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裏工作

 宿屋へ戻った後、雪乃を残して王様に会いにいった。以前、ぶち破って窓を器用に開けて中に入り、王様に声を掛けた。


「おい、起きろ。頼みがある」


 驚かさないように優しく声を掛けたのに、悲鳴をあげて飛び起きた。逆にこちらが驚いたので軽く王様の後頭部を叩いてやった。


「な、何事でしょうか。ちゃんと約束は守っているはずですが」


 こいつ、よく見ると若いな。つい関係のないことを思ってしまった。


「違う、違う。今回は頼みがあってきた。王様の暗部に依頼したいんだよ」


 王様は安心したように深く息を吐いた後、依頼の内容を聞いてきた。


「今、カジノなどを取り仕切っているカネガー一家を潰してきたんだけどさ。ちょっと何人かに逃げられたんだよな。そいつらを始末するのもめんどくせぇから代わりに始末して欲しいんだよ」


 王様が壁の方を見てうなずくと、片膝をついた黒ずくめの男が現れた。


「お前達、頼めるか」

「はい、お任せください」

「あ、そうだ。カジノや娼館は俺の仲間が押さえたから間違って手を出すなよ」

「だそうだ。大丈夫か」

「はい、お任せを」


 黒ずくめの男はそう言って姿を消した。


「ありがとな、王様」

「いえ、こちらこそ街に巣食う巨悪を排除してもらい感謝してます。それに奴隷商の方もノワール様ですよね」

「ああ。けど、もう少し奴隷の扱いをよくしろよな。王様なんだから民の幸せにも少しは気を配れ」

「これは耳が痛い。ノワール様の要望を叶えたいのですが、こればっかりは貴族達のしがらみで中々手がだせません」


 だろうな。貴族の利権には手を出しづらいよな。


「まあ、そっちはできる範囲でいいさ。で、だ。ここからが本題だ。スラム街に巣食う悪党どもを駆逐して再開発するから協力しろ。なぁに、王様は俺の商会に許可と委任してくれるだけでいい。どうだ、綺麗な街にしてやるから協力しろ」

「スラム街の住民はどのようになさるおつもりですか」

「おう、いい質問だ。大事なところを端折っちまったな。一番の目的は子供達の保護だ。子供達にはきちんとした寝床と食事。そして読み書きなどを教えてちゃんと大人になった時に働けるようにするのが目的だ。で、大人は働けるのに働かない馬鹿は論外だが、働きたい奴は再開発とかで雇ってやるつもりだ。もちろん、真面目な住人には住むところも用意するから安心してくれ。でな、王様。街が糞尿まみれだと流行病の原因になる。この国だって過去にはそうした病気で大勢死んだだろ。流行病に王族だ、貴族だ、平民だなんて関係ないぞ。少しは過去に学んで対策しろ。スラム街は俺が綺麗にしてやるから、他のところは王様がやってくれ。だいたい臭えんだよ、ここ。こんな汚ねえ都が王都で恥ずかしくないのかよ。俺が王様だったら恥ずかしくて死んでるぞ、まじでさぁ。だから、協力してやるから少しは民の為に働こうぜ。な、王様」


 王様の肩に手を置いて、笑顔をみせた。


「わかりました。少しずつにはなるかもしれませんがやってみます」

「ああ、それでいい」

「私から連絡する際はどうすれば」

「この宿に、この名で泊まってる」


 小さな紙を王様に手渡した。


「よし、では王様。俺は裏を掃除するから、表は王様な。じゃあ、よろしくな」


 俺は王様の返事も聞かずに転移した。




「ねえ、遅いんだけど。お風呂に入ってるうちに帰ってくるって言ったよね」


 部屋に戻るなり、俺は雪乃に詰められる。


「ごめん。心配掛けてごめんな」


 雪乃を抱き寄せてキスをした。


「もう、ごまかされるのも今日だけだよ。早くお風呂に入ってきて。臭いとベッドに入れないからね」


 女神様にはお見通し、だよな。

 雪乃の薄い布地の服に少し目を奪われながら、俺はお風呂場に向かった。


「服が透けて見える魔法ってないかな。あれば最高なのに、魔法も案外使えねぇな」



 ◇


 次の日。屋敷の執務室に行ってアリステラの執事をしていたスコットさんに商会の代表をお願いした。


「計画通り、商会でカジノ、娼館の管理、運営もしてもらう。それとスラム街の再開発もな。忙しくなるとは思うけど頼むな」

「はい、お任せください。それと悠哉様、お願いがあります。商会の代表はアリステラ様になりませんか」

「駄目だ。アリステラには俺達が王都を離れる時には一緒に来てもらうからな」

「左様でございますか」

「ああ、それと足りない人員は人柄重視で選んで欲しい。カジノや娼館で儲けたいなんて思っていないから赤字にならない限り給料なり、待遇を良くしてやってくれ。ただ、わかっているとは思うが相場からあほみたいに高くするなんて駄目だからな。そんなのは逆に周囲に悪影響を与えるし、不必要な敵をつくるだけだしな。とにかく任せるので上手い事やってくれ」


 その他諸々の打ち合わせをした後、スコットさんは執務室を出ていった。


「あの、ノワール様達は此方へはいつお越しになるですか」


 メイド服姿のアリステラが申し訳なさそうに尋ねてきた。


「なんかなぁ、宿屋の方が居心地良いんだよな。料理も美味しいし、お酒の種類も豊富だしさ。このまましばらくは引越す予定はないな」

「そんなぁ。せっかく気合いれてお部屋の掃除も、家具も良い物を揃えたんですよ。それに皆も心よりお二人をお待ちしております。どうか、此方に住んではいただけないでしょうか」


 元騎士とは思えない、ペコリと頭を下げたお辞儀をした。


 何気にかわいいんだよな。これであの契約がなければ口説いていたかもしれない。


「検討しておくよ。まあ、俺より雪乃を説得した方が確実だぞ。全ての決定権は雪乃が握っているからな」

「そうですか。それで本日、雪乃様はどちらへ」

「なんか裁縫してたな。何を作っているのか知らないが忙しいらしい」

「そうでしたか。せめて、私だけでもお二人のお側に置いてもらえませんか。駄目、でしょうか」


 むっ、何気に仕草があざとい。これを天然でしていたら、とんでもない傑物だな。


「わかった、わかった。雪乃の所へ連れて行ってやるから、自分で交渉しろ」


 その後、アリステラの必死な交渉により、彼女の願いは成就した。が、この世界でも土下座文化があるとは思わなかった。なんとなく雪乃も引いていたような気もするし、それくらい必死な交渉だったということだ。

 








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