奴隷商
裏組織を潰すにしろ、組織のしのぎを乗っ取るにしろ人手が足りない。いや、組織を潰すのは俺と雪乃の二人で問題なく可能だ。俺達が欲しいのは大金を生む裏組織であって、裏組織の悪党どもは必要ない。なんなら悪党全員撲滅してやろうとも思っている。
そんな訳で、人材補強の為に二人で奴隷商の店を訪れたのだが……
「酷いな」
「ろくにご飯も食べさせてないみたい。みんな痩せて肌もボロボロね。しかも不衛生」
「はぁ、商品なんだろ。こんな扱い許されないだろ。なあ、お前は飯屋で一度床に落ちた飯をこれがうちの商品ですと出されて食べるのか、ん」
態度の悪い店主をぶん殴り、今現在足で踏みつけているその悪徳店主の腰をさらに力を込めて踏みつけた。
「いたっ! 許してください!」
「誰がそんなことを聞いた? 床に落ちた物を食べるのか、と聞いたんだ」
さらに力を込めてグリグリと踏みつける。
「あっ、ああああぁー! すみませんすみません、食べません!」
「だよなぁ。でも、こんな汚いものを見せられ勧めるのは、お前は俺に床に落とした飯を食えと言ってるのと同じだよな。なめてんのか、テメェ!」
あまりの怒りについ悪徳店主の腰を踏み抜いてしまった。
「やりすぎよ、ノワール。死んでしまったわ」
「すまない。こんな酷い虐待を見せられて、つい感情を怒りに任せてしまった」
俺は牢のような檻の鍵を壊し、中に入っている子供と女性に話しかけた。
「お前達全員を雇う。問題ないか」
皆、コクコクとうなずくだけで問題ないみたいだ。なので、彼女達の首についている金属の奴隷の印を壊して外した。
「ブラン、俺はこの人達が住む家を調達してくるから、その間頼めるか」
「ええ、任せて。それとこれを」
彼女は大量の金貨が入った皮の小袋を差し出した。
「いつもありがとう。愛しているよ、ブラン」
俺は彼女の頬に軽くキスをして家を調達しに向かった。
奴隷商の近くの不動産屋に入り、手頃な庭付きの屋敷を購入して、今すぐ住めるよう家具や寝具などを別途急ぎで依頼した。金の力は偉大だ。店主は店を休んでスタッフ全員で依頼を果たしてくれることとなった。
「ねえ、もう少し立派でも良かったんじゃない」
目の前の豪邸を見た一言目がこれだった。
「アリステラの屋敷より豪華だと思うぞ。っていうか、別に俺達が住むわけじゃないし、よくね」
「住まないの?」
「住みたいの?」
彼女は微笑んで、こう答えた。
「あとは結婚式だけね」
こうして既成事実は積み上げられていくのだ知った。
その後、不動産屋の店主に内装、家具の手配を依頼し、奴隷だった彼女達を屋敷に残して俺達は一旦宿屋へ戻ると、タイミングよくメイド姿のアリステラが大きな鞄を持って訪れた。
「約束通り来てくれたようで何よりだ」
「はい。それで私は二人のお世話をすればよろしいのでしょうか」
恥ずかしいのか、ややうつむいてメイド服のスカートを両手でつまんでモジモジしていた。
「なるほど。騎士をメイドにジョブチェンジすると違った一面が見られるのだな」
「か、揶揄わないでください。それより、お願いがあるのです」
頬を赤らめて、うぶなやつ。と、思っていると雪乃に頬をつねられた。
「なにかしら。彼の夜伽以外ならなんでも叶えてあげるわよ」
「夜伽っ! ち、違います! 雇って欲しい者たちがいるのです」
「なんだ。騎士も使用人も全員連れてきてもいいぞ」
「ええ、屋敷も購入し、ちょうど人手が欲しいと思っていたの」
「本当ですか。ありがとうございます!」
アリステラは深く頭を下げた。そこでふと気づく。
「髪を切ったんだな」
「はい、決意的な感じで切りました」
「美しい銀髪だったのに、もったいないな。なんか悪いことをしたな」
「いえ。それより、皆を早く仕事に就かせたいのですが」
「構わないわ。屋敷の場所を教えるので、皆を連れてそこに住むといいわ。それと、大勢の奴隷だった者たちを雇ったの。その子たちの教育もお願いね。あ、教育といっても文字の読み書きの方ね」
「大人の女性と子供達なんだ。かなり痩せているから当面は栄養のある物を食べさせて体力の回復を優先で頼む。それとまともな服とかを買い揃えてやってくれ。間違っても元奴隷だからといって虐げたり差別するなよ」
そう言って、面倒ごとを押し付けるようにアリステラにお金を渡して、屋敷のことは丸投げすることにした。それなのに彼女は去り際に嬉しそうな笑顔を見せて「さすがです、ご主人様!」と、言って去っていった。
「なあ、絶対に勘違いしてるよな」
「そうね。いずれ裏社会に君臨する大悪党なのにね」
「だよな。でも、とりあえず人は揃いそうだな」
「なら今夜もカジノで儲けさせてもらいましょうか」
悪い笑みが思わず溢れる。
屋敷を買ったお金も、アリステラに渡したお金も、ぜーんぶカジノで儲けたお金だ。全く懐は傷まない。
「そういえば他の奴隷達を残してきたけど大丈夫か」
「犯罪奴隷だし、問題ないでしょ」
「そっか。犯罪犯して奴隷落ちした奴らだし、助けてやる義理はないよな」
「そうそう。それよりも、お風呂に入りましょう。背中を流してあげるから一緒に、ね」
俺の膝の上で可愛くおねだりする雪乃のお願いをつい叶えてあげそうになる。
「駄目だよ。何もかも投げ出して、君に夢中になってしまうからね」
「こんなになってるのに?」
触れられて、つい反応して小さく声が溢れる。
それを誤魔化すように雪乃と唇を重ねた。
愛してるよ、雪乃。
でも一緒にはお風呂に入らないよ。