女王の左右の影
屋敷のリビングで人払いをして雪乃とグレース。そしてマギのヴェリルス爺さんの四人で転移魔法の件で話していた。
「うん。事情は理解した。けれど、本当にあなた達は信頼に値するの。それにあなた達だけに教える訳にはいかないわよね。いつもグレースさんの側に控えているメイド達にも教えないと駄目なんじゃない」
「え、そんなメイドいた?」
「居たよ。悠哉くんの目はどんぐりなのかな」
居るのか。どうやら俺の目はどんぐりだったらしい。
「確かに不満はでるな。だが、爺さん達まで覚える必要はないだろ」
「あるんだよ。爺さんたちの歳を考えろ。グレースを追いかけたり探すのにどれだけ大変なのか考えてみろよ。少しは労わってやれ」
ここで俺の的確なフォローがグレースの心を揺さぶった。しかし。
「ねえ。悠哉くん。なにか隠してるでしょ。ちゃんと正直に話さないと、わかってるよね」
「いや、別に今作ってる船の改造に手を貸してもらいたいとか、そんなのじゃないぞ」
「ユウヤ殿下。それ自白してるのと同じじゃ」
その言葉にハッと気付くがもう遅い。言ってしまったものはしょうがない。
「頼む、雪乃。この人達が悪いことをしたらグレースがちゃんと責任をとってくれる。だから大丈夫だ!」
「と、悠哉くんは言ってるわよ」
あきれるように雪乃はグレースに確認をとった。
「待て待て。私から頼んだのならばまだしも。なんでユウヤが決めたことに、」
「おい。グレースの大切なマギなんだろ。そのくらい俺が言わなくてもしてやれよ。そんな薄情なグレースはみたくなかったよ」
俺の必殺口車に、グレースは押し黙る。
「だからさぁ。雪乃、頼むから教えてあげて」
「グレースさん、メイドさん達全てここに呼んで。勿論、マギの人達も全員」
グレースはすぐに転移をして、何回かに分けて全員を連れてきた。
そして、ずらりと壁際に列をつくってマギとメイド達が並んだ。
「血の契約書。これは神との契約であり誓約。もし、転移魔法を悪用したり、他者に伝えたりしたら、その瞬間に契約者であるあなた達は命を落とす。しかも、その魂も完全に消滅して輪廻転生する事も出来なくなるわ。その他の細かい禁止事項もこれに記されている。この契約書にサインと己の血を契約書に垂らした者のみ、転移魔法を教えるわ」
そう言って雪乃はグレースのメイドの一人に契約書を配らせた。
「俺そんな契約してないよな」
「悠哉くん以外は全員が契約してるわ」
「そっか。知らなかった」
「ええ。言ってないもの」
まあ、普通に考えたらそうだよな。悪事に利用するには最高の魔法だ。
「それに、転移魔法とゲート魔法は神代の時代の終わりに、神がこの世界から失わせた魔法なの。もっとも、あといくつかそんな魔法はあるけどね」
女神様モードの雪乃が淡々と俺に説明してくれた。そんな中で契約の同意を決意した者達が雪乃の前にあるテーブルに契約書を置いてサインをしたのちに自らの指先を噛みちぎり、契約書に己の血を垂らした。雪乃は契約書を確認すると契約者の頭に手をかざした。かざした手から放たれた白き光が契約者の全身を包む。その光が消えた時が契約が交わされたことを表していて、それと同時に転移魔法の技がその光によって授けられていた。
次々と契約を交わしていき、三時間ほど掛けてようやく全員の血の契約が完了した。
「技の知識は確かに与えた。けれど、それを使いこなせるのかはあなた達次第よ。鍛錬なさい」
そう最後に雪乃は言って、俺を残して全員を下がらせた。その顔には疲れがみえる。
「大丈夫か、雪乃。俺のせいでこめん」
雪乃が俺にもたれ掛かりやすいように肩を抱いて抱き寄せた。
「ううん。大丈夫だから謝らないで」
「でも疲れただろう」
「そりゃあ疲れるよ。私にだって代償はあるからね」
少しうつむいて、悲しげな表情をみせた。
「ごめん。俺、何も知らなくて。代償なんてあるってしって、」
雪乃は人差し指で俺の唇を軽く触れて言葉を止めた。そして少し間を置いて、笑った。
「嘘だよーん。勝手に約束してきて嘘ついた仕返しだよ。教える方に代償なんてあるわけないよ。ほんと素直だね、悠哉くんは」
「え。そういった仕返しは駄目だよ。俺の心臓に悪いから」
愉快そうに笑う雪乃をみて安心した。でも確かに教える方に、与える方に代償なんてあったら教えないし契約なんてしないよな。
「それで満足できる物は作れそうなの」
「ああ。おかげさまでね」
俺は雪乃にお礼代わりのキスをした。
「完成したら見せてね」
「え、構わないけど。見送りには来てくれないの」
「うーん。どうしよっかなぁ。そもそも勝手に女を置いて冒険に行く人を見送る必要なんてあるのかなぁ」
「映画とかだと誰にも見送られる事なく冒険に出るよな」
「でしょう。なのでそうするね。それで悠哉くんの帰りを待たずに、あなたが死んだことにして新しい恋人をつくるの。そして私は幸せに暮らすわ」
「なんでそんな意地悪言うんだよ」
「嘘ついて、ごまかそうとしたからだよ」
俺の胸にはしばらく消えない刃が刺さった。
雪乃が話した。そんな未来を想像しただけで泣き喚きたくなる。
俺はそれからたまに、そんな事が頭をよぎり、心が深く沈むことになった。
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