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神様と歩む悪党街道  作者: そらまめ


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女王の意志

 ヴェネシーア宮殿。その女王陛下の執務室には政務と外交、軍務の其々のトップが集まっていた。


「これがローマからの送られてきた書簡だが、これについての貴公らの意見が聞きたい」


 女王の政務補佐から手渡された書簡に三人は目を通すと軍務卿は吐き捨てるように意見を述べた。


「話になりませんな。それにシチリアなど殿下は貰っても嬉しくないのではありませんか」

「左様ですな。殿下自身が望んだのであれば話は別なのですが。これでは殿下を我が国から離し、殿下を取り込みたいというローマの思惑があると感じさせますな」


 政務卿の言葉にはやや怒りの感情が混じっていた。


「しかも一方的過ぎます。事前にある程度打診があったならば我が国の意思を尊重するつもりがあると理解できます。けれどこれでは我が国が断らない。いや、断れないとローマが我が国を下にみているとしか思えません」


 外務卿も他の二人と同じ感想だった。つまり、今回の件ははっきりとは言葉には出さないが、突っ返してやりましょう。ということだ。

 だがグレイシアには疑問があった。


「これは本当にシャルル王の意思か」

「かの王はやや弱腰な所はありますが、儀礼を軽視する方ではないと存じてます」

「なら、誰がこんなふざけた真似をしてくれたと考える」

「ここまでの事を宰相以外に出来るとは思えませんなあ」


 外務卿と政務卿がグレイシアの質問に答えた。

 彼女は一度天井を見上げた後に決断する。


「了承できないと突っ返せ。勿論、抗議する事も忘れるな。それとローマが撤回せぬなら戦争も辞さないと言ってやれ。戦争の準備も怠るな。それから正教会にユウヤとユキノ殿の結婚式をなるべく早く執り行いたいと伝えてくれ」


 グレイシアの指示を受け、三人は執務室から出ていった。そこに三人と入れ替わるように一人の老紳士が執務室に入ってくる。


「姫様、お呼びか」

「急にすまぬな。歩くだけでも辛い歳なのにな」

「やかましいわ。そんなに耄碌しておらん」


 グレイシアはクククッと軽く握った手で口元を隠して小さく笑った。


「随分と肌艶がいいのう。ようやく寵愛をもらったようじゃな。で、わし等になにをさせるつもりじゃ」


 グレイシアは笑いの途中で一旦咽せた。そして揶揄われた子供のように睨んだ。


「陸戦用と攻城用の魔導砲を頼む」

「敵はどこじゃ」

「ローマだ。やるとなればアドリア海沿いの都市を全て落とすつもりだ。それも三ヶ月以内に」

「はぁ、わし等に協力させておいて三ヶ月とは情けない。姫様ならもっと早く落とせるじゃろ。大体、内戦も小僧の手を借りずとも楽に鎮められたものを。男など欲するから、こんなややこしい事態になったのじゃぞ」


 中々の手痛い苦言に額を抑える。


「これだから年寄りは口煩いと言われるのだぞ」

「やかましいわい。今回は協力してやるから感謝せい」

「今回も、な。いつも助かるよ。ありがとう」

「ふん。やるからには無様な姿を晒して、わし等を落胆させるんじゃないぞ」

「ああ。じいさん達の寿命が縮まないよう働くさ。期待しておけ」


 グレイシアのその言葉を聞いて老紳士は執務室から出ていくと、彼女はまた天井を見上げた。


「ふうっ、これで回避できるな。さすがに一ヶ月無しは耐えられんからな」



 ◇


 温厚なシャルルが珍しく激怒していた。

 自分が寝込んでいる間にヴェネシーアにあんな失礼な申し出をした事にだ。


「私に許可も取らずに勝手な真似をした宰相とその関係者を取り押さえろ! それとエリザを離宮に閉じ込めておけ。それと二度と出さないと脅すのも忘れるな! いいか。私に断りもなく、こんなふざけた真似は絶対に許さない。問答無用で宰相家は取り潰しの上、全財産没収せよ。それで私に対し叛逆の芽が出てくるのであれば容赦なく叩きつぶせ!」


 怒りに任せて机を叩く。

 命じられた近衛が下された命を実行するために急いで執務室から去っていく。


「こんな礼を失する真似をするとは。私の首などどうでもいい。だが、国の。ローマの威信を汚すことは断じて許さん」


 ローマは元来、思想も含めて強固な戦闘国家だ。故に、このロマーニャから西のイベリア半島までの大陸を支配している大国なのだ。

 だからといってそこに奢りはないし。また併合した地を一方的に従わせたりなどはしない。あくまでもその地の風習や文化を尊重した寛容な統治をしている。味方には寛容。敵には苛烈に。を、地でいく国家なのだ。


 大体、シャルルが寝込んだ理由は何もユウヤに殺されると怯えたことが原因じゃない。唯一の友人とも呼べる、その彼に失礼な事をしたと悔やんだからだ。まあ、政務などの疲れもあってなのだが。


「また暫く忙しくなりますね」

「全くだ。こうも勝手に一人に色々とやられるのも困りものだ。宰相という役職は撤廃する他ないな」

「しかしここで政務の柱を失い、それを補うとすれば時間は掛かります。それでも、貴族に拘らず優秀な文官の登用を増やすしか手はありません。それこそヴェネシーアのように」


「暫くの間、私が忙しくなるのはいい。とにかく時間を掛けてでも、信頼できる優秀な者を登用して育てあげてくれ」

「それと別になりますが。こちらからヴェネシーアに撤回の書簡を送りますか」

「いや。あちらも文句の一つや二つ言っておきたいだろう。返答が来てから謝罪と撤回をする。そういえばジブラルタルの件はどうなった」

「はい。そちらは既に総督を捕えてあります。ただ後任がまだ決まってありません」

「そうか。若くてもいいから、穏健派の信頼出来る指揮官クラスから選んでくれ」


 そう自分の補佐官に命じて立ち上がるとシャルルは窓から外を眺める。


「いつになったら落ち着いてくれるのだろうか」

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