旗艦グレイシア
ジブラルタルへ行くために軍港に着くとそこで目にした新型艦に感嘆の声をあげる。
ヴェネシーア女王陛下のその名を冠した旗艦グレイシアは現行の軍艦よりも大きくはないもののマストもなく、とても洗練された美しいフォルムになっていた。例えるならば艦橋や煙突の無い木造大和みたいな形だ。
「戦艦は大和しか知らないが、そんな感じだな。とても美しくて威厳がある」
「全然違うけどね」
「まあまあ。しかし、どうだ。すっかり変わっただろ。うちの技術者も素晴らしいとは思わないか」
階段で旗艦に乗り込み、デッキの上を歩きながら雪乃とグレイシアと共に艦を見学した。そして軍港から離れた海上にバカンスに行った時に乗ったマストの無い新型艦を見つけた。ちなみにあちらはソフィアの名を冠している。
「バカンスに行った時のはあれか。もしかしてタイプ違いを同時に開発していたのか。スゲェな」
「そうだ。こっちはユウヤとソフィアの開発したスクリューを元に、私の技術者達が設計開発していた。バカンスから戻ってくるまではマストも付いていたのだがな。バカンス中にこの新型艦に私の名を冠すると決まった瞬間、技術者達が張り切りおった。本当に笑える。出来るなら最初からやれとな」
確かにマストの土台の跡のような物がデッキの上に残っていた。そして戦艦前部にたぶんスライド式であろう開閉部を目にした。
「ここって、あれか。大砲が出てくる所か」
「そうだ。新型爆裂魔導砲改だ。実践テストで使用した時よりも範囲を広めて、その分威力を落としている。あれは流石に威力が強すぎるからな。仕様を変更した」
「うん。その判断は間違ってないと思うよ。流石だね、グレース」
「あははは、ユキノ殿に褒められるとあれだな。緊張するな」
「殿とか様は要らないって何回も言ってるでしょ、もう」
ユキナが名を言ってから距離は変わらないが、呼び方だけは皆ギコチなくなっていた。ある者を除いて。そう。場違いなメイド服を身に纏い此方に走ってくるアリステラだ。
「遅くなり申し訳ありません!」
「アリス。走ると転ぶわよ」
予言が的中するようにアリステラは足を滑らせて盛大にスカート中身を俺達に披露した。
「相変わらずの布面積だな」
「あの僅かな一瞬でしっかり見てるのだな」
「悠哉くん、目が良いしね」
パッと身を起こし、真っ赤な顔で女の子座りをすると素早くスカートで脚を隠した。
「これはユキノ様が私に作ってくれた大切な下着なのです!」
「まあ、未だにアリステラとマチルダ。アンヌの分は雪乃が作ってるもんな。大切にしろよ」
アリステラの方に歩み寄り、俺は手を差し出して彼女を立たせた。
「ありがとう、ございます」
「なんだ。照れてるのか。今更しおらしくしても無駄だぞ。お前の正体は看破してるからな」
「どんな正体ですか! 変なことは言わないでください!」
「天然あざとキャラ兼、隠れむっつりスケベの露出狂だ」
彼女はひどいですよ! と言って俺の胸をポカポカ叩いた。
そして時間通りに出航して、十四隻の軍艦に囲まれながらジブラルタルを目指した。
◇
海は広大だ。どこまでも広く、どこまで青い。
波に揺れる旗艦グレイシアのデッキの手すりに掴まりながら、俺は青褪めた顔で海に吐いていた。
地中海に出てから揺れが酷くなった。船酔い体質の俺には厳しい環境だった。
そんな俺を甲斐甲斐しく介抱してくれている雪乃から何度目かのハンカチを手渡された。それで口を拭くと手すりに背を預けるように座り込んだ。
「大丈夫。やっぱり魔法かけてあげようか」
「いや。今後の事も考えて慣れておきたい」
「そう。無理しないでね」
「ああ。雪乃との豪華客船の船旅の為に頑張るさ」
人は環境に慣れる生き物だ。絶対に克服してやる。
「総員艦内に入り戦闘準備だ! 海賊狩りの時間だ!」
俺と雪乃もブリッジに上がり、グレース達と合流した。
「この旗艦グレイシアの実戦テストだ。相手は逃げてるようだが逃がさん。単艦での海賊討伐をするぞ。全員配置につけ!」
「これより旗艦グレイシア。全速航行へ移行。十時方向の敵に向けて全速前進を開始せよ!」
グレース、艦長と続く号令で旗艦グレイシアの速度が徐々に加速する。体験した事ないその速さに船酔いを忘れて興奮した。そしてあっという間に見えなかった海賊船の姿を捉える。
「第一、第二砲門発射準備!」
船体前方の両側面から大砲がゆっくりと出てくる。そのギミックのかっこよさにブリッジの窓に両手をつけて食い入るように見た。
「男の子だね」
「そうだな。あれはあれでかわいいな」
「ユウヤ様。あまり興奮して前に出ると、皆さんの邪魔になりますし危ないですよ」
そうアリステラに腕を引かれて元の位置に戻された。
「貫通魔導砲の射程距離に入ります!」
「よし、第一、第二魔導砲。敵、海賊船に向けて砲撃開始!」
両側面の二門の魔導砲から放たれた赤い閃光が海賊船を貫ぬくと炎を伴って大爆発した。
さながら宇宙戦記のようなビーム砲に大興奮する。
「ビーム砲かっけえ。マジすげえ。かっこよすぎて鳥肌立っちまったよ!」
「ビームじゃないけどね」
「ビームとやらは知らぬが。あれは火属性の貫通魔法だぞ。ユウヤ」
「なあ、雪乃。あれ欲しいよ! あれの銃とかかっこよくないか。なあなあ、欲しい欲しいよ!」
俺は雪乃の腰に縋りついて必死にお願いした。
「私のライフルの邪魔をしないなら作ってあげるよ」
「しないしないっ! 絶対にしないから!」
雪乃のお腹に頬をすりすりしながらお願いする。
「しょうがないなぁ。どんな形がいいの」
「ううう、悩む。ライフルみたいなのは雪乃とかぶるし。うううぅ、あれだ! 周りに浮かんでビーム出すやつ!」
「あああ、あれね。作れなくはないけど魔法操作がとても難しいと思うよ」
「大丈夫! たくさん練習するよ! ありがとう!」
俺は雪乃のお腹に顔を埋めて、すりすりしながらお礼をした。
そして想像する。自分のかっこいい姿を。




