とある女神のとばっちり
客間に危険を知らせるベルが鳴った。
それを聞いた俺とアーシャは、サリーに言われるがままに客間の隠し部屋に押し込められた。
壁の絵画に小さな穴が空いていて、そこから外の様子が伺えた。
幾人かの叫びともとれる悲鳴が聞こえ、その声が段々と近づいてくるのが分かった。
ガチャリと音を立てながらドアノブが回る。
そしてそこに姿を現したのは、雪乃だった。
「悠哉くんはどこ。ここに居るのは分かってるの。早く連れてきなさい」
あれは、あの姿はまさしく女神様モード。
絶世の美しさの中に、人では抗うことのできない圧倒的なオーラを放っていた。
「ユキノ様、申し訳ありません。ユウヤ様はたった今出て行かれました」
サリーは産まれたての子鹿のように足を震わせながら懸命に抗っていた。見事な忠義である。
しかし、雪乃の後を追ってきたのか、アリステラ達全員がこの部屋に入ってきた。
「はあ、綺麗な人だね。あれが奥さんなの」
「しっ。静かにしてろ」
ばか妹の口を手で塞いだ。
ジタバタと暴れるが力尽くで抑え込む。
「外に逃げた様子はありませんでした」
「と、アリスが言ってるわ。サリー、あなた隠しだてすると罰を与えますよ」
雪乃の一睨みでサリーが半歩下がるも、彼女は負けてはいなかった。
「ユウヤ様はこの場にはいません」
そう必死に短く反論するサリーを見て、思わず涙した。
「ユキノ様。二人を連れて参りました」
四人全員揃っていたと思っていたが、ソフィアがスコットさんと若き幹部の男を連れて入ってくると、アーシャが突然馬鹿力を発揮して俺の腕の中から飛び出していった。
「おねえちゃん!」
凄まじい勢いで隠し扉をぶち抜くと、そのまま一直線にソフィアに抱きついた。
その勢いでソフィアは尻餅をついて、それでも抱きつくアーシャを受け止めていた。
そんな一瞬感動的な場面にも関わらず、皆が一様に俺に冷めた視線を向ける。
「そう。こいうことだったのね。それを私に、いえ、私達に秘密にしていたいよね」
史上最大。最強の恐怖を感じる。
俺は足と手に。動け、動けと命じるが、一向に言うことを聞かない。それどころか、声までも失っていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、雪乃が迫ってくる。
その美貎に怒りを滲ませながら。
彼女の手がゆっくりとこちらに伸びてくる。
俺はあまりの恐怖に気を失った。
◇
気づくと、俺とアーシャは正座していた。そしてその横には見知らぬ美女も正座している。
俺達の向かいには雪乃をはじめとした女性陣。そして、ユキナとキョウヤの姿もある。
「なあ、フレイヤ。久々に再会してとても嬉しいのだが、なぜ私は正座などしてるのだ」
「アーテナー。私も貴方と会えて嬉しく思っているわ。けれど、なぜ私にそんな嫌がらせをしたの」
「嫌がらせとは何のことだ。アーシャに関して何か問題でもあったのか。私はあの二柱の思惑通りにならぬよう、君に配慮したつもりだが」
「その娘と、私の伴侶がどういう関係か知ってるでしょう」
「関係。そんなの私は知らぬ。それにアーシャは騎士王アーサーの生まれ変わりというだけで選ばれただけだ。本来は円卓の騎士もとか、あの二柱は馬鹿げた事を言っていたが。大体、私が君に悪意を向けることなどない。私は君を一番の心友だと思ってるからな」
そんな美女の言葉に今度は雪乃が驚いていた。
「え、今、アーサーって言った」
「ああ、そう言った。彼女の魂を見てみろ。強く気高く、そしてこんなにも美しい魂はそうないぞ」
「ふーちゃん、確かにこれは見事だよ。私はこんなに美しい人の魂を見たことがないよ」
