アリステラの告白
薔薇を動かす練習をしようと甲板デッキに出ると、夕日を眺めながら手すりに手を添えて黄昏ているアリステラがいた。
そんなアリステラに悠哉は声を掛けた。
「どうした」
それは短くとも穏やかで優しい声色だった。
「申し訳ありません。私はユウヤ様に対して不徳な事をしてしまいました」
そう神妙に話すアリステラの目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「不徳とはなんだ。そんな事をしているようには、俺には見えないけどな」
少し黙ったまま、彼女は意を決したように告白した。
「もしかしたら、私には膜がないかもしれません」
悠哉は一瞬何のことだと、短く頭の中で考えを巡らせる。
「ああ。それか。まあ、激しい運動しても破れるというし、幼い頃から剣の修行を真面目にしていたアリステラならあり得るよな。でも、それがどうした。一生懸命自分の道を研鑽し続けた上での事だろ。寧ろそれは誇ることだと思うぞ」
その悠哉の暖かい言葉にアリステラは更に泣きそうになる。
「悠哉様は嫌ではないのですか。がっかりしないのですか」
悠哉はポンとアリステラの頭に手を乗せて微笑んだ。
「しないよ。寧ろ好きになる。だから、そんな顔をするな」
悠哉はそう言って彼女の頭を優しく労わるように撫でた。
そんな思いがけない優しさを向けられたからなのか、アリステラは泣きながら悠哉の胸に飛び込んだ。そして悠哉は彼女を優しく包み、彼女の背を撫でる。
「いいか。どんな事があったとしても、俺はアリステラを嫌いになったりしない。アリステラがいつも一生懸命なのは、俺が一番よく知っているからな」
顔をあげたアリステラの唇に、悠哉は自分の唇を重ねた。
そしてゆっくりと二人の唇が離れる。
「愛しているよ、アリステラ」
その一番聞きたかった言葉に今度は嬉しくて涙を流す。その悠哉の言葉に応えるようにアリステラは今度は自分から悠哉の唇に自身の唇を重ねた。
綺麗な茜色の夕日に照らされた、二人が唇を重ねたシルエットは、多くの人に暖かく見守られていた。
そしてその夜。二人は身体を寄せ合い、そして深く互いの身体を重ねあった。
◇
「悠哉くん。とうとうしちゃったね」
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「まあ、アリスの気持ちを思うと嬉しいよ、私は」
少しくらい、やきもち焼いてくれてもいいのに。と思いながら会話を続けた。
「しかし、あんなに多くの人に目撃されていたとは思わなかったな。皆んなに冷やかされるし、散々だよ」
「いいの。それくらいの気持ちになったってことだよ。周りが見えないくらいにね」
その言葉が胸に刺さる。
「だってさぁ。一生懸命に剣の研鑽を重ねた結果だろ。それを俺の為に悔やんで悲しむなんて」
「ほんと、悠哉くんは優しいよ。それに、真っ直ぐに人を見て、決して悪く思ったりしない。ほんと、素敵だと思うよ」
「そうか。悪党には悪く思うぞ」
「それはそれだよ」
そんな雪乃の微笑みに見惚れていると、彼女が唇を重ねてきた。
そのまま彼女を寝台にゆっくりと倒す。
彼女片方の手を握り、唇をゆっくりと離した。
「まだ、お昼だよ」
「そうだな。けれど。今、君が欲しい」
彼女の美しい首筋に口づけをして、そのままゆっくりと胸元に唇を移す。
互いの空いた手が大切な場所に触れあう。
互いの短い吐息だけがその場を静かに支配していく。
そして互いに堪えきれなくなった二人の身体が一つに重なりあった。
互いに名を呼び。そして愛を囁く。
こうして二人は何度も何度も抱き合い。やがて二人で朝を迎えた。
「朝だよ。というか、朝なんですけど」
「どうりでお腹が空くわけだ」
「ハムのサンドイッチならあるよ」
「うん。食べたい」
雪乃は裸のまま脇のテーブルに皿を置いてハムのサンドイッチを並べた。
「船が揺れてるから早く食べないと床に落ちちゃうよ、ほら」
親切に悠哉の体を起こしてから、サンドイッチを食べさせた。そして、お水も飲ませる。
「ありがと。雪乃はやっぱり優しいな」
「ダメだよ。そんなことで騙されませーん。自分でちゃんと食べてください」
そう言っておきながら雪乃は、悠哉の口にサンドイッチを優しく放り込んだ。
「まったく甘えん坊なんだから」
そう言って軽く笑うと、自身もサンドイッチを口にした。
「かわいいね、雪乃は」
「なあ、このままジブラルタルまで二人が出てこない、なんてことはないよな」
「過去を考えれば十分にあり得ます。二人は、最長五日の記録持ちですから」
そのアリステラの言葉を聞いて、思わず額を抑えた。
「別に他に迷惑も掛けてないですし、気にする事はないかと思います」
「随分と余裕そうだな。経験を済ませると、ここまで変わるものなのだな」
「変わっていません。経験上、このような事に慣れてるだけです」
いやいや。普段ならあっさり煽られてるだろう。
彼女は自信を得たということか。
しかし、あの三人の会話がここまで彼女にミラクルを起こすものか。大体なんで、ユウヤはそこで剣の修行で破れたと思うのだ。おかしいだろ。
「それでどうだった」
「どうだった、というと」
「ユウヤに抱かれた感想だ」
その質問に彼女は頬を赤らめるが動揺したりしなかった。そんな彼女の成長を感じる。そして、女とは男と結ばれる事でこんなにも変わるのだ思い知った。
「素敵でした。不得手な私を優しくリードしてくれましたし、とても愛を感じました」
自分の時とは違う事に自然と軽く嫉妬する。
なんでもっと早く転生して来なかったのだと、心の中で叫んでみたりもした。
「それは良かったな。私もそうして欲しいと願うばかりだ」
「ユウヤ様なら、必ずそうしてくれますよ」
だといいな。と、思いながら、私は窓に視線を移し海を眺めた。
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