重なる想い
ややお疲れの俺を心配して、ソフィアがデートを明日にしませんかと提案してきた。その思いやりに報いるために、俺は全力で回復に努めた。
そして迎えたデート当日。桜色のドレスを着たソフィアの姿に、何故か俺の方が照れてしまった。
きがちなくマチルダの時とは違うレストランに入り、彼女を席にエスコートするが何故か緊張を隠せないでいた。
「ここもジブラルタルでは有名な名店だそうだ。特に豚肉料理が絶品だと聞いた」
「それは楽しみですね」
微笑む彼女にまた緊張する。
何故だ、何故そんなに緊張してるんだ、俺は!
そう心の中で叫ぶも事態は一向に良くならない。
出された豚肉料理をソフィアに取り分けてもらい、それを口に運ぶもフォークが揺れて皿に落としてしまった。
「ごめん。なんか緊張してる」
まるで高校生に戻ったような感覚に陥いる。
「やっぱりそうでしたか。なんか普段とは違って、かわいいなって思ってました」
軽く握った手で口元を隠してながら彼女は愉快そうに笑った。そんな彼女に顔を背ける。
「そんなに笑うことないだろ。揶揄うなよ」
もはや高校生の会話だった。
「ごめんなさい。でもそんなユウヤ様も素敵ですよ」
顔を背けたまま抗議を続ける。
「ふん。笑うなら笑えばいい。けど、様はやめてくれ。呼び捨てにしてくれても構わないから」
「その方がいいのですか」
「君に様付けされると死にたくなる」
「なら、ユウヤと呼ばせてもらいますね」
ああ。と言って今度こそちゃんと豚肉を食べる。その味、その美味しさに声をあげる。
「ソフィア、マジで美味い。ほら、お前も食べてみろ」
やや乱暴に豚肉をフォークで刺して、勢いに任せたまま食べさせた。
彼女は手で口元を隠しながら咀嚼して呑み込むと、笑って美味しいと言ってくれた。その笑顔に嬉しくなって冷やしたエールを一息に煽る。
「だろう。美味いんだよ、それ」
葉野菜と一緒に食べながら、意味もなく自慢げに話した。
「なんかいつもユウヤが食べているような言い振りですね」
「いや、初めて食べたが。この店を選んだのは俺だからな。多少は自分を褒めてもいいだろ」
「子供みたい。本当におかしな人」
「うるさい。それよりソフィアもちゃんと食べろよな」
とてもお姫様と、二十歳を超えから転生してきた男との会話には思えない。
そんな微笑ましい食事風景は穏やかに続く。
「私はそんなに似てますか」
この世界の女性は、物事を男性に唐突に訊いてくるのだろうかと、一瞬困惑しながら頭の片隅を掠めていく。
「どうだろうな。似てるのかもしれないし、似ていないかもしれない」
「それは答えになってません」
それを口にしていいのか考える。
そして結論をだした。
「初めて見た時に見間違えたのは確かだよ。そして、たまに面影が重なることもある。けれど、桜だと思ってソフィアを見たこともなければ。桜だと思って接したことはない。俺がソフィアに惹かれたのは。その純粋さと、真っ直ぐに直向きに前へ進もうとする想いだったり、その姿勢だったりとかで。ああもう、訳わかんねえ。けど、だからって俺は、一度だって似ているからといって、ソフィアを桜だと思ったことはないから!」
熱くなって、やや声を張りあげてしまった。そんな行為をごまかすようにエールを煽る。
「そうですか」
「ただ、ソフィアといると等身大の自分で居られる。変に大人ぶることも、変に賢く振舞うこともない。自分で居られる」
「ユキノ様と居るようにですか」
「そう。ただそれより甘酸っぱい感じがしてしまう。雪乃に全てを安心する気持ちとは少し違う。上手く言えないけど、そんな感じ」
ふーん。といって何かを探るように下から覗きこむような視線をソフィアは向けていた。
「つまり、私のことを好きなのですね」
くっ、なんだこの立場が微妙に逆転した感じは。
「つまりユウヤは、私のことを愛してくれてるのですね」
「大好きだし、愛してる。だから、一生俺の傍にいろ。その代わり、俺の全てを掛けて全力で幸せにしてやる」
「約束だよ」
「ああ、約束する」
「そっか。じゃあ、食事を続けようか」
こ、こいつ。わざとやったな。やってくれたな。
歳下ムーブとか強かな駆け引き。流石はあのグレースの娘だ。しっかり尻に引かれること確定じゃねえか!
それになんでそんなところも、桜に似てんだよ!
食事も愉しく終わり、二人で緊張しながら宿の部屋のドアを開ける。
そそくさと風呂にいくソフィアの後ろ姿に決意する。
絶対にベッドの上では負けないと。屈服させて逆転すると胸に強く誓う。
「私、はじめてだから、優しくして」
恥ずかしさで頬を赤らめ、やや斜めに顔を背けるソフィアに心を撃ち抜かれる。
緊張からぎこちなく震える手を必死に動け、もっと滑らかに動けと心の内に叫ぶ。
彼女に負担を掛けないように、徐々に慣れていくように気を配りながら、優しく彼女を大切に包み込むように抱いていく。




