退路絶たれる
すみません、投稿した気になってました。
工房では俺専用艇が着々と完成に近づいていた。
工房の職人達とソフィやマギの方達の協力で、俺の理想がどんどん形になっていた。
そんな理想の船を作っている者たちと違い。俺は時折り、雪乃が語った未来を想像してその度に心に傷を追っていた。
冒険、止めようかなぁ。と、考えていると、レベの広めた噂により、救世主ノワールが単独で幽霊船を撃退しに行くという話が王都中に広まった。
俺は退路を断たれてしまったのだ。
退くに退けない冒険のスタートは既に切られていた。
「この船から未来が始まる」
ソフィがそう言って微笑む。彼女が居なければこの船は完成しなかっただろう。
そもそも、彼女が俺にスクリュー装置を作りたいと願わなければ何もかも始まらなかったのだから。
「会心の出来じゃ。わしらの叡智を褒め称えるがいい」
老紳士はその出来栄えに自画自賛を繰り返す。
「ユウヤ様。最高の出来だ。報酬弾んでくれよ!」
工房の親方はその完成度の高さに報酬アップを望む。
けれど、俺の心には刃が突き刺さって抜けない。
空を抱っこしながら、そんな船造りの様子を眺めていた。
「専用艇の名前何にしようかな」
雪乃の雪は確定。空の空も確定。
雪空。空雪。ははははは、空雪華。くうせつか。で、どうだ!
おい。誰だ。空腹か、とか。くっせえ、とか。言った奴は。やはり、雪空華。せっくうか、の方がいいのか。でも、セックスか。に間違えられないか。
こうして専用艇の名は振り出しに戻る。
「おい、小僧。ぼさっとしてないで、魔導砲の確認するのじゃ!」
ヴェリルス爺さんからは、すっかり小僧呼びが定着した。まあ、事実なのであきらめることにする。
テクテク歩いて操舵室に入り、前面のパネルボタンを押すと、船首付近の甲板デッキが両サイドに開き、そこから魔導砲がゆっくりと上がってくる。それと同時にガラス板に描かれた照準パネルを前にしたソードカトラスが台座に乗ってゆっくりと俺の目の高さまで降りてくる。何かで見たような気もする、そのスタイル。嫌いじゃない。
空を一旦下におろし、ソードカトラスを左右斜めに降ると、それに合わせて魔導砲も向きを変える。
「なに、この気持ち悪いほどの連動感。癖になる」
「良いか。照準ガラス版の横に付いているゲージが赤から緑に変わり、一番上まで昇ると魔力充填完了の合図じゃ。但し、ゲージが緑になればいつでも撃てる。その分威力は下がるがな」
かっこいい。この無駄にかっこいい要望をよくここまで叶えてくれたものだ。
「魔弾装置は抜いてある。一度狙いを定めて感触を確かめてみるのじゃ!」
適当な場所に狙いを定めてソードカトラスの引き金を引いた。すると、パシュン、と抜ける音がしてゲージが下がっていく。が、すぐにまた昇り始めた。
「一旦ゲージが下がって、また昇ったじゃろ。実射時はおそらく一番下まで下がる。だが、連射間隔は限界まで上げてある。計算上は十秒間間隔ないし五秒間間隔で撃てるはずじゃ。小僧、わしらに感謝せいよ!」
マジか。これってロマーニャの城壁も貫通出来るって言ってたよな。ヤバくないか。
「爺さん、ありがとな!」
そのヤバさに若干引いたが、一応礼は言っておく。
また前面のパネルボタンを押すと魔導砲とソードカトラスはゆっくりと格納されていく。
そのギミックに興奮しながら、足もとにいる空を横向きに抱き上げた。
操舵室から出て船から降りて、爺さんと軽く拳を合わせた。
「両推進装置の調整も粗方終わりました。後は実際に海で航行テストですね」
まだ昼過ぎということもあり、工房から海へ移動した。そしてソフィと爺さん。俺と親方の四人で乗り込んだ。空をソフィに預けて専用艇の丸いハンドルを軽く握り、前面にある舵輪でスクリューを始動し速度を定めて出航させた。
また、丸いハンドルには水上バイクの立ち乗りタイプに採用されているスロットと起動スイッチが着いている。
「推進装置の調子は良さそうだね」
「音も問題ねえです」
やばい。この短い距離でのこの加速。めっちゃ速い。
「よし、そのまま本島を一周じゃ!」
「ユウヤ、最大船速まであげてみよう!」
「ユウヤ様、れっつろーる、ですぜ!」
なにこの三人の盛り上がりは。だが、嫌いじゃない!
「これより、全速全開フルスロットルだっ!」
舵輪で最大まで速度を上げると、グングン加速していく。その海を激走する感覚が堪らない。
「ひゃっほう! 気持ちいい!」
「これ確実に速度世界一達成してますよね」
「しくじったな。速度計付けておくんじゃたわい」
「でもあれですぜ。ユウヤ様が要らないと言って付けてねえからな。ったく、損した気分ですぜ」
水上バイクなんて比べ物にならない、この速度。やばい、快感過ぎて倒れそうだ。
「ここからしばらく真っ直ぐじゃ。小僧、ウォータージェットも起動せい!」
緊張と期待で一度唾を飲む。そしてハンドルの起動スイッチをオンにして一気にフルスロットルにした。
その加速で船首か少し浮き上がる。その挙動に少しビビる。
「やばいやばいやばい。これ速すぎじゃないか」
「大丈夫じゃ。わしらの技術の結晶を信じるのじゃ!」
これは。これって海上を滑ってる。
いや、浮いて飛んでる感覚がする!
「よし、外海を向いた。小僧、魔導砲の発射準備せい!」
言われた通り、パネルボタンを押す。
「外海に向けて発射!」
「イエスマム!」
引き金を引くと、魔導砲から赤く渦を巻いた閃光が発射された。海上に轍を作るように跡を残して閃光が伸びて突き抜けていく。
「爺さん、これ危なくないか」
「大丈夫じゃろ。相手は幽霊船じゃからな。このくらいはないと駄目だと思うぞ」
つい納得仕掛けるが親方の絶句した表情をみて、これはやばいやつだと認識した。
こんな感じで無事に試験航行は終わった。
その成果に大満足していたのはソフィと爺さん。やや引いていたのは俺と親方だった。
正常なのは俺と親方の方だよな。そう、空に問い掛ける。口をペロペロしてくれたので、たぶんそうだ。正常なのは俺と親方だとちゃんと意識した。
手に余る力は身を滅ぼすってのは案外本当なのかもしれない。そう強く感じた一日だった。
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