルリと周囲を見渡すと、黒い塊を見つけた。

 うまく燃やせなくて、残していた黒い雨合羽(あまがっぱ)



「これでも着てください」

「いい、の?」

「目のやり場に困ります」

「かぜ、ひく、よ?」

「どうせ、これから死のうとしている人間ですから」



 少女は「そう?」と言った後、服を広げて小首を傾げた。



「しらない、ふく」

「雨合羽ですよ。レインコート」

「うーん、どう、きる?」

「見ての通りですよ」

「きさ、せて」

「なんでそうなるんですか!?」



 なぜ、こんなにも無防備なのだろうか。

 なんとなくだけど、人懐っこいとか警戒心がないのではなく、圧倒的な自信にあふれている気がする。



「被るんですよ。わかりづらいですが、フード付きのコートと一緒です」

「ぼたん、おか、しい」

「それは普通のボタンじゃなくて、スナップボタンです。はめ込むんですよ」

「おー」



 なんなんだ、この人。なんでそんな当たり前のことで驚いてるんだよ。



「ごわごわ、だ」

「着心地が悪るいですか?」

「わるく、ない」

「それは上々ですね」



 少女は雨合羽に鼻を近づけて、スンスンと嗅ぎ始めた。



「しらない、ぬの。にお、い」

「布じゃないですよ。ビニールです」

「びにー、る……?」



 なんでそんなことも知らないんだ。

 いくらかわいいと言っても、世間を知らなすぎる。



「ああ、そう、か」



 何に気付いたんだ?

 オレは次の言葉をはっきりと聞くために、耳を澄ませた。



「きちゃった、かー」

「生理ですか?」



 あ、ミスった……。

 すごい目で見られている。嫌われた?


 すごい顔をされたけど、スルーされてオレは胸をなでおろした。

 


「ここ、いせか、い」

「異世界?」

「わたし、いた、せかい、と、ちが、う」

「…………ふざけてるんですか?」



 思わず低い声で言うと、少女は歪な微笑みを浮かべた。

 どこか恐怖しているような、寂しそうな、少しナイーブに見えた。



「そうだ、よね」



 彼女が息を吸うと、異変が起きた。

 異様な寒気に、体が震える。


 突然気温が下がったようには思えない。



「みせ、る」



 次の瞬間、地面が数か所、盛り上がり始めた。

 もぐら?

 それとも、地面の下で何かが起きているのだろうか。


 その正体は、すぐに姿を現した。



「……なっ」



 衝撃のあまり、腰を抜かしてしまった。



 地面から這い出てきたのは、骨だった。

 人間の骨。


 皮も肉も、筋肉さえもついていないのに、骨だけで動いている。

 しかも、1体だけではなく、5体はいるだろうか。


 スケルトンの群れだ。


 理解できた。できてしまった。

 明らかに、魔法だ。

 死者の蘇生。

 ネクロマンスだ。


 異世界。

 その言葉の意味が、実感を持って脳に染み込んでくる。


 オレは、体が震えるのを抑えられなくなった。



「わかっ、た?」



 少女は、わずかに寂しそうな顔をしていた気がする。

 だけど、そんなことはどうでもいい。



「…………かっこいい」



 きっと、オレの目は別人のように輝いていただろう。

 それほどまでに、ときめいていた。

 少女の姿にも魅了されたけど、それ以上の衝撃があった。


 死者を操るネクロマンス。

 生者への冒涜。


 しばらく忘れていた中二心をガツンと叩かれた気分だった。



「え?」

「めっちゃクールじゃないですかっ!」



 興奮のあまり手を掴むと、少女は困惑の表情を浮かべていた。



「こわく、ない、の?」

「え? どこがですか? 不気味ではありますけど……」



 なぜか、今度は少女の顔が驚愕に染まっている。



「ほん、とう、に?」

「もちろんですよ」

「……へへへ。しんじゃい、そう」



 さらに今度は、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 意外と表情豊かだ。見ていて飽きない。



「いや、死のうとしていた人が言うと、洒落にならないんですけど」

「たし、かに」



 そんなことを言っていると、ふと頭の中に、あるアイディアが湧いてきた。



「すみません、これも何かの縁です。ひとつお願いを聞いてくれませんか?」

「おね、がい?」

「オレの父親を捜すのを手伝ってください。行方不明なんです」



 お母さんを生き返らせてほしい、とは考えられなかった。

 緩和治療をしても、苦しみ続ける姿をずっと見てきたから、今さら蘇ってほしいとはどうしても思えない。

 逆に、苦しみを継続させてしまうことになるかもしれないから。

 

 だから、母親を捨てたお父さんを見つけてほしいとお願いした。

 母親のことを伝えないと気が済まない。思いっきりぶん殴ってやりたい。

 そして、悔しいことに、お母さんが彼に遺した言葉を伝えないといけない。


 彼女の力があれば、簡単に叶うはずだ。



「うん。いい、よ」

「本当ですか!? でも、何か大きな対価とか――」

「いらない、よ? わかる、から」

「何がですか?」

「かぞく、いなくなる、さびし、さ」



 そうか。



「あなたも誰かをなくしたんですか」

「おと、うと、ゆくえ、ふめい」

「弟さんですか。」

「みつから、ない。だから、しのう、って」

「…………」



 俯いていて、少女の顔は見えなかった。

 だけど、なんとなく想像できてしまう。


 さっきまではスケルトンを呼び出したりしていたのに、今目の前にいるのは、特別な容姿をしているだけの少女にしか見えない。


 だから、オレは――



「異世界に変える方法はあるんですか? 弟さんを見つけるためにも」

「わから、ない。でも、ここに、いる、かも」

「じゃあ、この世界での生活を手伝いますよ。社会のルールを叩きこんであげます」



 さっきまで自殺しようと考えていたのに、なんでこんな前向きなことを口走っているのだろうか。

 もう立ち直ったのか? オレ?

 いあ、違う。

 今も心のどこかで死にたいと思っている。

 だけど、この少女との時間が終わってからでもいいじゃないか。


 少しでも苦しみを分かち合えるこの少女を、助けてからの方が気持ちよく死ねるじゃないか。


 そう感じてしまっている。



「ちょっと、て」

「手、ですか?」

「ち、つながって、る、から。たどる、のに」

「……ぁ」



 少女がオレの手を握った瞬間、思考が真っ白になった。

 フラッシュバックしたのは、お母さんの最期の一言。


――ごめんね。あなたは私の本当の子供じゃないの。



「もしかしたら、血はつながっていないかもしれません」

「そう、なの?」



 少女は不思議そうに、ある方向を指さした。

 


「うーん、でも、ちかく、いる」

「…………え?」

「ちかく、で、しんでる、みたい」



 つまり、ここの近くにオレの近縁の死体がある。


 ここは自殺の名所だ。

 同じ場所で死のうとしていた?


 変なところで血のつながりを感じてしまい、オレは苦笑いを浮かべるしかなかった。



 そして、この後、父親と再会することになって――

昨日は更新できず、申し訳ございませんでした!


少しでも面白かったら、☆評価やブクマを頂けるとうれしいです! リアクションも感謝です!(´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