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第34話 いくじなしの自称・名助手 ③

 目の前に突然現れた、銀髪の美少女。

 長く伸ばした髪は艶やかに輝き、肌は青白く透き通っている。しかも、一糸まとわぬ姿だ。

 周囲の靄と、うっすらとした月明かりが演出しているせいだろうか。


 息を呑むのも忘れていた。


 妖艶とは少し違う。

 よだれなんて一滴たりとも出てこない。


 だけど、オレの目は釘付けになっていた。


 こんな体型の女の子に、魅了されるなんて想像すらしたことはなかった。

 小さい頃ずっと、ちゃんとメリハリのある体の女性が好みだった。

 スポーティーとか、グラマラスとか、明らかに健康優良な体ばかりを見ていた。



 だけど、なぜだ。



 今までの自分は嘘をついていたのだろうか。

 目が腐っていたのだろうか。

 ついつい、そう思わずにはいられない。

 

 目の前の少女は、ほとんど骨と皮しかないように見える。

 子供だ。

 不安定だ。

 虚弱だ。

 貧相だ。


 だからこそなのか、その危うさが、心の中にある得体のしれない領域に触れた。触れてしまった。


 もう頭から離れない。

 一生、目が離せない。

 

 いや、離れないどころの話じゃない。


 焼き付いていく。作り変えられていく。


 今までの目玉や脳は偽物だった。

 そう言われても、今なら信じてしまうだろう。



「きみ、だれ?」



 声を掛けられて、ハッとした。

 かなり怪訝な顔をされている。なんとか取り繕わないと。



「いや、オレのセリフなんだが」



 しばらく、無言の時間が続いた。

 何か話さないと。必死に頭を回していく。

 さっきまで死ぬことばかり考えていたのに、今は女の子に掛ける言葉を考えているのだから、自分が少しバカバカしく思えてしまう。


 先に口を開いたのは、少女だった。



「……ここ、どこ?」



 たどたどしい話し方だ。

 見た目からして純粋な日本人ではないのだから、日本語に不慣れなのかもしれない。


 いや、問題はそこではない。

 声がかわいい、とか考えている場合ではない。

 質問の意図がよく理解できない。



「いや、なんで場所を聞くんですか?」

「ここ、しらな、い」

「そんなわけないでしょ。どうやってきたんですか」

「わかん、ない。いつの、まにか」

「……迷子ってやつですか?」



 いつの間にか、ここにいた。

 にわかには信じがたいが、信じるに足る状況ではない。

 なにせ、突然少女が現れる姿を目撃したのだから。


 靄に隠れて存在に気付かなかったわけではない。

 まるで瞬間移動のように現れていた。


 ……改めて考えても、理解不能。

 どうせわけがわかんないし、一旦棚に上げておこう。



「まいご、かぁ」

「違うんですか?」

「うーん、どうだ、ろ?」



 なんだか気の抜ける返しに、崩れ落ちそうになった。

 いや、彼女も混乱しているだけなのかもしれない。


 ここは一旦落ち着かせるべきだ。



「これも何かの縁ですし、とりあえずお茶でも飲みますか? 最期の一杯用のがまだ残っていたはず」

「さい、ご?」



 しまった。

 だけど、もう言ってしまったのは仕方がない。もう後の祭りだ。



「まあ、色々あって、」



 なんで、すんなり『自殺しようとしていた』なんて言えたのだろうか。

 少しでも嫌われたくないなら、絶対に言わない方がよかった。

 自分のことながら、不思議に思う。


 ……いや、そうか。

 もう会わない人だからだ。

 その場で出会った人だから。


 責任とか人間関係とか、全くつながりのない人だから、簡単に話せてしまうのか。

 


「じゃあ、いっしょ、だ」

「え?」

「いっしょ」

「あなたも死のうとしていたんですか?」

「うん」



 まるで「今日遊びに行かない?」と問われた時のような「うん」だった。

 当たり前のように、自然と、頷いていた。


 え?

 こんなにかわいい少女が死のうとしたの?

 

 なんで?

 おかしくない?

 理不尽じゃない?

 バグじゃない?


 色んな疑問や不満が心の中で渦巻いていき――そして、一気に爆発した。

 


「なんでですか!? そんなかわいいのに、もったいないっ!」



 気付いた時には、オレは少女の肩を掴み、叫んでいた。

 彼女は驚いたように目を見開いている。

 だけど、そのサファイアの瞳に映っているのは、オレの顔じゃなかった。

 もっと下の方。



「とりあえ、ず、ふく」



 少女の視線に合わせて下を向くと、そこには肌色が広がっていた。

 うわ、彼女の肌と比べるとオレの肌、汚すぎるだろ。

 って、そうじゃないっ!!!



「…………ぁ」



 目の前の少女も全裸なのだけど、自分も全裸なのを忘れていた。

 至近距離で見られている。

 大事な部分もモロ見えになっているんだけど。もうブランブラン。振り子のように揺れている。

 ああ、まるでオレの今の心を表しているみたいだなぁ。


 うん、現実逃避はやめよう。



「きゃ…………っ」

「きゃ?」

「きゃあああああああああああああああ!!!」



 オレは恥ずかしさの余り、乙女のような悲鳴を上げてしまったのだった。

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