そんな会話聞いて、隣のばか妹は無い胸を突き出している。
「ユウヤ、聞いた。ぼくの魂って綺麗なんだって。ねえ、どうよ。すごいでしょ」
「勘違いすんな。魂が綺麗なだけで、お前の醜い性格が綺麗な訳じゃねえからな」
「ぼくの性格のどこが醜いのさ! ユウヤにだけは言われたくないよ!」
その言葉に反論を試みようと思ったが、雪乃の冷たい視線を感じて口を閉ざした。
「なるほどな。アーサーでも送ってユウヤを止めよう。いや、嫌がらせでもしようと考えたのか。如何にも、あの二柱が考えそうな事だな」
「ああ。しかも神の酒に酔って、過去からそのまま転移させろと馬鹿な事を言ってきおった。荒唐無稽過ぎてあの二柱の終わりを悟ったくらいだ」
キョウヤと美女がそんな会話をするが、何のことやらさっぱりだった。俺に関係ないなら解放してくれないかと思ったくらいだ。
まじで俺は被害者だということだけ理解できた。
「なあ、雪乃。俺ってつまり被害者だよな。解放してくれよ」
「そうね。被害者といえばそうなんだけど」
「駄目です。許してはいけません、ユキノ様! ユウヤ様が私達に隠し事をしていたことには変わりません」
ちっ、またアリスの奴め。毎回余計な事を。
「でも、私はユウヤ様は悪くないと思います。寧ろ、私達に気遣って余計な心労を掛けたくないと考えての事ではありませんか」
ナイス、マチルダ!
やっぱりマチルダは分かってるよな。さすがだよ。
「私もそう思います。ユウヤは優しいですから」
おおお、ソフィアまで!
キタキタキタッ、流れがきたぞ、流れが!
「そうだな。私も悪気は無かったと思う」
よっしゃあ! グレース、サンキューだぜ!
「それに、我々は桜とやらを少し気にしすぎではないか。それがたとえ初恋の相手だったとしても、今は、今の彼には関係ないからな」
そうだそうだ! 気にしすぎなんだよ!
「え、ユウヤって今でもお姉ちゃんに未練たらたらなの。あんなに綺麗に別れたのに何なのそれ。ダサ過ぎてひくわー」
そのばか妹の空気の読まない一言で流れは変わる。
「テメェ、何言ってんだ、こら! いつ俺が桜に未練があると言ったんだよ。ふざけんのも大概にしろよ!」
「へえー。ぼく知ってるよ。別れても毎月手紙のやり取りだけはしてた事を。ユウヤは案外一途なんだって見直してたのに」
ぐっはっ。これは致命傷のやつだ。
なんでそんな事、こいつが知ってんだよ。
くそっ、それよりもこの状況を早く打開しないと。
俺が反論しようと口を開いた瞬間、膝の上に居た空が吠えた。
そして俺を護るように膝の上で立ち上がると周りに向けて唸りだした。
「あああ、空ちゃん怒っちゃった。みんなユウヤくんをイジメるからなんだよ。早く彼に謝らないと知らないよう」
本当に空気の読めない。そんなアーシャが空に手を伸ばすと案の定、唸り声と共に牙を剥かれ、手を噛まれた。
「いたっ!」
「あああ、言わんこっちゃない。次に噛まれるのは誰なのかなぁ。空ちゃんに嫌われたらもう彼の部屋には入れないよねぇ」
ユキナは皆に折れるよう再度促した。
その彼女の言葉は効果覿面だった。
皆が態度を百八十度変えたのだから。
次々と俺に謝ってるのか、空に対してなのか分からないが、雪乃までもが皆と一緒に謝罪してきた。
もしかしたら空がこの中で一番偉いのかもしれない。
そんなかわいい愛犬の空の頭を優しく撫でた。
「空、いつもありがとう」
こうしてまた俺は空に助けられたのであった。
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